裁判年月日 令和元年 5月27日
裁判所名 大阪地裁
裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)8399号
事件名 損害賠償請求事件
原告 X
同訴訟代理人弁護士 四宮章夫
同 牧野誠司
同 野田俊之
同訴訟復代理人弁護士 谷貴洋
同 林村涼
被告 大阪府
同代表者知事 A
同訴訟代理人弁護士 筒井豊
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
主文
1 被告は,原告に対し,6万円及びこれに対する平成28年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用については,これを66分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,397万4473円及びこれに対する平成28年8月31日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,大阪府立a高等学校(以下「本件高校」という。)の教諭であった原告が,同校校長の原告に対する成績評価,大阪府教育委員会(以下「府教委」という。)の原告に対する停職処分及び府教委の原告に対する指導改善研修命令等について,いずれも裁量権を逸脱又は濫用する違法なものであったことに加え,研修担当者らが,指導改善研修期間中,原告に対して違法なパワー・ハラスメント行為(以下「パワハラ行為」という。)を行ったことを理由として,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,これらの各行為によって被った経済的損害,精神的損害及び弁護士費用の合計397万4473円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年8月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,大阪府の高等学校教諭であり,平成23年4月1日から平成28年3月31日までの間,本件高校に教諭として勤務し,数学の授業を担当していた。
イ 被告は,本件高校及び府教委を設置している地方公共団体である。
ウ D(以下「D校長」という。)は,平成22年4月1日から平成28年3月31日までの間,本件高校の校長の職にあった者である(証人D)。
(2) 府立学校の教員に対する評価の仕組み
ア 本件高校を含む府立学校の教員に対する職務上の評価は,「教職員の評価・育成システム手引き」(以下「評価育成手引」という。)に基づき,業績評価及び能力評価並びにそれらの結果に基づく総合評価で行なっている。
各評価は,最上位評価のSS,S,A,B,最下位評価のCと5段階に区分されている。
(乙A2,3)
イ 府教委は,教職員の評価に関し,平成25年度から,授業アンケートの方法による生徒からの授業評価を導入した(乙A4)。
(3) 原告に対する評価
原告に対する平成23年度ないし平成25年度の評価(以下,これらの評価を総称して「本件評価」といい,各年度の評価をそれぞれ「23年度評価」,「24年度評価」及び「25年度評価」という。)は,@23年度評価が,業績評価の一次評価がA評価であったものの,能力評価及び総合評価の一次評価並びに業績評価,能力評価及び総合評価の二次評価は,全てB評価であり,A24年度評価及び25年度評価が,業績評価,能力評価及び総合評価の一次評価及び二次評価いずれもB評価であった。
各年度における一次評価者は本件高校の教頭らであり,二次評価者はD校長であった。
(甲A1の@ないしB)
(4) 被告の「職員の懲戒に関する条例」(昭和26年11月8日大阪府条例第42号)には,以下の規定がある(なお,本件に関連するもののみを示す。)。
ア 2条1項
別表の中欄に掲げる行為(法29条第1項各号のいずれかに該当する行為をいう。以下「非違行為」という。)をした職員に対する標準的な懲戒処分の種類は,同表の下欄に定めるとおりとする。
イ 2条2項
任命権者(特定地方独立行政法人の理事長を含む。以下同じ。)は職員が別表の中欄に掲げる非違行為以外の非違行為をしたときは,当該非違行為に類似する同欄に掲げる非違行為に対する懲戒処分の取扱いを参考にして,当該非違行為に対する懲戒処分を決定することができる。
ウ 8条1項
停職の期間は,1日以上6月以下とする。
エ 別表25項
「児童又は生徒に体罰をすること」についての標準的な懲戒処分の種類は,「戒告,減給又は停職」であるとされている。
