裁判年月日 令和 3年 2月16日
裁判所名 大阪地裁
裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)8834号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容
上訴等 控訴(後控訴棄却)
主文
1 被告は,原告に対し,33万円及びこれに対する平成29年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを20分し,その17を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,226万4948円及びこれに対する平成29年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被告の設置,運営する大阪府立a高校(以下「本件高校」という。)に在籍していた原告が,本件高校の教員らから,頭髪指導として,繰り返し頭髪を黒く染めるよう強要され,授業等への出席を禁じられるなどしたことから不登校となり,さらに不登校となった後も名列表(点呼等に用いられる生徒名簿)から原告の氏名を削除され,教室から原告の机と椅子(以下「原告席」という。)を撤去されるなど不適切な措置を受けたために,著しい精神的苦痛を受けるなどの損害を受けた旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項又は債務不履行(在学法律関係上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償として,226万4948円及びこれに対する不法行為後又は履行期後の日である訴状送達の日の翌日である平成29年10月3日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
当事者間に争いのない事実のほか,後掲の証拠(枝番号のあるものは枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 被告及び本件高校について
被告は,普通地方公共団体であり,本件高校を設置,運営している。
イ 原告について
原告は,平成11年○月生まれの女性であり,平成27年3月,b市立c中学校(以下「c中学校」という。)を卒業し,同年4月1日,本件高校に入学した。原告は,平成30年3月,本件高校を卒業した(甲1)。
ウ 本件高校の教員らについて
後記(ア)ないし(キ)の各人は,平成27年4月から平成28年3月までの間,本件高校の教員として,後記の各地位にあった。
(ア) D 校長(以下「D校長」という。)
(イ) E 教頭(以下「E教頭」という。)
(ウ) F 平成27年度 1年生学年主任
平成28年度 2年生学年主任
(以下「F主任」という。)
(エ) G 生徒指導主事(以下「G教諭」という。)
(オ) H 生徒指導担当(以下「H教諭」という。)
(カ) I 平成27年度 原告の1年生の学級担任
平成28年度 生徒指導担当
(以下「I教諭」という。)
(キ) J 平成28年度 原告の2年生の学級担任
(以下「J教諭」という。なお,平成27年度も本件高校の教員であったが,原告との関わりはなかった。)
(2) 本件高校における校則及び指導方針
ア 本件高校が生徒に交付している生徒手帳及び保護者に配布している「入学生徒の手引き」と題する冊子には,生徒心得として,「頭髪は清潔な印象を与えるよう心がけること。ジェル等の使用やツーブロック等特異な髪型やパーマ・染髪・脱色・エクステは禁止する。また,アイロンやドライヤー等による変色も禁止する。カチューシャ,ヘアバンド等も禁止する。」との記載がある(甲8,9。以下「本件校則」という。)。
イ 本件高校では,頭髪検査の結果,本件校則に違反していることが認められた時は,原則として,4日以内に手直し(地毛の色に染め戻すこと)をしなければならないこととされ,それがされない場合や不十分な場合は,さらに4日以内に手直しをしなければならないこととされている。また,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされている(以下「本件指導方針」という。)。本件指導方針は,生徒の入学時や頭髪検査実施時などにおいて,生徒に対し,説明がされている。(甲10,証人E)
(3) 原告に対する頭髪指導等
ア 本件高校の教員らは,平成27年3月末頃,本件高校への入学を控え,生徒証に貼付する写真を撮影するために本件高校に来校した原告に対し,頭髪を黒く染めるよう指導した。また,原告は,平成27年4月に本件高校に入学した後も,H教諭をはじめとする複数の教員から,複数回にわたり,頭髪を黒く染めるよう指導を受けた。原告は,上記各指導の後,いずれも指導に従って頭髪を黒色に染めていた。
イ 原告は,平成28年4月,2年生に進級したが,その後も,複数の教員らから頭髪を黒く染めるよう指導を受け,最終的に頭髪を黒く染めていた。原告は,同年7月に行われた一学期の終業式の際,頭髪を黒く染めるよう指導を受けたが,夏休み期間中の同月27日,頭髪を明るい茶色に染めて登校し,H教諭から,数日中に頭髪を黒く染めるよう指導を受けた。
原告は,同年8月22日の始業式の日,頭髪を染め直して登校したが,複数の教員から,染め戻しが不十分であるとして,頭髪を黒く染めて登校するよう指導を受け,さらに,同月26日,同月30日にも同様の指導を受けた。さらに,原告は,同年9月6日及び8日,F主任らから指導を受けた際,頭髪指導に従わないのであれば,別室指導となり,普通に教室で授業を受けたり,他の友人と共に文化祭に参加したりすることはできない旨告げられ,帰宅した。
(4) 原告の不登校及びその後の経過等
ア 原告の登校状況
原告は,平成28年9月9日以降,本件高校に登校していない。
イ 原告の母らの抗議等
原告及びその母は,平成28年9月21日頃以降,本件高校に対し,原告訴訟代理人弁護士(以下「原告代理人」という。)を通じて本件高校における原告に対する頭髪指導に抗議するとともに,頭髪指導によって原告が登校できなくなっているとして環境の改善を求め,以降,原告の母親及び原告代理人と本件高校の教員らとは繰り返し意見を交換し,原告の登校について協議するなどした。
ウ 原告の修学旅行の不参加及びその後の経過等
(ア) E教頭は,平成28年9月下旬頃,原告や原告の母に対し,原告が頭髪指導に従わない場合には,修学旅行に参加しても他の生徒とは別行動にする旨及び修学旅行に参加しない場合はキャンセル料の発生期限が迫っている旨を告げた。
(イ) 原告は,平成28年10月15日から同月18日まで実施された本件高校における修学旅行に参加しなかった。
(ウ) 本件高校は,原告に対し,平成28年11月17日,原告が積み立てていた修学旅行積立金11万円からキャンセル料等5万6368円を差し引いた5万3632円について,原告の母の預金口座に送金する方法により返金し,原告に通知した。なお,上記通知を入れた封筒には,原告の氏名が「K」と誤記されていた(甲15)。
エ 原告における医療機関の受診
原告は,平成29年1月13日,同年3月7日及び同年4月13日,d脳神経外科病院を受診し,MRIによる画像検査を受けるなどして,治療費2580円を支払った(甲17,18[いずれも枝番号を含む。])。
オ 原告の進級及びその後の経過等
(ア) 本件高校は,平成28年10月頃以降,原告に対して課題を交付し,原告が3年生に進級するための出席の代替措置を講じた。原告は,これらの課題を達成し,平成29年4月,3年生に進級した。
(イ) 本件高校は,原告が3年生に進級した後,原告に対して生徒証を交付し,3年5組で出席番号が32番である旨告げた。当時,実際には,3年5組の出席番号32番には他の生徒が在席しており,教室に原告席は配置されておらず,名列表には原告の氏名が記載されていなかったが,これらの事実は原告や原告の母には伝えられなかった(甲19,20)。
(ウ) 原告,原告の母及び原告代理人は,平成29年6月15日,事前に本件高校の校長に連絡をしたうえ,登校回復に向けて教員との面談を行うために本件高校を訪れた。その際,原告は,本件高校の玄関に設置されていた名列表の3年生の欄に原告の氏名の記載がなく,教室にも原告席が設置されていないことを認識した。
3 本件の争点
(1) 本件校則及び本件指導方針の違法性の有無
(2) 本件高校における,本件校則に基づく原告に対する頭髪指導につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無
(3) 本件高校における,原告が登校をしなくなって以降の措置につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無
(4) 原告に生じた損害の額
4 争点に対する当事者の主張
(1) 本件校則及び本件指導方針の違法性の有無
(原告の主張)
ア 違法性の判断基準について
人が頭髪についてその色を含めた髪型をどのようなものにするかを決定する自由(髪型の自由)は,自己の個性を実現させ人格を形成するために必要不可欠な権利として憲法13条に保障される人格権ないし自己決定権に含まれる。公立高校において,校則で染髪等を禁止し,あるいは校則違反をした生徒に対して生徒指導として黒染めをさせることが正当化されるのは,それが真に教育目的に基づくものであり,その必要性,相当性がある場合に正当行為として違法性が阻却されるからである。したがって,学校の生徒に対する頭髪規制や黒染め指導が正当化されるのは,@染髪等を禁止する校則の存在,A当該校則が真に教育目的により制定されていること,B生徒が校則違反をした事実,C当該校則違反をした生徒に対する頭髪指導が教育目的によるものであること,D当該生徒指導の内容・方法が教育目的との関連性を有しており,かつ当該手段を採らなければならない必要性,相当性が認められる場合に限られる。
イ 本件校則の目的及び内容について
本件校則の目的について,本件高校の教員らが,本訴提起前には学校の評判を守るためであると説明していたこと,本件高校では生徒が染髪等してもその理由を聞かず,専ら頭髪の色に着目して頭髪指導を行っていること,本件高校の教員らが原告に対する黒染め指導について教育的観点からの利益がほとんどないとか教育目的を考えていないと述べていることからして,志願者数増加等の学校の利益を目的としていることは明らかであり,生徒のためでないことは明白であって,本件校則の目的は,教育目的によるものとはいえず,違法である。
また,髪型に関する関心と勉強やスポーツに対する関心は両立し得るものであって,髪型に興味を持つ者が勉強やスポーツに関心を持たなくなるというものではない。かえって,本件校則及び本件指導方針に基づく頭髪指導を行うことで,勉学やスポーツに意識が向くどころか黒染めばかりに意識が集中し,頭髪指導を受けた生徒の多くが退学に負い込まれるという事態が生じているのであり,本件校則の頭髪規制は教育目的とは矛盾しており,不合理である。
また,ドライヤーによる熱変色を校則違反とすること自体,一般的身辺事項を禁止することに等しいし,時代の変遷にともない茶髪に対する社会の評価が変わってきており,現代社会においては茶髪を理由に社会的に悪評価を受けるものではないことは顕著な事実であるにもかかわらず,太陽の当たる場所で茶色く見えてはいけないといった極端な黒髪を強要することは合理性を欠く。
ウ 本件指導方針について
本件指導方針は,4日に一度という異常な頻度で頭髪指導を行う内容となっていること,頭髪の黒染めを繰り返すことで頭皮障害等の健康被害がもたらされ,かえって頭髪の脱色が進んでしまうこと,頭髪指導を拒否した場合に出席停止まで認めるという比例原則にも反した内容になっていることなどからすれば,本件指導方針は,教育目的との関係で著しく不合理なものであることは明らかである。
エ 小括
したがって,本件校則の目的は教育目的によるものといえず違法であるし,仮に被告が主張する本件校則の目的を前提としても,頭髪規制は教育目的との関係で合理性を有していない上,本件指導方針の内容も著しく不合理であるから,本件校則及び本件指導方針は違法である。