(以上につき,乙B6)
(5) 停職処分
ア 原告は,平成25年6月3日,本件高校の女子生徒Aに対し,同人が本件高校の教諭に暴言を吐いたことを契機とし,机をたたきながら大声で「何考えてんねん」などと言って,指導を行った。
イ 本件高校の女子生徒B(原告の担任する生徒ではない。)が,平成25年6月10日,原告の担任する他の女子生徒に対していじめをしていた疑いがあったため,女子生徒Bの担任である教諭から指導を受けていた際,原告は,女子生徒Bに対し,「他に誰に嫌がらせをしたんや」,「お前がやってることは,わかっとんねん」,「正直に言えや」などと言いながら,机や壁を叩くなどした。女子生徒Bが,泣きながら「来たくて学校に来てるんじゃない」,「学校やめるからええやろ」などと言い,女子生徒Bの担任教諭が,原告に対し,何度も「やめてください」と原告を制止したにもかかわらず,原告は,女子生徒Bに対する上記のような言動を止めなかった。
(以上につき,乙B2の@,B7)
ウ 原告は,平成26年1月24日,本件高校に在籍していたE(以下「E」という。)に対し,午後11時頃にEの自宅を訪問した上で,Eの左頬を右平手で1回叩き,胸ぐらを両手でつかんで数回揺さぶり,「何を考えてんねん」,「俺がどれだけお前のことを考えているか分かっているのか」,「お前が退学になってしまったら俺はどうしたらいいんや」などと泣いて叫んだ(なお,原告がEの身体を壁に押し付けたか否かについては当事者間に争いがある。)。その後,原告は,Eの母親と共に,翌25日午前3時頃まで,Eに対する説教を続けた。
(乙B1〔枝番を含む。〕,乙B2〔枝番を含む。〕,乙B7)
エ 府教委は,平成26年5月22日,原告の女子生徒A,B及びEに対する上記アないしウの行為などについて,原告から事情聴取を行った(乙B2の@)。
オ 府教委は,平成26年7月18日,原告に対して,地方公務員法29条1項1号及び同項3号に基づき,同年8月18日まで,1か月の停職を命じる処分を行った(以下「本件停職処分」という。)。
本件停職処分に係る処分説明書によれば,同処分は,要旨,@原告が,Eの左頬を中程度の力で1回叩き,胸ぐらをつかんで揺さぶり,その身体を壁に押し付け,学校教育法11条ただし書で禁止されている「体罰」を行ったこと,AEの自宅において深夜3時まで説教を続けたこと,B女子生徒A及びBに対して上記ア及びイの行為を行ったこと,C校長らから生徒指導について指導を受けたことがあったにもかかわらず,生徒に対して粗暴な言葉で応対し,大声で恫喝することがあったことが理由であるとされている。
(甲B1,B2)
(6) 研修命令及び研修延長命令に係る規定等
ア 平成25年12月13日施行の改正教育公務員特例法(以下「教特法」という。)には,以下の規定がある(なお,以下の規定内容は,平成19年法律第98号による改正に係る教育公務員特例法のものと同一である。)。
(ア) 25条の2第1項
公立の小学校等の教諭等の任命権者は,児童,生徒又は幼児(以下「児童等」という。)に対する指導が不適切であると認定した教諭等に対して,その能力,適性等に応じて,当該指導の改善を図るために必要な事項に関する研修(以下「指導改善研修」という。)を実施しなければならない。
(イ) 25条の2第2項
指導改善研修の期間は,1年を超えてはならない。ただし,特に必要があると認めるときは,任命権者は,指導改善研修を開始した日から引き続き2年を超えない範囲内で,これを延長することができる。
(ウ) 25条の2第4項
任命権者は,指導改善研修の終了時において,指導改善研修を受けた者の児童等に対する指導の改善の程度に関する認定を行わなければならない。
(エ) 25条の2第5項
任命権者は,第1項及び前項の認定に当たつては,教育委員会規則で定めるところにより,教育学,医学,心理学その他の児童等に対する指導に関する専門的知識を有する者及び当該任命権者の属する都道府県又は市町村の区域内に居住する保護者(親権を行う者及び未成年後見人をいう。)である者の意見を聴かなければならない。
(オ) 25条の2第6項
前項に定めるもののほか,事実の確認の方法その他第1項及び第4項の認定の手続に関し必要な事項は,教育委員会規則で定めるものとする。
イ 「教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律について」(平成19年7月31日19文科初第541号文部科学事務次官通知)によれば,平成19年法律第98号による改正後の教育公務員特例法25条の2第2項の概要又は留意事項として,「特に必要があると認めるとき」とは,「当初に定められた指導改善研修の期間の終了時において,再度研修を行うことにより当該教諭の指導の改善の余地が見込まれる場合を想定していること。」とされている。
(乙C3)
(7) 原告に対する研修命令等
ア 府教委は,平成26年8月28日,原告に対し,教特法25条の2第1項に基づき,概要,以下の内容の指導改善研修命令(以下「本件研修命令」という。)を命じた。
(ア) 研修期間
平成26年9月1日から平成27年3月31日
(イ) 研修場所
大阪府教育センター
(ウ) 研修内容
@ 体罰の重大性を深く認識し,順法の精神を身につけて,今後,決して体罰を起こさない自己を確立する。
A これまでの教員生活を振り返り,自己の問題点を見直すことにより,自己の弱さを認識し,自らの固定的な教育観を改め,教員として必要な資質を身に付け教育公務員としての自覚と責任を持つ。
B 適切に生徒の心理を理解し,適切な生徒指導を行えるようにする。
(甲C4)
イ(ア) 府教委は,平成27年3月30日,原告に対し,教特法25条の2第2項及び第4項に基づき,指導改善研修の研修期間を同年8月31日まで延長する研修延長命令(以下「本件延長命令1」という。)を行った。
本件延長命令1の研修内容については,以下のとおりである。
@ 体罰行為がどれだけ生徒の人権を侵害するものであるかについて認識をさらに深め,力に頼らない適切な指導方法を身につけ,順法の精神に立った,決して体罰を起こさない自己を確立する。
A これまでの教員生活を振り返り,自己の課題について認識を深め,適切な生徒指導が行えるスキルを身につけるとともに,具体的に実践できる自己を確立する。
B 自らの固定的な教育観を改め,人権尊重の視点に立ち,生徒の心理を理解した,適切な対応や生徒指導ができる能力を高め,教育公務員としての自覚と責任を持つ。
(甲C5)
(イ) 府教委は,平成27年8月31日,原告に対し,教特法25条の2第2項及び第4項に基づき,指導改善研修の研修期間を同年12月31日まで延長する研修延長命令(以下「本件延長命令2」という。)を行った。
本件延長命令2の研修内容については,以下のとおりである。
@ 所外研修において,これまでの学び方を実践し,適切な生徒の指導方法について認識を深める。
A 所外研修における実践を基に,生徒のイメージをより具体的にもち,生徒理解や生徒指導の方法について考え,スキルを高めていく。
B 体罰行為の違法性,人権尊重の重要性や生徒理解の必要性について,所外研修の経験を踏まえ,再度考えることにより,生徒を大切にする指導を行う意識を確立する。
(甲C6)
(ウ) 府教委は,平成27年12月22日,原告に対し,教特法25条の2第2項及び第4項に基づき,指導改善研修の研修期間を平成28年3月31日まで延長する研修延長命令(以下「本件延長命令3」といい,本件延長命令1ないし3を総称して「本件延長命令」という。)を行った。
本件延長命令3の研修内容については,以下のとおりである。
@ 所外研修における実践を基に,自己の生徒指導の在り方を再度整理し,感情をコントロールする力を高める機会とする。
A ロールプレイや面談により,自己の生徒指導の在り方を再度整理し,感情をコントロールする力を高める機会とする。
B 体罰行為の違法性,人権尊重の重要性や生徒理解の必要性について,所外研修の経験を踏まえ,再度考えることにより,生徒を大切にする指導を行う意識を確立する。
(甲C7)
ウ 本件研修命令及び本件延長命令に基づく研修は,大阪府教育センター(以下「教育センター」という。)で行われた。
原告に対する研修を担当したのは,平成26年度,教育センター学校経営研究室室長の職にあったF(以下「F室長」という。),平成27年度から平成29年度,同室長の職にあったG(以下「G室長」という。),同研究室主任指導主事であったH(以下「H指導主事」という。),教職員人事課管理主事であったI(以下「I管理主事」という。)及びJ(以下「J管理主事」という。),上記研究室資質向上指導員であるK(以下「K指導員」という。)であった。
(甲C4ないし7,証人F,証人G,弁論の全趣旨)
第3 本件の争点
1 本件評価が,国賠法上違法といえるか否か(争点1)
2 本件停職処分が,国賠法上違法といえるか否か(争点2)
3 本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における原告に対する発言が,国賠法上違法といえるか否か(争点3)