(被告の主張)
ア 違法性の判断基準について
高等学校は,生徒の教育を目的とする公共的な施設であり,法律に格別の定めがない場合でも,学校長は,その設置目的を達成するために必要な事項を校則等により一方的に制定し,これによって在学する生徒を規律する包括的権能を有する。そして,学校長のこのような包括的権能に基づき制定された校則等は,その内容が社会通念に照らして合理性がある限り,違法とはならないというべきである。
イ 本件校則の目的及び内容について
本件校則は,生徒の関心を頭髪や服装等ではなく,勉学やスポーツに向けさせ,勉学やスポーツで自己実現を図らせて非行の防止等につなげる目的で定められているものであり,教育的目的に基づくものである。このような染髪等を禁止する校則は,他の府立高校でも設けられており,一般に生徒,保護者などにも受け入れられていて,社会通念にも反しておらず,合理性を有する。
本件高校は,開校時に地元地域から良くない高校と見られていた中で,生徒に対する頭髪指導等の生活指導に力を入れ,学校のイメージを改善,払拭してきたという歴史がある。本件高校の教員らは,原告代理人と面談した際に,上記のような経緯から学校のイメージという言葉を口にしたに過ぎず,本件校則の目的が本件高校そのものの利益のためにあるということを述べたものではない。
ウ 本件指導方針について
本件校則は染髪等を禁止しているところ,その教育目的を達成するためには,違反した生徒の頭髪を地毛の色に染め戻す必要があり,本件指導方針では,染め戻しのために4日という適切な猶予期間を設定している。実際にも,状況に応じて何度も染めることを繰り返さないよう助言等の配慮を行っていること,頭髪に異常等があれば無理に染め戻しを強いるものではないことなどからしても,本件指導方針は教育目的との関係で合理性が認められる。
そして,本件指導方針において,頭髪の色落ちが生じた場合に染め戻しの指導が予定されていることについても,客観的に見て色落ちと染髪の画一的な判断は困難であること,色落ち状態を放置すると,他の生徒が不公平感を抱き,当該生徒をいじめたり,頭髪指導に従わなくなるなど本件校則による秩序が保てなくなる恐れがある上,意図的に色落ち状態を誘発するなどして本件校則を潜脱することが可能になることなどから,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,染髪した頭髪が色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされているものであって,合理性がある。
エ 小括
したがって,本件校則は,教育目的達成のために定められたものとして合理性があり,頭髪規制に係る本件指導方針も教育目的との関係で合理性があるから,適法である。
(2) 本件高校における,本件校則に基づく原告に対する頭髪指導につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無
(原告の主張)
ア 本件高校における2年生の一学期終了(平成28年7月)までの頭髪指導等について
(ア) 原告は,生来的に頭髪の色素が薄く,外的要因の影響を受けやすい髪質であり,幼少期から地毛自体が茶色いという身体的特徴がある。原告の幼少期の写真の内容,原告が本件高校に入学するにあたって原告の母親がI教諭に対して原告の地毛は茶色であり本件高校に地毛登録制度があれば申請したい旨を伝えていたこと,本件高校の教員らは本訴提起前には原告の頭髪の地毛が茶色であると認めていたことなどに照らしても,原告の生来的な地毛の色は茶色であり,本件高校の教員らがこれを認識していたことは明らかである。
そして,原告は,本件高校の入学後,2年生の夏休み(平成28年7月)に地毛に近い茶色に染髪するまでは,黒染め以外の染髪をしたことはなく,本件校則に違反したことがなかったにも関わらず,本件高校の教員らは,1年以上の間,過去に黒染めした頭髪が色落ちしてきたというだけで原告に対して黒染めを強要したものであって,このような頭髪指導は,教育目的との関連性がなく,合理性を欠く。
(イ) 原告は,一連の頭髪指導によって頭皮障害等の健康被害が生じている。原告の母親は平成28年4月等に,健康被害が生じるような生活指導はおかしい旨を本件高校に伝えており,原告は,遅くとも2年生のゴールデンウィーク頃(同月下旬から同年5月上旬頃)には,理不尽な頭髪指導が原因で精神的に著しく不安定になり,朝から泣いているような状況であったにもかかわらず,原告に対する頭髪指導はその後も継続された。加えて,J教諭は,同月2日,頭髪指導に際し,「母子家庭やから茶髪にしてるんか」などと言って,原告の家庭環境が母子家庭であることを誹謗中傷した。このような頭髪指導の態様は,原告の健康状態を無視したものであり,原告の健全な成長発達を阻害し,その人格形成に重大な悪影響を与えることが明白であるから,その態様や方法等が著しく不合理であり,相当性を欠く。
イ 2年生の夏休み(平成28年7月)以降の頭髪指導等について
(ア) 本件高校の教員らは,原告が2年生の夏休み(平成28年7月)に地毛に近い茶色に染髪したことにつき頭髪指導をし,原告が同年8月22日に社会通念上黒色と評価される色に頭髪を染めして登校したにもかかわらず,黒染めが不十分であるなどとして,原告に対し,同日から同年9月8日までの間に,合計5回,4日に1度という異常な頻度で繰り返し黒染めを強要した。これは単に原告の心身に健康被害を与え,原告世帯の家計を圧迫し,原告の頭髪の色をどんどん脱色させるだけの効果しかない。
(イ) また,原告は,遅くとも2年生のゴールデンウィーク頃には,理不尽な頭髪指導が原因で精神的に著しく不安定になっており,平成28年7月27日には,頭髪指導を原因として過呼吸等を起こして救急搬送されている。原告がこのような健康状態にあったにもかかわらず,本件高校の教員らは,その後も4日に1回という異常な頻度で原告に黒染めを強要したもので,かかる頭髪指導は,原告の健全な成長発達を阻害し,その人格形成に重大な悪影響を与えることが明白であるから,相当性を欠く。
(ウ) さらに,本件高校の教員らは,原告が社会通念上黒色と評価される色に頭髪を染めていたにもかかわらず,平成28年9月8日以降,原告に対して黒染めが不十分という理由のみで授業への出席や学校行事への参加を実質的に禁止したのは,生徒指導の名を借りたいじめにも等しいものであって,比例原則に反する。
ウ 小括
以上のとおりであって,原告に対する頭髪指導は,その目的,態様,方法等が著しく相当性を欠いており,著しく不合理なものとして違法である。
(被告の主張)
ア 本件高校における2年生の一学期終了(平成28年7月)までの頭髪指導等について
(ア) 原告の頭髪の地毛の色は黒色である。このことは,本件高校の教員らが確認していることに加え,原告の出身中学校における頭髪指導の経過,原告の頭髪を写した写真,原告が本訴において現時点での地毛の色を明らかにしないことなどからも明らかである。
原告が,2年生の夏休みよりも前の時点で茶色に染髪をしていたのか,あるいは黒染めが色落ちをして茶色になったのかは明らかではないが,本件指導方針として,頭髪の色落ちが生じた場合の染め戻しの指導に合理性があることは前記(1)(被告の主張)ウのとおりであるところ,本件高校の教員らが,原告に対して1年生の頃から繰り返し頭髪を黒染めするよう指導していたのは,原告の頭髪が茶色又はまだらな状態になっており,看過できる状態ではなかったためであり,本件指導方針に基づく上記指導には合理性がある。また,本件指導方針に従った頭髪指導に従わないという行為を非違行為(指導拒否)として指導対象とすることには合理性があり,適法である。
(イ) 原告が,頭髪指導を原因として精神的に著しく不安定になっていた事実はないし,J教諭は,原告の両親が離婚したとの話を聞いて,原告に対し,寂しかったり親の関心を引きたかったりして頭髪を染めたのか,などと尋ねたにすぎず,母子家庭であることを中傷するような発言は一切していないから,原告に対する頭髪指導が,その態様や方法等において不合理を欠いていた事実はない。
イ 2年生の夏休み(平成28年7月)以降の頭髪指導等について
(ア) 原告が,夏休み期間中の平成28年7月に頭髪をオレンジがかった極端な茶色(別紙色彩表の11番ないし12番の色)に染髪したことは,本件校則違反に当たる。原告は,同月27日,本件高校の教員らから黒染めするよう指導されたにも関わらず,二学期の始業式の同年8月22日時点で原告の黒染めは不十分であり,同日以降も原告の頭髪の状況がほとんど変化しなかったことから,本件高校の教員らは,原告に対する頭髪指導を続けていたものであって,このような頭髪指導の態様や方法には合理性がある。なお,原告が,上記頭髪指導の都度,4日に1度の頻度で実際に頭髪を黒染めしていたという事実はない。
(イ) また,原告が,精神的に著しく不安定になったり,過呼吸で救急搬送されたりしたことは,本件高校における頭髪指導に起因するものではない。
(ウ) 本件高校の教員らは,平成28年9月6日,原告が頭髪指導を拒否し続けており,改善の見込みがなく,周囲の生徒が頭髪指導に不公平感を持ったり,頭髪指導を拒否するなどして学内の規律が維持できなくなる危険性があること,原告を自己中心的な人物であるとみていじめをする恐れがあることなどから,原告に対し,別室で頭髪指導を加えつつ教科指導を実施する方法によるとともに,他の学校行事の参加中にも他の生徒との交流を制限する方法(別室指導)によるべきであると考えた。このような別室指導は,停学等の懲戒処分よりも原告に不利益の少ない方法として相当であり,合理性がある。
ウ 小括
以上のとおりであって,本件高校の教員らの原告に対する頭髪指導については,その目的,態様,方法等において合理性,相当性があり,違法な点はない。
(3) 本件高校における,原告が登校をしなくなって以降の措置につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無
(原告の主張)
ア 本件高校は,事故等により生徒等に危害が生じた場合,事故等により心身の健康に対する影響を受けた生徒その他の関係者の心身の健康を回復させるため,これらの者に対して必要な支援を行う義務(心身健康回復支援義務)がある(学校保健安全法29条3項参照)。また,本件高校の設置者である被告は,在学法律関係に基づく信義則上の義務として,本件高校に在学する生徒に対し,その生命,身体,精神等の安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ,かかる安全配慮義務には,生徒の心身の発達に適した教育環境全般を整える義務(教育環境配慮義務)や上記の心身健康回復支援義務が含まれる。
そして,本件高校の教員らは,違法な頭髪指導によって原告の心身に重大な影響を与え,原告を不登校状態に追い込んだものであるから,より積極的に,原告が心身の健康を回復させる措置をとるとともに,原告が不登校状態から脱却できるよう環境を整備すべき職務上の注意義務を負う。
イ 本件高校の教員らは,以下のとおり,原告の不登校状態や心身の健康を回復させる措置をとらずに放置したばかりか,逆に,次のとおり原告の精神的苦痛を増大させる不適切な事後対応を繰り返した。これらの行為は,いずれも前記アの各義務に違反する行為として国家賠償法上の違法があり,また学校契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に当たる。
(ア) 本件高校の教員らは,原告の不登校状態を放置し,原告が3年生に進級した後,名列表から原告の氏名を削除し,教室から原告席を排除し,他の生徒や保護者に対して原告が退学したなどと虚偽の説明を行って,原告が本件高校に登校できなくなるような措置をとった。そして,平成29年6月15日の面談の際に,上記措置を知った原告の母及び原告代理人が,原告が二度と学校に来られなくなるなどと激しく抗議をしたにもかかわらず,本件高校の教員らは,その後同年11月14日に文部科学省及び教育庁から改善指導されるまでの約5か月間にわたって上記措置を継続したのであるから,上記措置が,被告の主張するように,原告の不登校状態を目立たなくするとか,無責任な噂が広まらないようにするなどの原告に対する配慮からされたものではなかったことは明らかである。
(イ) 本件高校の教員らは,違法な頭髪指導により原告の心身に重大な苦痛を与え,不登校状態に追い込んだにも関わらず,謝罪をしなかった。かえって,原告が不登校状態になって以降も,原告に対して頭髪を黒染めするよう強要し続け,頭髪の黒染めをしない限り,修学旅行に参加させず,参加しても別行動させるなどと述べ続け,修学旅行に参加できなかった原告が著しい精神的苦痛を被っていると知りながら,一方的に修学旅行積立金とキャンセル料を相殺し,あえて原告の氏名を「K」と間違えて記載した封筒でその旨を通知した。
(ウ) 本件高校の教員らは,原告が不登校状態となっていることが学内で噂になっていることが原告の登校阻害要因であると原告代理人や原告の母から伝えられていたにも関わらず,阻害要因の除去に努めなかった。かえって,D校長は,平成28年10月28日,生徒に対し,原告が学校の指導を守らず学校に来ていない,原告が学校を訴えようとしているなどと虚偽の事実を告げるなどして本件高校内の原告に対する悪い噂を助長させた。
(被告の主張)
ア 本件高校の教員らは,違法な頭髪指導によって原告を不登校状態に追い込んだものではないから,原告が主張するような,頭髪指導の違法を前提とする職務上の義務を負うものではない。
イ 本件高校の教員らは,原告に対して登校復帰を促す手紙を差し入れ,学習課題を交付して学習保障をするとともに,進級や卒業のための特別な取り計らいを行うなどしており,原告の不登校後の対応に何らの問題はない。原告の主張する点についても,以下のとおり,いずれも国家賠償法上の違法や学校契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)はない。
(ア) 原告が3年生に進級した後,原告のクラスに原告席を置かなかったこと,名列表に原告の氏名を記載しなかったことは認めるが,これらは,本件高校の教員らが,原告に関して無責任な噂が広まったり,SNSに無責任な写真や書き込みが流布されたりする危険性が大きく,これを見た時に原告の心情が傷つき,登校回復がますます困難になることを懸念したため,生徒間に波風が立たないような措置を講じておき,原告の登校復帰が決まった時に,クラスの生徒に説明して理解を求めるという方法をとる方が対応しやすく,原告の登校復帰・継続を妨げないことになると考えたからである。本件高校の生徒の認識や実情に最も通じている本件高校の教員らがこのような措置をとったのは,決して不合理ではなく,違法ではない。
(イ) 原告に対する頭髪指導が適法であることは,前記(2)(被告の主張)のとおりである。原告は,自らの意思で修学旅行に参加しなかったものであり,修学旅行積立金とキャンセル料を相殺したことも違法ではない。封筒のあて名が誤っていたことは認めるが,他に連絡を取っていた者の氏名と誤ったものであり,故意に異なる氏名を記載したものではない。
(ウ) D校長が,生徒に対し,虚偽の事実を告げるなどして本件高校内の原告に対する悪い噂を助長させたことはない。原告の友人である生徒に対して,原告に校長が話をしたいと言っていると伝えてほしいなどと依頼したに過ぎず,原告が学校の指導を守らず学校に来ていないなどと述べたことはない。
(4) 原告に生じた損害の額
(原告の主張)
原告は,本件高校の教員らによる違法な頭髪指導及び不登校になって以降の違法な行為によって,下記アないしエの損害を受けた。
ア 治療費(2580円)
原告は,本件高校の教員らの違法な頭髪指導によって過呼吸,パニック状態,意識を失うなどの症状が現れるようになり,通院治療のために治療費2580円を支出した。
イ 修学旅行代(5万6368円。キャンセル料相当分)
原告が修学旅行に参加できなかったのは専ら本件高校の責めに帰すべきものであり,原告には修学旅行の料金全額についてこれを支払う義務がない。それにも関わらず,本件高校は修学旅行費用を原告に返金する際,一方的にキャンセル料相当額を相殺したのであるから,原告には同額の損害が生じている。
ウ 慰謝料(200万円)
原告は,本件高校における長期間にわたる違法な頭髪指導等を受け,最終的には授業への出席や学校行事への参加を禁止されるなど,本件高校の教員らによる,生徒指導の名を借りたいじめにも等しい違法行為によって,著しい精神的苦痛を被り続けてきた。そして,原告は,不登校になって以後も極めて不適切な事後の措置によって,さらに精神的苦痛が増大した。原告は,頻繁に過呼吸を起こしたり,パニック症状を発症したり,意識を失って倒れたりするような状態であり,自尊感情や生きる希望を失うなどの情緒面への悪影響は顕著である。原告は,推薦で大学に進学するという目標を持って本件高校に進学したのに,本件高校の教員らによって将来の目標を奪われたもので,本件高校の教員らの行為は学校や教員らに対する信頼を根本から覆す極めて悪質なものである。これらを考慮すれば,原告に対する慰謝料は200万円が相当である。
エ 弁護士費用(20万6000円)
本件の内容に鑑みれば,被告の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては20万6000円が相当である。
(被告の主張)
いずれも否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実(第2の2)のほか,当事者間に争いのない事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1) 本件高校の概要,本件校則及び本件指導方針等
ア 本件高校は,平成○年4月,大阪府立e高等学校及び同f高等学校の合併によって開校した。本件高校は,開校当時,学習に対する集中や進学に対する意欲を欠き,問題行動に走る生徒が多く,地元地域からもその改善に向けて強く要望がされる状況であったことから,以降,生徒指導を重視し,特に頭髪,服装,遅刻に対する指導に力を入れてきた。
(甲8.9.31[枝番号含む],乙6,11,証人E)
イ 本件高校では,生徒が高校生として華美な頭髪を避けて学業や部活動に集中すること等を目的として,身だしなみに関する規定の一部として本件校則を定めており,生徒手帳や入学説明時に配布する「入学生徒の手引き」と題する冊子には本件校則が明記されている。
また,本件高校では,本件校則をふまえて生徒に対する頭髪検査を実施しているところ,頭髪検査等によって本件校則に違反していることが認められた生徒に対しては,原則として地毛の色に染め戻すよう指示した上で4日後に再検査を行うこととしており,なお是正されない場合には原則として4日ごとに頭髪指導と再検査を行っている。また,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされている(本件指導方針)。
また,本件指導方針では,頭髪指導を繰り返す中で,指導対象の生徒が指導を拒否していると見られる場合には,生活指導部長による厳重注意,管理職による特別指導,出席停止等の措置を講じることとされている。
(甲8ないし10,証人D,証人E)
(2) c中学校における頭髪指導等
ア 原告は,平成24年4月,c中学校に入学し,平成27年3月にc中学校を卒業した。原告がc中学校に入学した際,原告の出身小学校からc中学校に対し,原告の頭髪が生まれつき茶色であって頭髪指導の対象にはならないものであるとか,塩素によって原告の頭髪の色素が薄くなっていると言った申し送りはなかった。
(証人O)
イ c中学校では,校則で,染髪等を禁止しており,教員は,生徒の髪色が変化していると認識した場合,当該生徒やその保護者に聴き取りを行い,あるいは小学校に照会するなどして,当該生徒が故意に染髪や脱色等をしたと認めた場合には,期限を定めて頭髪を黒く染め戻すよう指導している。
(乙5,証人O)
ウ 原告は,平成25年9月の2年生の二学期の始業式の日,c中学校に登校した。当時の原告のクラス担任は,同日,原告に対し,染髪しているのではないかと尋ねたが,原告は,染髪をしていない旨回答した。c中学校の教員らは,原告に対し,それ以上特段の指導をしなかった。
(乙5,証人O)
エ 原告は,平成26年6月ないし7月頃,修学旅行後の学年集会の際,当時の原告のクラス担任であったO(以下「O教諭」という。)から,頭髪が茶色になっているとして,頭髪を黒く染め戻すよう頭髪指導を受けた。その際,原告は,O教諭から染髪したかと尋ねられた際,当初はこれを否定したが,その後,O教諭が修学旅行時の髪色と違うのではないかと告げると,黙り込んだ。また,O教諭は,原告の母に対し,原告が染髪しているとして,黒く染め戻すよう求めた。上記頭髪指導の際,原告の頭髪は,別紙色彩表の4番ないし5番程度であった髪色が,6番に暗い赤を足したような髪色になった状態であった。なお,O教諭は,原告が染髪しているかどうかについて他の同学年の教員らにも意見を諮ったうえで,他の教員らも原告が染髪していると認めたことから上記頭髪指導を行った。
原告は,その後,O教諭に対し,指導に従って頭髪を黒く染めた旨を述べた。
(乙5,証人P,証人O)
オ O教諭は,平成26年9月頃,体育大会の練習を契機として原告の同級生から原告が髪を茶色に染めた旨を聞いたとして,原告に対し,頭髪が茶色であるので黒く染め戻すようにとの頭髪指導をした。上記頭髪指導の際,原告の頭髪は,別紙色彩表の4番ないし5番程度であった髪色が,6番ないし7番に赤みがかったような髪色になった状態であった。
原告の母は,O教諭に対し,原告が染髪していないのに何故黒染めする必要があるのか,何故他の髪の色が茶色い生徒には頭髪指導をしないのかなどと電話で抗議した。原告は,その後,O教諭に対して頭髪を黒く染めた旨を述べた。
(乙5,証人O)
カ 原告は,平成26年11月頃,原告の母及びO教諭と進路懇談をしている際,O教諭から,高校入試に不利になってはいけないとして,頭髪を黒く染めるよう指導を受けた。原告の母親が,この頭髪指導に反対する姿勢を示すと,O教諭はそれ以上の指導を行わなかった。
(乙5,証人O)
キ 原告は,平成27年2月頃,本件高校の入学試験を受験した。原告は,本件高校を受験するに際し,頭髪を黒く染めて受験した。
(乙4,証人H,証人P)
(3) 本件高校における2年生の一学期終了(平成28年7月)までの頭髪指導等
ア 本件高校への入学前の頭髪指導等
(ア) 原告は,本件高校に合格し,同年3月23日,本件高校の入学前説明会に出席した。原告は,説明会において,本件高校の教育内容等の説明を受けたほか,頭髪指導に関して,染髪した生徒に対しては黒く染め戻すよう指導をすること,いったん頭髪を黒く染めても,頭髪が色落ちしてきた場合には再度黒く染め戻してもらうことがあることなどの説明を受けた。
(証人P,証人E,証人F)
(イ) 原告は,平成27年3月30日,平成27年度入学生の生徒証に貼付する写真の撮影を行うため,本件高校に赴いた。その際,原告は,G教諭,H教諭及びI教諭による頭髪検査を受けた。H教諭らは,原告に対し,同年4月2日に行われる次回の写真撮影までに頭髪を黒く染めてくるよう指導した。上記頭髪指導の際,原告の頭髪は,根元部分が黒色であり,その先はまだらに茶色がかった状態(別紙色彩表の8番に7番及び9番の色が混ざったもの)であった。
原告は,上記頭髪指導に応じ,同日までに頭髪を黒く染めて写真撮影を受けた。
(証人H)
イ 1年生における頭髪指導等
(ア) 原告は,平成27年5月15日,体育の担当教諭から,頭髪の色が茶色である旨指摘を受けた。H教諭及びI教諭が原告の頭髪の状態を確認したところ,H教諭及びI教諭は,原告に対し,頭髪を黒く染め戻してくるよう指導した。原告は,上記頭髪指導において定められた期限までに,頭髪を黒く染めて登校した。上記指導の際,原告の頭髪は,根元部分が黒色であり,全体的には茶色でまだらな状態(別紙色彩表の8番に7番及び9番の色が混ざったもの)であった。