4 原告に係る損害の有無及びその額(争点4)
第4 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件評価が,国賠法上違法といえるか否か)について
【原告の主張】
(1) 本件高校は,原告が勤務していた当時,入学した生徒の半数程度が途中退学するという状況にあった。そこで,原告は,こうした状況を打破すべく,授業だけではなく,生徒の生活指導にも熱心に取り組み,多くの生徒に対し,途中退学することなく,卒業することができるように指導を続けていた。
(2) D校長は,業績評価に関して,原告の問題点を指摘しているものの,「個人目標の達成状況」や「職種等により設定された評価要素」に照らして,原告にどのような問題があったのかという点については指摘していない。したがって,D校長は,評価基準に従って業績評価を行ったとはいえず,むしろ,D校長は,評価基準とは無関係な主観的な基準に基づいて,原告に係る業績評価を行ったものということができる。
(3) 能力評価のうち,「授業力」について,原告の授業は,生徒から「わかりやすい」と評判であり,本件高校で行われていた授業アンケートにおいても,高い評価を得ており,生徒の評判を聞いた保護者からの評価も当然高かった。校長が,授業アンケートの結果と異なって,低い評価を行う場合,校長の評価には客観的な証拠が伴わなければならないというべきところ,D校長は,原告が生徒の授業アンケートにおいて,平均以上の高い評価を得ていたことをどのように評価したかという点について,明らかにしていない。
D校長は,平成23年度に原告の授業を見学した際,授業見学評価表において,「板書が見やすい」,「説明が分かりやすい」,「副教材や補助プリントなど理解を助ける配慮がなされている」などの項目について,3段階中の真ん中の評価であるB評価をした上で,総合評価について,3段階中の真ん中の評価であるB評価を行っている。また,D校長は,平成25年度の授業見学の結果,原告が「生徒取組」において,生徒が授業を受けるに当たっての姿勢や準備ができており,「生徒意識」において,生徒がやる気を失わず授業を受けていたと評価して,「授業観察評価」について,「○(概ねできていた)」との評価を行っている。
(4) B以下の評価が付けられた府立学校の教員は,平成23年度において0.83%,平成24年度において0.92%,平成25年度においては1.94%である。原告に対しては,こうした低い評価を付けるに値するような問題点は何ら存在しない。
D校長は,「協同的な学び」(グループ学習やコの字形座席配置による発言の交流と共有を授業に取り入れ,生徒同士の学び合いと積極的な授業参加により,一斉授業だけでは得られない深い学びと問題解決能力の育成を目指す取組)という独自の理念に沿った授業を行うよう教員に対して要求していたところ,「協同的な学び」という理念に賛同していなかった原告に対し,悪感情を抱いていたため,原告に対し低評価を行ったものと考えられる。
(5) 被告は,原告が授業で使用していた数学のプリントの問題が,「○×△」で答えるようなもの,解答を暗記させる内容のものと主張するものの,「○」や「△」といった記号は,そこにあてはまる数字を生徒に考えさせたり,公式を覚えさせたりするために用いたものである。「○」や「△」の記号を使用してプリントを作成するのは,本件高校の数学科の方針として行われていたことである。D校長は,「○」や「△」といった記号をみても,これらの記号が用いられた意図を理解できる数学的素養がないために,原告の授業を「数学的でない」と評価したのである。
(6) 被告の主張する本件評価の基礎となった事実について,@23年度評価に関しては,原告の授業が分からないために生徒が暴走しそうになったとか,特定の女子生徒に対して「俺の中でダントツや」と発言したなどの事実は否認する。原告が,「飛ばせ,飛ばせ」と発言したことについては,分かる問題から解くようにとの趣旨であって,何ら問題性を有するものではない。また,A24年度評価に関しては,原告が放課後に生徒を集めて補講を行っていたことは事実であるが,友人のような生徒だけを集めて行っていたのではない。その他,被告が指摘する評価の理由については,極めて抽象的である。B25年度評価に関しては,女子生徒A及びBに対する指導については,事実に対する評価を誤ったものである。Cその他,研究授業で依然として考えさせる授業を行っていない,女子生徒を追いかけたなどといった事実については,これらの事実を裏付ける客観的証拠は何ら存在しない。