原告の母は,原告に対する上記頭髪指導の後,I教諭に対して架電し,原告の地毛は茶色であるのに黒染めすることには不満がある,化粧は良くて頭髪は何故こんなに厳しいのかなどと頭髪指導に対する不満を述べた。I教諭は,原告の母から話を聞いた後,c中学校に架電して,中学校時代の原告の頭髪及び頭髪指導の状況等を問い合わせた。c中学校の教員は,I教諭に対し,原告の頭髪の色は2年生の夏休み明け頃から茶色になった,原告が3年生のときに頭髪指導をして,原告は頭髪を黒く染めてきたなどと回答した。
(乙5,証人H,証人O)
(イ) 原告は,平成27年7月17日,一学期の終業式の際に実施された頭髪検査において,頭髪の根元部分は黒色であり,全体的には茶色でまだらな状態(別紙色彩表の8番及び9番の色が混ざったもの)であるとして,H教諭らから,二学期の最初の登校日までに頭髪を黒く染め戻してくるよう指導を受けた。原告は,二学期の始業式の日,上記頭髪指導に従い,頭髪を黒く染めて登校した。
(証人H)
(ウ) 原告は,平成27年12月24日,二学期の終業式の際に実施された頭髪検査において,H教諭らから,三学期の始業式までに頭髪を黒く染め戻してくるよう指導を受けた。上記指導の際,原告の頭髪は,頭髪の根元部分は黒色であり,その先は茶色でまだらな状態(別紙色彩表の8番程度のもの)であった。なお,原告は,二学期において,I教諭から頭髪が茶色であるなどと頭髪の色が茶色くなってきているなどと言われることはあったが,平成27年12月24日までに,期限を定めて是正を命じられたことはなかった。
原告は,平成28年1月8日,三学期の始業式のために登校したが,頭髪を黒く染め戻していなかったことから,生徒指導部の教師であるH教諭らから,4日後までに黒く染め戻してくるよう再度指導を受けた。
原告の母は,その後,I教諭に対して架電し,頭髪指導についてD校長も同じ意見なのか,何故化粧については指導せず,頭髪については指導するのかなどと頭髪指導に対して不満があることを明らかにしたが,I教諭が頭髪指導について説明し,指導への理解を求めたところ,原告がもう黒染めする旨を述べていると言って切電した。原告は,その後,定められた期限である平成28年1月28日までに頭髪を黒く染めて登校した。
(証人H)
(エ) 原告は,平成28年3月15日,三学期の終業式の際に実施された頭髪検査において,H教諭らから,2年生の一学期の始業式までに頭髪を黒く染め戻してくるよう指導を受けた。上記頭髪指導の際,原告の頭髪は,根元部分が黒色であり,その先は茶色でまだらな状態(別紙色彩表の8番程度のもの)であった。
(証人H)
(オ) 原告の,1年生のときの学年評定は,いずれの科目についても5段階評価の4または5であり,頭髪指導に関する点のほかに特段の生徒生活上の問題点を指摘されることはなかった。
(甲6@,P証人)
ウ 2年生の一学期における頭髪指導等
(ア) 原告は,本件高校の2年生に進級し,平成28年4月11日,頭髪を黒く染めて登校した。
(証人H)
(イ) 原告は,平成28年4月27日に行われた校外学習の際,J教諭から,頭髪の色が茶色になっているとして,同年5月2日までに黒く染め戻してくるよう指導を受けた。
(乙8,証人J,証人H)
(ウ) 原告は,平成28年5月2日,頭髪を黒く染めることなく登校してきた。そのため,生活指導部の教員であるH教諭らは,同日,原告に対し,さらに4日の期限を定めて頭髪を黒く染め戻してくるよう指導した。
J教諭は,同日の放課後,原告に対し,中学3年生の時に頭髪の黒染め指導を受けることになった原因を尋ねるとともに,同月12日までに頭髪を改善して来るよう指導した。その際,J教諭は,原告が中学3年生の体育大会の頃に両親が離婚した旨を述べたことに対し,頭髪を染髪した理由は寂しい思いをしたためか,親の関心を引きたくてそういうことをしたのかなどと尋ねた。
(証人J,証人H)
(エ) 原告は,平成28年5月6日,頭髪を黒く染めることなく登校してきた。J教諭は,同日の朝,ホームルーム前に原告が泣いていたことから,事情を聞こうと試みたが,原告は当初回答しなかったことから,J教諭は原告を保健室で休ませた。
原告の母は,同日の放課後頃,J教諭に対して架電し,J教諭が原告に対して母子家庭が原因で髪を染めたと言ったなどという内容の抗議をした。
(甲11@,証人J,証人H)
(オ) J教諭は,平成28年5月9日,原告に対し,前記(ウ)の際の発言について,決めつけたような言い方をしてごめんな,などと謝罪した。
(証人J,証人H)
(カ) 原告は,前記(ウ)において定められた期限である平成28年5月12日になっても,頭髪を黒く染めることなく登校した。
原告の母は,同日,本件高校に来校し,D校長,H教諭及びJ教諭らに対し,原告の地毛が茶色であるのに頭髪を黒色に染めるよう指導を受けていることに不満をもっていること,原告の頭髪を黒色に染める費用もかさんでいること,化粧に対する指導と頭髪に対する指導に差があるのはおかしいと思うことなどを述べ,本件高校における頭髪指導を批判した。また,J教諭に対し,前記(ウ)におけるJ教諭の発言に対しても苦情を申し入れた。これに対し,J教諭は謝罪するとともに同月9日に原告に対しても謝罪した旨を伝え,D校長も謝罪し,J教諭に対して指導した旨を伝えた。その上で,H教諭らは,原告の母親に対して頭髪指導への協力を求めたが,原告の母親は,原告に任せるなどと述べた。
(証人J,証人H)
(キ) 原告は,平成28年5月17日,頭髪を黒く染めて登校した。J教諭及びH教諭らは,原告の頭髪について必ずしも十分に黒く染めていないと感じたものの,原告が頭髪指導に従う姿勢を示したことから,今後の指導に続けていければよいとして,それ以上の頭髪指導は行わなかった。
(証人J,証人H)
(ク) 原告は,平成28年6月20日の昼休み,J教諭,I教諭及びH教諭らに職員室まで呼び出された。H教諭及びJ教諭らは,原告に対し,4日後までに頭髪を黒く染め戻してくるよう指導した。上記頭髪指導の際,原告の頭髪は,根元が黒く,その余の頭髪はまだらに茶色な状態(別紙色彩表の8番及び9番程度の色)であった。
原告は,同月24日,頭髪を黒く染めて登校した。J教諭及びH教諭らは,原告の頭髪について必ずしも十分に黒く染めていないと感じたものの,原告が頭髪指導に従う姿勢を示しているとして,それ以上の頭髪指導は行わなかった。
(証人J,証人H,証人F)
(ケ) 原告は,平成28年7月20日,一学期の終業式の際に実施された頭髪検査において,H教諭らから,二学期の始業式までに頭髪を黒く染め戻してくるよう指導を受けた。その際の原告の頭髪は,根元部分が黒色で,その先は茶色でまだらな状態(別紙色彩表の8番ないし9番程度のもの)であった。
(証人H)
(4) 2年生の夏休み(平成28年7月)以降の頭髪指導等
ア 原告は,一学期の終業式から平成28年7月27日までの間に,その頭髪を明るいオレンジがかった茶色(別紙色彩表の11番ないし12番程度のもの)に染め,同日,部活動のために登校した。J教諭,H教諭及び部活動の指導教員らは,原告に対し,夏休み中であっても染髪は許されない旨を告げ,直ちに頭髪を黒く染め戻すよう指導した。その際,J教諭の発言により,次回の部活動のための登校日である同年8月2日までに黒色に染め戻すこととされた。原告が上記頭髪指導の途中で泣きはじめたため,J教諭は,指導の後,原告と同じ部活動をしている生徒に対し,原告を教室に連れて行って付き添っているよう指示し,原告に対し,落ち着いたら下校するよう述べて菓子などを渡した。
(証人J,証人H)
イ(ア) 原告は,平成28年7月27日の夜,過呼吸を生じ,救急搬送された。原告の母は,翌日,H教諭に架電し,原告が救急搬送された旨を告げ,H教諭は,原告の頭髪を黒く染め戻す期限については先に延ばす旨を告げた。
また,原告の母は,原告の容体確認等のために架電してきたJ教諭に対し,原告が過呼吸に陥った原因は頭髪指導のストレスだと思う,医師に対してそのように告げているなどと話した。J教諭は,原告の母に対し,心療内科等で医師の診断を受けるとか,スクールカウンセラーに対する教育相談をするといった措置を講じてはどうかと提案した。原告の母がJ教諭に対して上記発言をしたことは,J教諭からH教諭に伝えられ,H教諭を通じてD校長にも伝えられた。
(甲31[枝番含む],証人P,証人J,証人H)
(イ) 原告は,前記(ア)の後,夏休みの期間中に登校することはなかったが,J教諭は,原告の友人から,原告は友人らと花火大会に行くなどして楽しく夏休みを過ごしていた旨聞いていた。
(証人J)
(ウ) 原告は,平成28年7月28日以降夏休みの期間中,心療内科等の病院を受診しなかった。
(証人P)
ウ(ア) 原告は,平成28年8月22日の二学期の始業式の際,ピアスを付けて登校した。原告の頭髪は,一見して前記アのようなオレンジがかった茶色ではなかったものの,全体的にまだらな茶色の状態(別紙色彩表の8番程度のもの)であり,髪の毛の根本は黒色,髪の毛の内側にはまだオレンジがかった茶色の頭髪も見受けられるといった状態であった。J教諭及びH教諭らは,原告に対し,4日後までに頭髪を黒く染め戻すよう指導したが,原告は,黒いやん,染めてるやんなどと述べ,頭髪指導に従う旨を述べることはなかった。
(甲47,証人J,証人H,証人F)
(イ) 原告の母は,平成28年8月23日,大阪府教育庁に対し,電話で本件高校の頭髪指導について苦情を申し立てた。E教頭は,大阪府教育庁からの連絡を受け,原告の母に対し,電話で連絡をしたところ,原告の母は,頭髪指導についての苦情や本件高校の教員らに対して不信感を持っていることなどを述べた。
(証人P,証人E)
エ 原告は,平成28年8月26日,同月30日,同年9月2日,いずれも頭髪について前記ウ(ア)とほとんど差がない状態で登校した。H教諭及びJ教諭らは,原告の登校の都度,原告に対し,4日後までに頭髪を黒く染め戻すよう指導したが,原告は,黒いやん,染めてるやんなどと述べ,頭髪指導に従う姿勢は示さなかった。
(証人J,証人H,証人F)
オ 原告は,平成28年9月6日,頭髪について前記ウ(ア)とほとんど差がない状態で登校した。本件高校の教員らは,原告が頭髪指導に応じる姿勢を見せないと考え,同日から,F主任が原告に対する頭髪指導に関与することとなった。F主任が,同日の放課後,原告を呼び出して頭髪指導を行ったところ,原告が,黒く髪を染め戻すようにとの頭髪指導には従うつもりはない旨述べたことから,F主任は,原告に対し,指導に従わないのであれば他の生徒と共に教室で過ごすことはできない旨を告げ,原告を別室指導にすることを示唆して,よく考えてくるようにと告げて原告を帰宅させた。原告は,同月7日には本件高校に登校しなかった。
なお,別室指導とは,一定の問題に改善が見られたと判断するまでの間,生徒が学校に登校した際,通常どおり教室で他の生徒とともに学習指導等を行のではなく,対象の生徒と指導担当教員のみを別室で同席させて,生活指導及び生徒生活に対する反省などをさせるとともに学習指導を行う指導方法をいう。
(証人F)
カ 原告は,平成28年9月8日,頭髪について前記ウ(ア)とほとんど差がない状態で登校した。F主任,I教諭及びJ教諭は,1時間目の開始前に原告を生徒指導室に呼び出し,原告に対し,頭髪指導に従っていくつもりはあるかと尋ねた。そうしたところ,原告は,言うことを聞く気はない旨を答えたため,J教諭は,指導に従って文化祭を頑張ろうなどと述べ,F主任は,このままでは他の生徒と共に教室で過ごすことができなくなるなどと告げたが,原告は頭髪指導を拒む姿勢を崩さなかった。そのため,F主任,J教諭及びI教諭は,一旦職員室に戻り,H教諭及びG教諭を交えて今後の対応を協議し,原告の姿勢に変化がなければ,反省を促すために別室指導の方法によって原告を指導することを決めた。
その後,F主任は,このままでは教室で授業を受けることはできず,原告が頭髪指導に従うまでは別室指導となること,別室指導になれば,原告には別室で用意する学習課題に取り組み,教科担当の教師に質問するといった方法で学習してもらうことになること,文化祭などの課外活動についても他の生徒と一緒に参加することはできないことなどを告げた。その後,F主任らは,原告に対し,本当に別室指導で良いか帰って考えるようになどと言い,原告に帰宅するかどうか尋ねた上で,原告を昼前頃に帰宅させた。
(甲11A,証人J,証人H,証人F)
キ 原告は,平成28年9月9日以降,本件高校に登校していない。
(5) 原告が不登校になった後の経過
ア J教諭は,平成28年9月9日以降,同月下旬頃までの間に,何度か原告方に架電し,あるいは手紙を送るとともに,行事予定表や学習用のプリントを届けるなどした。また,同月16日,原告が修学旅行に参加しない場合,期限までにキャンセルしなければキャンセル料が発生する旨を連絡した。
J教諭は,後記イのとおり,原告代理人とD校長らが原告の登校回復に向けた協議を始めて以降,原告方への訪問等を控えるようになり,同年11月頃以降は訪問等を行っていない。
(甲48[枝番号含む],49,証人J)
イ 原告は,平成28年9月21日,本件高校に対し,原告代理人を通じて,原告に対する一連の頭髪指導が違法であるなどと記載した通知書を送付し,同月30日,原告の母親及び原告代理人と,D校長,E教頭,F主任,G教諭,H教諭,I教諭及びJ教諭とが面談した。原告の母親及び原告代理人は,原告の地毛は茶色であるとして,本件高校の教員らに対し,頭髪指導の違法を認めて謝罪するよう強く求めた。
原告代理人とD校長は,平成28年10月28日,原告の学習保障や登校回復に向けて連携していくことを相互に確認し,D校長において,同年12月5日,原告が不登校となった以降の欠席や成績に関して原告の不利になるようには取り扱わないようにすること,不登校の間の学習については補習等の配慮を行うことなどを約束した。
(甲12,31[いずれも枝番号含む]。証人D)
ウ 原告は,平成28年10月15日から同月18日まで実施された本件高校の修学旅行に参加しなかった。本件高校は,平成28年11月17日,原告に対し,原告が積み立てていた修学旅行積立金11万円からキャンセル料等5万6368円を差し引いた5万3632円を原告の母親の預金口座に送金する方法により返金した。なお,本件高校は,原告が不登校になった後に配布した修学旅行の持ち物,集合場所及び集合時間等を記載した資料については,原告に交付しなかった。
(甲14,証人J)
エ 本件高校の教員らは,原告に対し,平成28年12月7日以降,原告の学習保障及び進級等のために,学習課題やその解答,授業ノートのコピー等を交付した。
(証人D)
オ D校長は,平成29年3月頃,原告の友人である生徒に対し,校長が話をしたいと言っている旨を原告に伝えてほしい,原告が転校を希望するのであれば協力したいなどと告げ,原告と直接連絡をとろうと試みた。その後,原告において,直接にD校長に対して接触を図ることはなかった。
(甲62,証人D)
カ 原告は,平成29年4月,本件高校の3年生に進級した。
原告,原告の母親及び原告代理人は,同月下旬頃,本件高校に来校してD校長及びE教頭と面談した。D校長は,原告に生徒証(3年5組出席番号32番)を交付し,併せて当面の学習課題を交付した。当時,実際には,3年5組の出席番号32番には他の生徒が在籍しており,本件高校の内部において原告に割り振られた生徒番号は33番であり,名列表には原告の氏名の記載がなく,3年5組の教室には原告席が置かれていなかったが,これらの事実は原告らには伝えられなかった(甲19)。
キ 原告代理人は,平成29年5月29日,D校長に架電し,原告が登校回復に向けてもう一度本件教員らと面談したい旨を述べているので,面談の機会を設けられたい旨を連絡した。D校長は,平成29年6月15日に原告,原告の母親及び原告代理人と本件高校の教員らとが面談する機会を設けることとし,その旨を原告代理人に連絡した。
原告,原告の母親及び原告代理人は,同日,本件高校の教員らと面談するために本件高校を訪れた。そうしたところ,本件高校の玄関付近に置かれていた3年生の生徒の名列表には原告の氏名及び生徒番号が記載されておらず,また,原告が所属していることになっている3年5組の教室には,原告席が置かれていなかった。原告は,本件高校には戻るべき場所がなくなったなどと言って意気消沈し,原告の母親及び原告代理人は,上記措置に対し,原告が二度と学校に来られなくなるなどと言って本件高校の教員らに対して強く抗議したが,本件高校の教員らが上記措置を改善することはなく,上記措置を講じた理由を説明することもなかった。
(甲20,32[枝番号含む],証人D)
ク 原告は,平成29年9月8日,本件訴訟を提起した。
ケ(ア) 大阪府教育庁は,平成29年11月頃,本件高校に対し,通常,名列表には氏名を記載すべきであり,教室には椅子や机を置くべきであるし,特に,原告が名列表に氏名の記載がないことを強く問題視している以上は,名列表を修正すべきである旨の指導をした。(乙11)
(イ) 本件高校のD校長は,平成29年11月17日,原告代理人に対し,原告の氏名を名列表に記載し,教室に原告の席を設けたことを伝え,原告に対する学習課題の交付方法について打診し,以降,原告代理人を通じて学習課題を交付した。
コ 原告は,本件高校に登校しない状態が継続したが,学習課題を履修するなどし,本件高校は,平成30年3月末日,原告に対し,卒業認定を行った。
2 争点1(本件校則及び本件指導方針の違法性の有無)について
(1) 違法性の判断基準について
原告は,生徒が頭髪の色を含む髪型をどのようなものにするかを決定する自由は,憲法13条により保障される人格権ないし自己決定権に含まれるから,校則等で染髪を禁止することが正当化されるのは,当該校則が教育目的により制定され,当該頭髪規制を取らなければならない必要性,相当性が認められるなどの一定の場合に限られる旨主張する。
しかし,本件高校は,学校教育法上の高等学校として設立されたものであり法律上格別の規定がない場合であっても,その設置目的を達成するために必要な事項を校則等によって一方的に制定し,これによって生徒を規律する包括的権能を有しており,生徒においても,当該学校において教育を受ける限り,かかる規律に服することを義務付けられるものと認められる。そうすると,生徒が頭髪の色を含む髪型をどのようなものにするかを決定する自由についても,上記規律との関係で一定の制約を受けることになる。そして,このような包括的権能に基づき,具体的に生徒のいかなる行動についてどの範囲でどの程度の規制を加えるかは,各学校の理念,教育方針及び実情等によって自ずから異なるのであるから,本件高校には,校則等の制定について,上記の包括的権能に基づく裁量が認められ,校則等が学校教育に係る正当な目的のために定められたものであって,その内容が社会通念に照らして合理的なものである場合には,裁量の範囲内のものとして違法とはいえないと解するのが相当である。
(2) 本件校則の目的及び内容について
ア 前記前提事実(2)及び前記認定事実(1)によれば,本件高校は,2つの高校の合併によって開校した平成○年4月の当時,問題行動に走る生徒が多く,その改善が求められていた状況にあったこと,本件高校は,頭髪や服装の乱れが生徒の問題行動に発展する可能性があることから頭髪や服装等に対する指導に力を入れてきたこと,本件校則は,華美な頭髪,服装等を制限することで生徒に対して学習や運動等に注力させ,非行行動を防止するという目的から定められたものであること,本件校則における頭髪規制の内容は,特異な髪型やパーマ・染髪・脱色・エクステ等を禁止するものであることが認められる。
このような,本件高校の開校当時の状況や生徒指導の方針等からすれば,華美な頭髪,服装等を制限することで生徒に対して学習や運動等に注力させ,非行行動を防止するという目的は,学校教育法等の目的に照らしても正当な教育目的であると言い得るし,一定の規範を定めてその枠内において生徒としての活動を推進させることにより,学習や運動等に注力させるという手法は一定の合理性を有すると言い得る。また,本件校則における頭髪規制の内容は,染髪,脱色及び一部の特異な髪型を規制するにとどまるものであって,その制約は一定の範囲にとどまっている。そして,中学校以下の学校教育の場合とは異なり,生徒は自ら高等学校の定める規律に服することを前提として受験する学校を選択し,自己の教育を付託するのであるから,当該学校に在籍する期間に限って本件校則のような制約を生徒に課すとしても,その事が生徒に過度な負担を課すものとはいえず,それが社会通念に反するともいえない。
以上のような諸点に鑑みれば,本件校則における頭髪規制は,正当な教育目的のために定められたものであって,その規制の内容についても社会通念に照らして合理的なものと言い得る。
イ(ア) 原告は,本件高校の教員らは,本訴提起前には,本件校則の制定目的は学校の評判を守るためである旨説明していたもので,本件校則は志願者数増加等の学校の利益を目的とするものである旨主張する。
しかし,証拠(甲31[枝番号含む])及び弁論の全趣旨によれば,本件高校の教員らは,平成28年9月30日の原告代理人及び原告の母との面談の際,本件校則の目的について説明する過程で,学校のイメージといった言葉を出してはいるものの,頭髪等に手を加えないのが本来の高校生の在り方である,染髪によって勉強に集中できなくなるなどと説明していることが認められるから,本件高校の教員らが学校のイメージといった言葉を出して本件校則の目的を説明したことをもって,本件校則が志願者数増加等の学校の利益を目的とするものであると認めるに足りず,他に原告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ) また,原告は,時代の変遷にともない茶髪に対する社会一般の認識に変化が生じ,現代社会においては茶髪を理由に社会的に悪評価を受けるものではなく,頭髪規制を定めていない学校が存在することや,頭髪の色彩等に関わらず学習や運動を行うことは可能であることなどから,本件校則における頭髪規制の内容は教育目的とは矛盾し,不合理である旨主張する。そして,現在,頭髪等に関する規制をしていない学校が一定数存在することが認められる(乙1)。
しかし,前記(1)の認定判断のとおり,高校が学校教育を行うに際して生徒を規律する包括的権能については,各学校によって教育方針や実情等が異なることを前提とした裁量が認められているところ,前記アのとおり,本件高校では,平成○年4月の開校当時,問題行動に走る生徒が多く,その改善が求められていた状況にあったもので,このような状況を前提に頭髪や服装等に対する指導に力を入れるという生徒指導の方針が取られた結果,本件校則において頭髪規制が定められたことには合理性があったものと認められることからすれば,本件校則の目的を達成するに際し,頭髪規制以外の他に代替的な手法が存在し得るということをもって,本件校則の頭髪規制の内容が裁量権の範囲を逸脱しているということはできない。
そうすると,一般的には,時代の変遷にともない茶髪に対する社会一般の認識に変化が生じているといった事情が認められるとしても,その事は,直ちに本件校則の目的の正当性,内容の合理性に対する判断を左右するものではないし,平成○年4月に本件校則が制定された後,原告が本件高校に入学した平成27年4月までの間に,社会一般の認識の変化によって,上記頭髪規制の内容が著しく合理性を欠くに至ったものと認めるに足りる的確な証拠もない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 以上によれば,染髪等を禁じ,違反者に対する頭髪指導を行うことを定める本件校則の頭髪規制は,学校教育に係る正当な目的のために定められたものであって,その内容も社会通念に照らして合理的なものであるといえるから,本件校則それ自体が,本件高校の有する,学校教育を行うに際して生徒を規律する包括的権能に基づく裁量の範囲を逸脱した違法なものということはできない。
(3) 本件指導方針について
ア(ア) 前記前提事実(2)のとおり,本件高校では,本件校則に基づく指導の方針(本件指導方針)として,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされていることが認められる。