(7) 以上のとおり,本件評価は,明らかに事実誤認に基づくものであるか,あるいは,事実に対する評価が著しく不合理であるから,裁量権を濫用・逸脱したものであり,国賠法上違法というべきである。
【被告の主張】
(1)ア 23年度評価について
(ア) 原告は,生徒に対し,授業で分からないことがあっても,「飛ばせ,飛ばせ」,「やらないでいい」などと発言したり,授業の途中に5分間一斉に寝るよう促すなどした。また,ロングホームルームの時間には,原告の授業が分からないとの理由で,生徒が暴走しそうになることがあった。
D校長は,かかる原告に係る事象を受けて,他の教職員ら同席の下,原告と生徒3名を面接させたところ,生徒らからは,原告の授業は「分からないし,分からないと言っても相手もしてくれない」,「分からないと言っても,『書いとけや。お前らは授業に協力していたらええんや』と言うだけだ」との発言があった。
(イ) 原告は,必要以上に生徒との距離が近く,学校全体として対応すべきところでも独断で行動してしまうなど,教員としての立場を理解した上での対応ができていなかった。例えば,原告は,謹慎中や停学中の生徒に対して直接指導を行っている他の教員がいるにもかかわらず,これらの生徒に個人的なメールを送信するなどしていた。原告は,こうした生徒への対応について,管理職等から何度も指導を受けていたが,他の教員と協力・連携し,生徒の成長・発達に寄与するような教育活動を進めることなどができなかった。
(ウ) 以上のように,原告には,授業の計画的な実施や学習指導における生徒との関わり方などに課題があった。
イ 24年度評価について
(ア) 原告は,授業に関して,「○×△」で答えることができるようなプリントを使用するなど,教材や授業の進行方法に関する工夫が不足していた。
(イ) 原告は,平成23年度に引き続き,必要以上に生徒との距離感が近く,教員として生徒との適切な関係性が築けておらず,管理職等から繰り返し指導を受けていた。
(ウ) 原告は,教科や学級の運営に積極的に取り組むこともほとんどなかったため,その点に関しても繰り返し管理職等から指導を受けていた。しかし,原告は,他の教職員との協力・連携に努め,主体的に行動するというまでには至っていなかった。
ウ 25年度評価について
(ア) 平成25年度において,原告に対し,授業アンケート結果を踏まえた授業観察や職務行動の把握が行われた。
原告は,平成25年6月20日,府教委の職員らが本件高校に来校の上で,研究授業を行ったところ,府教委の職員らは,同授業の内容について,解答に至るプロセスの説明や生徒自身が考える時間の確保という点で工夫する必要があり,本件高校が掲げる協同的な学びにおける課題に工夫・研究が必要であると判断した。その後,原告に対しては,管理職等による授業改善に向けた指導が継続されたものの,改善には至らなかった。
(イ) 原告は,生徒指導において,女子生徒A及びBに対し,威圧的・粗暴な言動を用いたほか,1限目から早退したいと職員室へ来た他のクラスの女子生徒に対し,「待て,コラ」などの粗暴な言葉で対応し,他の教員が制止するのに対しても,「こんなことだから指導がはいらない。生徒になめられている」などと言い,同制止を聞き入れないことがあった。また,原告は,過去に授業を担当していた生徒らに対し,担任に相談のないまま,具体的な大学名を挙げて進学目標にさせるなど,学校としての統一した進路指導方針があるにもかかわらず,自身の価値観に基づく指導を行うということがあった。
(ウ) 原告については,予定期日までに重要な学年会の資料ができていないことがあり,学校全体の進行に大きな支障を生じる状況を引き起こしかけることがあった。
エ 小括
以上のとおり,原告については種々の課題等があり,D校長は,その経験した具体的事実に基づき,評価基準に則して,本件評価を行ったのである。
(2) 教員に対する評価結果については,評価の分布割合が定められておらず,校長は,評価基準に照らして教員個人ごとに絶対評価を行っている。したがって,D校長が,原告に対し,A以上の総合評価を付けるのが通常であるとはいえない。
(3) 生徒からの授業アンケートの回答結果は,授業に対する教育に関する専門的な見地からの評価ではないことから,同回答結果については,教科の特性や教諭等に対する児童・生徒の好き嫌いの感情等の様々な要因による影響も懸念されるところである。そのため,評価者である校長は,授業アンケートの結果については,これを教員の評価に直結させることなく,授業アンケートの結果を踏まえた上で,授業観察での状況や年間を通じた授業改善の取組状況の把握を通じて,教育に関する専門的な見地から能力評価における「授業力」の評価を行っている。