(イ) 染髪した髪を一旦地毛の色に染め戻した場合には,その後色落ちすることがあっても当該生徒に対して何らの頭髪指導を加えないとすると,外形上頭髪が生来の色と異なる色合いをしている生徒のうち,一部については頭髪指導を行ってその是正を求める一方,一部については何らの頭髪指導を行わないという状態を招来することになる。このような状態に陥った場合には,頭髪指導の対象となった生徒に不公平感を生じさせ,あるいは他の生徒に対して本件校則に違反しても許容される場合があるという誤った認識を与え,結果として本件校則の目的が達成できなくなるおそれが生じることは否定できない。また,頭髪の色合いが生来のものとは変化した場合において,それが染髪又は脱色の結果として生じたものか,染め戻した後に色落ちしたものかを識別することは困難であり,頭髪の変色が染髪又は脱色であると断定できない限り頭髪指導を許さないとすると,本件校則に基づく頭髪指導の実施にも困難が生じることがうかがわれる。他方,上記のような場合に,生徒に対して頭髪指導を行い,頭髪を生来の色合いに染め戻させたとしても,その結果は,当該生徒が,当初の染髪等がなければ現在あったはずの頭髪の色合いに戻るというものであり,生来の頭髪とは異なる色合いへの変更を強いるといった場合とはその負担が異なるのであって,当該生徒の受ける不利益も一定の限度にとどまっている。
(ウ) 以上によれば,本件指導方針において,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされていることは,本件校則の目的を達成するための指導方針として,社会通念上も合理性のあるものと認められる。
イ(ア) 原告は,本件指導方針は4日に一度という異常な頻度で頭髪指導を行うことを定めており,著しく不合理である旨主張する。
しかし,4日間とは,本件校則や本件指導方針の違反者に対して是正措置を講じさせるための期間であって,4日の間に頭髪指導に従って黒色に染め戻した場合にはそれ以上の頭髪指導を受けるものではないし,他方で,4日の間に頭髪指導に従わなかった場合に,重ねて同様の頭髪指導を受けるのはやむを得ないことであるから,本件指導方針が4日に一度の頭髪指導を予定していることをもって,本件指導方針の内容が不合理であるとか生徒に過度の負担を課すものであるということはできない。
(イ) さらに,原告は,頭髪を繰り返し黒く染め戻すことで頭皮障害等の健康被害が生じる場合があること,頭髪指導を拒否した場合に出席停止まで認めるということは比例原則にも反していることなど,本件指導方針の内容は著しく不合理である旨主張する。
しかし,頭髪を黒色に染め戻すことによって頭皮障害が生じる可能性は一般的には否定できないとしても,頭皮障害が生じるか否かは当該生徒の体質,使用する薬剤,使用方法,使用頻度等によって異なる上,本件指導方針が,染髪による頭皮障害が判明した生徒に対しても一律に頭髪指導を行うことを予定しているとまで解することはできないから,一般論として頭髪を黒色に染め戻すことによって頭皮障害が生じる可能性があることをもって,頭髪を黒色に染め戻すことを内容とする本件指導方針の内容が合理性を欠くということはできない。
また,証拠(甲10)によれば,本件指導方針の内容は,頭髪指導を拒否した場合には,まずは生徒部長による厳重注意がされ,さらに指導拒否をした場合に管理職による別室指導がされ,なおも指導拒否をした場合に出席停止が予定されていることが認められ,出席停止は頭髪指導を拒否し続けた生徒に対する最終的な手段として予定されているにすぎないから,本件指導方針に出席停止が予定されていることをもって,直ちに本件指導方針の内容が比例原則に反し合理性を欠くということはできない。
(4) 小括
以上によれば,本件校則は学校教育に係る正当な目的のために定められ,社会通念に照らして合理的な内容の規律であるといえ,本件指導方針は,本件校則の目的を達成するための指導方針として,合理的な内容を定めたものということができる。したがって,本件校則の目的及び内容並びに本件指導方針の内容が,本件高校の有する,学校教育を行うに際して生徒を規律する包括的権能に基づく裁量の範囲を逸脱した違法なものということはできない。
3 争点2(本件高校における,本件校則に基づく原告に対する頭髪指導につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無)について
(1) 本件高校における2年生の一学期終了(平成28年7月)までの頭髪指導等について
ア(ア) 原告は,原告の頭髪の色は生来茶色であり,本件高校の教員らもそのことを認識していたうえ,本件高校に入学してから2年生の一学期終了までの間,頭髪指導に従って頭髪を黒く染めた以外には染髪したことはなく,頭髪の色が変化したのは黒く染めた頭髪が色落ちしていただけであって校則違反はしていなかったにもかかわらず,本件高校の教員らが原告に対して黒染めを強要したことは違法である旨主張する。
(イ) しかし,前記認定事実(3)によれば,I教諭は,平成27年5月頃,c中学校の教諭に問い合わせ,原告は,その頭髪の色が中学2年生の夏休み明け頃から茶色になり,中学3年生の時に頭髪指導を受けて頭髪を黒く染めたという中学校における頭髪指導の経過を確認していたこと,本件高校においても,F主任,J教諭,H教諭という複数の教諭が頭髪検査の際に,原告の頭髪の色は根元部分が黒色であったことを直接見て確認したことが認められ,本件高校の教員らは,中学校における頭髪指導の経過や本件高校における頭髪検査の結果等といった合理的な根拠に基づいて,原告の頭髪の生来の色は黒色であると認識していたことが認められる。そして,このような本件高校の教諭らの認識は,証拠(甲53,55,乙8・14頁)によれば,平成28年5月あるいは平成29年11月,12月に原告の頭髪を撮影した写真によっても,原告の頭頂部の毛髪の生え際付近の色が,その先の部分と比較すると黒色に近いと認められることとも整合する。
なお,原告は,本件高校の教員らは,平成28年9月30日あるいは平成29年6月15日の原告代理人及び原告の母親との面談の際には,原告の頭髪の生来の色が茶色であることを認めていた旨主張するところ,証拠(甲31,32[各枝番含む])によれば,本件高校の教員らが上記面談の際に原告代理人の言い分を認めるような発言をした部分があることが認められる。しかし,上記面談において,G教諭やE教頭など原告の地毛が茶色であることを否定する発言をしている教諭もいること,上記面談の目的が原告の登校に向けた話合いであったことから,本件高校の教員らが話合いを前向きに進めるなどのために原告側に迎合した発言をすることがあっても不自然ではないことからすれば,本件高校の教員らが原告代理人の言い分を認めるような発言をしていたことを考慮しても,上記認定判断は左右されない。
(ウ) そして,前記認定事実(3)によれば,本件高校の教員らは,頭髪検査の際に,原告の頭髪が,根元部分が黒色である以外,まだらな茶色となっていることを確認したことから,原告に対し,頭髪を黒く染め戻すよう指導していたこと,原告に対し,各学期の終業式の日に行われた頭髪指導において,次の始業式までの是正を口頭で指導したほか,原告が2年生になってからは,平成28年4月27日及び同年6月20日に,それぞれ4日程度後までに是正するよう口頭で指導し,原告が頭髪を黒く染め戻さなかった場合には,再度期限を定めて4日後までに黒く染め戻すよう求めていたこと,原告は,一定期間染め戻しを拒む姿勢を示していたことがあったものの,最終的には頭髪指導に従って頭髪を黒く染め戻していたことが認められる。そして,本件高校の教員らは,原告が同年4月27日以降の頭髪指導に対しては同年5月17日に,同年6月20日の頭髪指導に対しては同月24日に頭髪を黒く染め戻したことについて,その程度が十分でないと判断したものの,原告が頭髪指導に従う姿勢を示したことを評価し,次の指導につなげることとしてそれ以上の頭髪指導を行わなかったことが認められる。
本件指導方針において,染髪した髪を地毛の色に染め戻しても,色落ちした場合で,それが看過できないような状態にあると認められたときは,再度,地毛の色に染め戻すよう指導することとされていることに合理性があることは,前記2(3)の認定判断のとおりであるところ,上記の原告に対する一連の頭髪指導は本件指導方針に基づき行われたものであることに加え,原告は,頭髪指導に対する不満は抱きつつも,最終的には任意に応じていたものと認められるし,本件高校の教員らも,黒染めが不十分であると判断した場合であっても,原告が頭髪指導に従う姿勢を示していることを評価してそれ以上の頭髪指導を行わないとするなど,原告の態度や姿勢に応じた柔軟な対応を取っていたことが認められるのであって,本件高校の教員らが黒染めを強要したと評価することはできず,頭髪指導の目的,態様,方法,程度が本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱していたということはできない。
(エ) そうすると,2年生の一学期終了までの間は原告が頭髪を染めておらず,黒染めした頭髪が色落ちしただけであったとの原告の主張を前提としても,本件高校の教員らは,原告の生来の頭髪の色が黒色であると合理的な根拠に基づいて認識した上で,原告に対し,本件指導方針に基づき頭髪指導を行っていること,原告も頭髪指導に任意に従っていること,頭髪指導の態様や方法も原告の態度や姿勢に応じた柔軟なものであったことなどの事情からすれば,本件高校における2年生の一学期終了までの間の原告に対する頭髪指導につき,その目的,態様,方法,程度において本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱した違法があったということはできない。
イ(ア) 原告は,一連の頭髪指導によって頭皮障害等の健康被害が生じ,遅くとも2年生のゴールデンウィーク頃(平成28年4月下旬から同年5月上旬頃)には,頭髪指導が原因で精神的に著しく不安定になっていたにもかかわらず,頭髪指導が継続されたこと,J教諭が,同月2日,頭髪指導に際して原告の家庭環境が母子家庭であることを誹謗中傷したことなどから,頭髪指導の態様や方法等が著しく合理性を欠き違法である旨主張する。
(イ) しかし,前記認定事実(3)イ,ウによれば,本件高校に入学してから2年生の一学期までに原告に頭髪指導がされた回数は,1年生の1年間で4回,2年生の一学期間で3回程度であり,上記頭髪指導に対して原告が頭髪を黒色に染め戻さなかった場合に,再度期限を定めて4日後までに黒色に染め戻すよう指導がされたことはあったものの,原告が黒色に染め戻した場合には,その程度が不十分であると判断した場合であっても,原告の姿勢を評価してそれ以上の頭髪指導を行わないとするなどの柔軟な対応が取られていたことが認められるのであって,このような頭髪指導の回数や態様からしても,原告に頭皮障害が生じるような態様や程度のものであったと認めるに足りないし,実際に原告に頭皮障害が生じていたことを裏付ける的確な証拠はない。
また,前記認定事実(3)ウによれば,原告が,平成28年5月6日のホームルーム前に学校で泣いており,J教諭は,事情を聞こうと試みたが回答がなかったため,原告を保健室で休ませたことが認められるところ,仮に,原告がその頃精神的に不安定となったことが認められるとしても,一般的に高校2年生という思春期の女子生徒が精神的に不安定になる要因には様々なものが考えられることをも考慮すると,原告が精神的に不安定となっていたことが頭髪指導に起因するものであったと認めるに足りない。
さらに,前記認定事実(3)ウによれば,J教諭は,平成28年5月2日,H教諭らから頭髪指導を受けていた原告に対し,中学校の頃に頭髪指導を受けることになった原因を聴取する際,原告に対し,原告の両親が離婚したことがきっかけになったのか,親の気を引きたくて染髪したのかなどと尋ねたことがあったが,その後,原告の母からの抗議を受け,決めつけたような言い方をして悪かった旨謝罪したことが認められる。このようなJ教諭の発言は,その経過や内容からして,原告に対する頭髪指導の一環として,中学校の頃に染髪した経緯等を尋ねたものにとどまり,事後の対応も原告の心情に配慮したものであったといえるのであって,その態様,方法において,教育的指導における裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとはいえない。
ウ 以上のとおりであって,本件高校における2年生の一学期終了(平成28年7月)までの頭髪指導は,その目的,態様,方法,程度において,本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱していたということはできないから,国家賠償法1条1項にいう違法があったとは認められず,学校契約上の債務不履行があるとも認められない。
(2) 2年生の夏休み(平成28年7月)以降の頭髪指導等について
ア(ア) 原告は,2年生の夏休み(平成28年7月)に地毛に近い茶色に染髪したことに対し,本件高校の教員らは,頭髪指導をし,原告が同年7月27日に頭髪指導を原因として過呼吸を起こして救急搬送される事態になったにも関わらず,その後も黒染めを強要し続けたことは,頭髪指導として著しく不合理であり違法である旨主張する。
(イ) 前記認定事実(3)ウ,(4)アないしウによれば,原告は,平成28年7月の一学期の終業式の日に,二学期の始業式の日までに頭髪を黒く染め戻すよう頭髪指導を受けていたにもかかわらず,同月27日,明るいオレンジがかった茶色に頭髪を染髪して登校したこと,H教諭らは,同日,原告に対し,次回の登校日である同年8月2日までに黒色に染め戻すよう頭髪指導を行ったこと,原告の母は,同年7月28日,H教諭に対し,電話で,昨日原告が過呼吸を発症して救急搬送された旨を連絡し,これを聞いたH教諭は,ひとまず原告に対する染め戻しの期限を延ばす旨を述べたこと,原告の母から同様の電話連絡を受けたJ教諭は,心療内科やスクールカウンセラーへの相談を助言したが,原告は,心療内科等の病院を受診することはなかったこと,J教諭は,その後原告が友人らと花火大会に行くなどして楽しく夏休みを過ごしていた旨聞いていたこと,二学期の始業式の同年8月22日,原告が全体的にまだらな茶色の状態に頭髪を染め戻し,ピアスを付けて登校したため,H教諭らは4日後までに黒色に染め戻すよう頭髪指導をしたことが認められる。
原告が夏休み期間中に明るいオレンジがかった茶色に染髪をして登校したことは,本件校則に違反することが明らかであっただけでなく,一学期の終業式にされた頭髪指導にも反するものであったことからすれば,本件高校の教員らが,原告に対し,次回の登校日である同年8月2日までと期限を定めて黒く染め戻すよう頭髪指導をしたことは,本件指導方針に基づく頭髪指導として合理性を有するものと認められる。そして,原告が過呼吸で救急搬送されたことが頭髪指導に起因するものであったかは明らかではなく,原告は,本件高校の教員らから心療内科やスクールカウンセラーの受診を勧められながらも病院を受診しなかったことに加え,原告に対して次に頭髪指導がされたのは,同年7月27日から約4週間の夏休み期間を経た二学期の始業式(同年8月22日)であり,その間,本件高校の教諭らは原告が友人らと楽しく夏休みを過ごしていた旨聞いていたというのであるから,本件高校の教員らが,頭髪指導によって過呼吸が発症したものではないと考えて原告が過呼吸で救急搬送されたという連絡を受けた後,約4週間が経過した二学期の始業式(同年8月22日)以後も頭髪指導を継続したことにつき,その態様,方法において,本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱した違法があったということはできない。
イ(ア) 原告は,二学期の始業式の日(平成28年8月22日)には社会通念上黒色と評価される色に頭髪を染め戻して登校したにも関わらず,本件高校の教員らが,黒染めが不十分であるとして,以降同年9月8日までの間,4日に1度という異常な頻度で黒染めを強要し続けたことは,頭髪指導として著しく不合理であり違法である旨主張する。
(イ) 前記認定事実(4)によれば,原告は,二学期の始業式の同年8月22日,原告が全体的にまだらな茶色の状態に頭髪を染め戻し,ピアスを付けて登校したため,H教諭らは4日後までに黒色に染め戻し,ピアスを外すよう指導をしたこと,原告は,上記頭髪指導に対して,黒いやん,染めてるやんなどと述べて頭髪指導に従う姿勢を見せなかったこと,原告の母は,翌23日,大阪府教育庁に対し,本件高校の頭髪指導について苦情を申し立てたこと,H教諭らは,同月26日,原告の頭髪の状態にほとんど変化がなかったことから,再度4日後までに黒色に染め戻すよう指導をし,以降も,原告の頭髪の状態にほとんど変化がなかったことから,同月30日,同年9月2日,同月6日と,頭髪を黒く染め戻すよう指導を行ったこと,これに対し,原告は,同月6日にはF主任に対し,頭髪指導に従う意思がないことを述べたことが認められる。
二学期の始業式(同年8月22日)の時点における原告の頭髪の色の状態について,原告は,同年9月8日に原告が撮影した写真(甲2)あるいは同月13日に原告代理人が撮影した写真(甲3)と同様に,社会通念上黒色と評価される色であった旨主張するが,上記写真(甲2)は,写真そのものから撮影日時が明らかでない上,原告が本件高校に登校しないことを決めた後に何らかの証拠として残す目的をもって撮影したものであるし,上記写真(甲3)の撮影日付は同月13日であり,原告が本件高校に登校しなくなった後に染髪することも可能な期間が経過していることをも考慮すると,同年8月22日の原告の頭髪の色の状態が,上記各写真(甲2,3)と同じであったものと認めるに足りない。かえって,前記認定事実(3)ウ及び(4)アによれば,原告が同年7月に染髪した色が明るいオレンジがかった茶色(別紙色彩表11番ないし12番程度)であったと認められ,原告が一度染め戻したものの別紙色彩表の7番ないし8番程度の茶色にとどまったというのも不自然ではないこと,本件高校の教員らは,2年生の一学期の原告に対する頭髪指導においては,染め戻しが不十分であると感じても,原告が頭髪指導に従う姿勢を示していた場合には,それ以上の指導を見あわせるなどの柔軟な対応をしてきた経過が認められること等からすれば,二学期の始業式の日に原告の頭髪を直接確認したところ,上記各写真(甲2,3)のような色ではなく,別紙色彩表の7番ないし8番程度の茶色であった旨の証人F,同J,同Hの各供述には信用性があるというべきである。
そして,原告の二学期の始業式(同年8月22日)時点の頭髪の色の状態は,別紙色彩表の7番ないし8番程度の茶色であったと認められるところ,原告は,同日の頭髪指導に対して,黒いやん,染めてるやんなどと述べて頭髪指導に従う姿勢を見せなかった上,原告の母は,翌23日に直ちに大阪府教育庁に対して上記頭髪指導についての苦情を申し立てた経過からすれば,原告や原告の母が,二学期の始業式(同年8月22日)時点の原告の頭髪の色の状態(別紙色彩表の7番ないし8番程度の茶色)で十分であると考え,頭髪指導に従う姿勢を見せなかったことが認められるのであって,8月22日から9月6日までの間に,4日に一度の頻度で,頭髪指導を受ける度に,これに従って原告が頭髪を黒く染め直していた旨の証人Pの供述を採用することはできず,かえって,8月22日から9月6日までの間,原告の頭髪の色の状態にはほとんど変化がなかったから頭髪指導を継続した旨の,証人F,同J,同Hの各供述には信用性があるというべきである。
(ウ) 以上のような経過からすれば,同年8月22日以降,原告に対して4日おきに5回にわたり頭髪指導がされたのは,原告が頭髪指導に従う姿勢を見せず,頭髪を十分に黒く染め戻さない状態が継続したことによるものであるから,本件高校の教員らが,本件指導方針に基づき,原告に対し,4日おきに繰り返し頭髪指導を行ったことは,その態様,方法,程度において本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱した違法があったということはできない。
ウ(ア) 原告は,本件高校の教員らは,原告が社会通念上黒色と評価される色に頭髪を染め戻していたにもかかわらず,平成28年9月8日,原告に対して別室指導を行い,同日以降黒染めが不十分という理由のみで授業への出席や学校行事への参加を実質的に禁止したのは,生徒指導の名を借りたいじめにも等しいものであって,比例原則に反する旨主張する。
(イ) 前記イの認定判断のとおり,同年8月22日以降,原告は,4日おきに合計5回の頭髪指導を受けたが,頭髪の色の状態は,別紙色彩表の7番ないし8番程度の茶色のままほとんど変化がなかったことが認められる。そして,前記認定事実(4)ウないしカによれば,同月22日以降の上記頭髪指導に対し,原告の母は,同月23日に大阪府教育庁に対して頭髪指導についての苦情を申し立てるなど本件高校の教員らによる頭髪指導に不満を持ち,非協力的であったことに加え,原告も,黒いやん,染めてるやんと述べるなどして頭髪指導に従う姿勢を見せなかったことが認められる。そして,F主任は,同月6日,そのような状況下において,原告に対し,このままであれば別室指導となる旨を述べて自発的な改善を促して帰宅させたものの,原告はなおも同月8日に頭髪を黒く染め戻すことなく登校し,さらに本件高校の教員らによる頭髪指導に従う意思がない旨を述べたことが認められる。
このような原告に対する頭髪指導の経過に照らせば,これ以上従前と同様の態様で頭髪指導を続けたとしても,原告本人による自発的な改善の見込みは極めて低く,原告の母親による家庭内での指導,改善に期待することも困難であったと言わざるを得ず,原告は別室指導を避けるための再考の機会を与えられながらも頭髪指導には従わない旨の意思を表明していたのであるから,本件高校の教員らが,別室指導というより強制力の強い指導方法を選択したことには合理的な理由があったというべきである。
なお,前記認定事実(4)オによれば,別室指導は,生徒が学校に登校した場合,教室で他の生徒と共に学習等を行わず,別室で指導担当教員が学習指導を行うものであって,授業外の活動についても他の生徒と共に参加することを禁止する内容のものであるが,学校への登校を前提とする指導であることからすれば,学校への登校自体を禁止する停学処分等の懲戒処分と同視することはできない。
エ 以上によれば,2年生の夏休み(平成28年7月)以後の原告に対する一連の頭髪指導についても,学校教育法上正当な目的に基づくものと認められ,その指導の態様及び内容についても社会通念を逸脱したものであるとか合理性を欠くものであるとまでいうことはできないから,これらの頭髪指導について,本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱した違法があったとは認められない。
(3) 小括
以上のとおりであって,原告に対し,本件校則及び本件指導方針に基づいてされた2年生の夏休み(平成28年7月)以降の頭髪指導が,その目的,態様,方法,程度において,本件高校の教員らの有する教育的指導における裁量の範囲を逸脱していたということはできず,国家賠償法1条1項にいう違法があったとは認められず,学校契約上の債務不履行があるとも認められない。
4 争点3(本件高校における,原告が登校をしなくなって以降の措置につき,国家賠償法上の違法又は学校契約上の債務不履行の有無)について
(1) 3年生の名列表に原告の氏名を記載せず,教室に席を置かなかった行為について
ア(ア) 原告は,本件高校の教員らが,原告が3年生に進級したにもかかわらず,原告が所属するとされた3年5組の名列表に原告の氏名を記載せず,同クラスの教室に原告席を置かないという措置(以下「本件措置」という。)をとったことが,教育環境配慮義務に違反し,国家賠償法1条1項又は学校契約上の債務不履行に基づく違法がある旨主張する。
(イ) 学校及び教員は,在学する生徒に対し,在学法律関係に基づく義務として,学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の心身の安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ,高校の校長や教員らは,生徒の教育を行うに際し,上記安全配慮義務の一環として,生徒の心身の健全な発達に適した教育環境を整えるべき信義則上の義務(教育環境配慮義務)を負うと解するのが相当である(学校教育法37条4号,同条11号,62条参照)。
そして,かかる教育環境配慮義務は,不登校となった生徒に対しても及ぶところ,具体的に,当該生徒に対し,登校回復に向けた教育環境を整える目的をもって,どのような働きかけや措置を取るかについての判断は,当該生徒が不登校となった理由,心身の状況,登校への意欲等の諸般の事情を考慮する必要があって,学校の事情に通暁した校長や教員らの裁量に委ねられるべきものであるから,当該措置が裁量権の範囲を逸脱したものと認められる場合に限り違法となるものと解するのが相当である。
イ(ア) 被告は,名列表に原告の氏名を記載し,教室に原告席を置けば,原告が勝手に欠席を続けているにも関わらず3年生に進級したことが他の生徒にも明らかになり,他の生徒が原告席にいたずらをし,あるいはSNS等に原告の心情を傷つけるような無責任な噂が拡散される可能性があったことから,本件措置は,かかる事態により原告の登校回復が困難になることを避ける目的で行った合理的な措置である旨主張する。
(イ) しかし,本件措置が原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的をもってされたものであれば,原告らに対して本件措置を取ること及びその理由が十分に説明されるべきであったところ,前記認定事実(5)によれば,平成28年9月9日以降原告が本件高校における頭髪指導を契機として不登校となり,同月下旬からは原告代理人をも交えて本件高校との間で頭髪指導の在り方や原告の学習機会の確保等について協議がされていた状況にあったにもかかわらず,本件高校の校長や教員らは,本件措置を取ったこと自体を原告,原告の母及び原告代理人に何ら説明しなかった上,本件措置が原告らに偶然発覚した後も,本件措置を取った理由が被告の上記主張のとおりであることについて本件訴訟に至るまで説明しなかったことが認められる。加えて,前記認定事実(5)キ及びケによれば,原告の母や原告代理人が本件措置を知った後,本件措置によって原告が二度と学校に来られなくなるなどとして強く抗議をしたにも関わらず,D校長は,本件措置を5か月にわたって継続し,大阪府教育庁からの指導を受けてようやく本件措置を取りやめた経過が認められるのであって,本件高校の校長や教員らが,本件措置が原告の意思に明確に反することを認識しながら,あえて本件措置を継続した経過に鑑みても,本件措置が,不登校の状態にあった原告の心情に配慮してされたものとは言い難く,真に原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的をもってされたものであったと評価することはできない。
(ウ) また,客観的にも,本件措置は,原告が3年生の当該クラスに,ひいては本件高校に在籍していないかのような外観を生じさせるものであるところ,不登校の生徒が,学校が本件措置をとったことを知った場合,通常,学校から,自分が学校に在籍していること自体を否定され,登校を拒絶されているものと考えて心理的打撃を受け,学校に対する不信感を覚え,一層登校が困難となるであろうことは容易に想像し得るというべきである。そして,実際にも,前記認定事実(5)カ,キ,コによれば,原告は,不登校の状態が継続していたものの,登校回復への意欲を示しつつあり,平成29年6月15日,原告の母及び原告代理人とともに,登校回復に向けて本件高校の教員らと面談をする予定で本件高校に行ったにもかかわらず,本件措置を知ることとなり,本件高校には戻るべき場所がなくなったと言って意気消沈し,本件高校の教員らに対する不信感を募らせ,卒業するまでの間,本件高校に行くことができない状態が継続したことが認められる。そうすると本件高校の校長や教員らが本件措置を講じたことは,原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的との関係で,本件措置が不登校の状態にあった原告に与える心理的打撃等の事情を考慮せず,又はこれらの事情を著しく軽視した点において,その手段の選択が著しく相当性を欠いていたと言わざるを得ない。
ウ 以上によれば,前記3の認定判断のとおり,原告の不登校の契機となった本件高校における頭髪指導に違法性が認められないことを考慮しても,本件高校の校長や教員らが本件措置を行ったことは,真に原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的をもってされたものとは認められず,また,上記目的との関係でも,本来考慮すべき事情を考慮せず,又はこれを著しく軽視した点において,その手段の選択が著しく相当性を欠くと言わざるを得ないから,本件高校の校長や教員らに与えられた教育環境配慮義務における裁量権の範囲を逸脱し,国家賠償法1条1項にいう違法があるものと認められる。
(2) 本件高校が頭髪指導の違法を認めて謝罪しないことや,原告を修学旅行に参加させなかったこと等について
ア 原告は,本件高校の教員らが,頭髪指導の違法を認めて謝罪しないこと,黒染めをしない限り修学旅行には参加させない旨告げて原告を修学旅行に参加させなかったこと,修学旅行費用の返金の際にキャンセル料を差し引いたこと,修学旅行積立金とキャンセル料を相殺した旨の通知の宛名を「K」と誤記したことが,教育環境配慮義務に違反し,国家賠償法1条1項又は債務不履行に基づく違法がある旨主張する。
イ しかし,前記3の認定判断のとおり,本件高校における原告に対する頭髪指導は違法なものであったとは認められないから,本件高校の教員らがその頭髪指導の違法を認めて謝罪しないことや,原告に対する頭髪指導を引き続き行う方針を示していたことについて,違法であると認めるに足りない。
そして,原告が修学旅行に参加しなかったことについては,本件高校の教員らによる違法な頭髪指導等の行為に起因するものとは認められないのであるから,原告自身の判断によるものというほかない。そうすると,修学旅行に参加しなかった原告に対し,修学旅行費用の積立金からキャンセル料を差し引き,残金を返金したことについて,何らの違法は認められない。また,修学旅行費用の返金の際に封筒に原告の氏名が誤記されていたことについて,本件高校の教員らが,あえて原告の氏名を誤記したものと認めるに足りる証拠はなく,封筒における氏名の誤記が教育環境配慮義務に違反するとは認められない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告が不登校になっていることに関する噂の除去に努めず,悪い噂を助長したことについて
ア 原告は,原告代理人や原告の母が,本件高校の教員らに対し,本件学校内で原告の不登校が噂になっていることが登校回復の阻害要因となっている旨伝えたにもかかわらず,上記阻害要因の除去に努めず,かえって,D校長は,原告の友人に対し,原告が学校の指導を守らず学校に来ていない,原告は学校を訴えようとしているなどと虚偽の事実を告げ,原告に対する悪い噂を助長させたことが,教育環境配慮義務に違反し,国家賠償法1条1項又は債務不履行に基づく違法がある旨主張する。
イ しかし,前記認定事実(5)エないしキによれば,本件高校の教員らは,原告の不登校の期間中,原告の学習保障及び進級等のために,学習課題やその解答,授業ノートのコピー等を交付していたこと,D校長は,原告の友人である生徒に対し,校長が話をしたいと言っている旨を原告に伝えてほしい,原告が転校を希望するのであれば協力したいなどと告げ,原告と直接連絡を取ろうとしていたことが認められる。
前記(1)ア(イ)のとおり,不登校となった生徒に対する教育環境配慮義務に基づく具体的な働きかけや措置に関する判断は,学校の事情に通暁した校長や教員らの裁量に委ねられるべきものであるから,当該措置が裁量権の範囲を逸脱したものと認められる場合に限り違法となると解するのが相当であるところ,D校長が,原告の友人である生徒に対し,原告が学校の指導を守らず学校に来ていない,原告は学校を訴えようとしているなどと虚偽の事実を告げたものと認めるに足りる的確な証拠はない。また,本件学校の教員らが,原告に対して学習課題を交付したり,D校長が,原告の友人に対して上記の事実を告げて原告と連絡を取ろうと試みるなどしたことが,不登校の状態にあった原告に対する教育環境配慮義務に基づく具体的な働きかけや措置に対する判断として,教員らに与えられた裁量の範囲を逸脱した違法があったものと認めるに足りない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
5 争点4(原告に生じた損害の額)について
(1) 前記2ないし4の認定判断のとおり,本件高校の教員らが本件措置をとったことは,本件高校の校長や教員らに与えられた教育環境配慮義務における裁量権の範囲を逸脱し,国家賠償法1条1項にいう違法があるものと認められ,被告は,原告に対し,同項に基づき本件措置によって原告が受けた損害を賠償すべき責任を負うと認められるが,その余の原告の請求には理由がないから,以下は,本件措置によって原告に生じた損害の範囲について検討する。
(2) 精神的損害について
前記4(1)の認定判断によれば,原告は,本件高校の頭髪指導を契機として不登校の状態が継続していたものの,登校回復への意欲を示しつつあり,平成29年6月15日,原告の母及び原告代理人とともに,登校回復に向けての面談のために本件高校に行ったにも関わらず,本件措置を知ることとなったもので,原告が,本件高校には戻るべき場所がなくなったなどと言って意気消沈し,以降,卒業までの間,不登校状態が継続したことが認められる。そして,客観的にも,本件措置は,原告が当該クラスや本件高校に在籍していないかのような外観を生じさせるものであることからすれば,原告が本件高校から在籍していること自体を否定され,戻るべき場所を失ったものと感じて受けた心理的打撃の程度は相当に強いものであったと認められる。
一方で,前記3の認定判断によれば,原告の不登校の契機となった本件高校における頭髪指導が違法であったとは認められないことに加え,前記認定事実(5)によれば,本件高校の教員らは,原告代理人を通じて学習課題を交付するなど原告の不登校期間中の学習機会の確保について配慮をし,原告は,本件高校の卒業認定を受けたという経過が認められる。
このような,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,本件措置によって原告が受けた精神的苦痛を慰謝するための金員としては30万円が相当であり,本件と相当因果関係のある弁護士費用としては3万円が相当であると認められる。
(3) 修学旅行代のキャンセル料相当額及び治療費について
原告は,修学旅行代のキャンセル料相当額及び原告が平成29年1月13日ないし同年4月13日の診療に要した治療費(甲17,18[枝番号含む])についても損害である旨主張する。
しかし,原告に対する頭髪指導について国家賠償法上の違法が認められないことは前記3の認定判断のとおりである。そして,本件高校において原告に対して本件措置が取られたのは平成29年4月以降のことであり,原告が本件措置を認識したのは同年6月15日のことであるから,それ以前に原告が支出した,原告の同年1月13日ないし同年4月13日の診療に要した治療費や平成28年11月17日に差し引かれた修学旅行代のキャンセル料相当額は,本件措置がされたこととの間に因果関係が認められない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
6 その余の原告及び被告の主張も,上記認定判断を左右するものではない。
7 まとめ
以上のとおりであるから,原告の請求は,国家賠償法1条1項に基づき33万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害の支払を求める限度で理由があり,その余の請求には理由がない。
第4 結論
したがって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第18民事部
(裁判長裁判官 横田典子 裁判官 冨岡健史 裁判官 小草啓紀)
別紙 略