D校長は,原告の授業について,数学であるにもかかわらず,生徒に考えさせて理解させるというものではなく,答えを覚えさせて定期考査で点を取らせようとするなど,その場の状況に迎合する傾向がある授業であると認識していた。そのため,生徒からの原告に関する授業アンケートの結果が高評価であったのは,多くの生徒が,原告の言うところを勉強すればテストで点が取れるので,授業が分かりやすいと錯覚していることもあると考えた。そこで,D校長は,実際に,原告の授業の授業観察や職務遂行行動の把握を行い,これらによって把握した内容に基づいて,原告に対し,授業改善に向けた指導を継続して行った。にもかかわらず,原告の授業は,改善するには至らなかった。以上の点から,D校長は,原告の「授業力」評価を「△(発揮していない)」と判定したのである。
(4) 原告は,本件評価に不満があるのであれば,苦情申出をすることができたにもかかわらず,23年度評価,24年度評価及び25年度評価の結果について,一度も苦情申出をしていない。
(5) 以上のとおりであるから,本件評価は適正になされたものであって,裁量の逸脱濫用はなく,国賠法上違法であるとはいえない。
2 争点2(本件停職処分が,国賠法上違法といえるか否か)について
【原告の主張】
(1)ア 原告のEに対する行為の態様は,Eの後ろに壁がある状態で,Eの体を前後に揺らしただけである。したがって,被告が主張するような「壁に打ち付ける」というほどの激しいものではなかった。
イ Eは,喫煙によって2度の停学処分を受けていたにもかかわらず,3度目の喫煙問題を起こしたことから,原告は,この機会に自分ができる最大限の指導をしなければ,Eは変われないし,退学に追いやられてしまうと考え,「叩かなければならないかもしれない。今叩くのは彼のために必要な行為かもしれない」と思うに至った。そのため,原告が,Eの姉と母親に対し,「退学を避けるためには,手を上げるしかないのかもしれない」と相談したところ,Eの姉と母親も,「手を上げてほしい」という意向であった。
以上によれば,原告のEに対する行為は,怒りや制裁のような不当な目的に基づくものではなく,純粋にEを退学させたくない,変わってほしいという思いから,その保護者からの依頼を受けて行ったものであり,行為態様や継続時間をも考慮し,最高裁判決(最高裁平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号904頁)に照らすと,学校教育法11条ただし書にいう「体罰」にはあたらない。
ウ 原告は,教頭から,「Eとは関わらない方が良い」というようなことを言われたことがあるものの,教頭の同発言は,原告が教頭に呼び出されて個別に注意されたというような態様でなされたものではない。
(2) 女子生徒Aは,原告が担任をしていた生徒であり,以前より,教師からの指導に反発し,喫煙によって停学処分を受けるなどの問題行動があったため,適切な指導を行う必要があった。原告が実際に行ったのは,女子生徒Aの注意を喚起するのに相当な程度で机を叩き,質問をしたにとどまるものである。
原告は,平成25年6月7日,教頭と面談を行った際,教頭から,机を叩いたり,大声で叱責することは控えるように言われたことはあるが,それ以外に,D校長,教頭や学年主任から生徒指導について指導を受けたという事実はない。
(3) 女子生徒Bは,本件高校において複数の生徒に対するいじめを主導していた者と認識されていたところ,原告は,女子生徒Bに対し,いじめの実態を尋ねるとともに,正直に話をしようともせず,態度も良くなかった女子生徒Bに対して,指導を行ったにすぎない。
(4) 本件高校は,毎年100人以上の生徒が途中退学していくような学校であり,生徒が授業中に他校の生徒と一緒になって,教師にヤジを飛ばすような学校である。原告は,こうした状況において,必死になって生徒の指導や更生に取り組んでいた。かかる背景に照らすと,原告の行為は,戒告とされた他の事例と比較して,より悪質であるとはいえないから,本件停職処分は異常に重い処分というべきである。
(5) したがって,本件停職処分は,懲戒権者(府教委)の裁量を逸脱又は濫用したものであり,国賠法上違法というべきである。
【被告の主張】
(1) 原告のEに対する行為は,指導のためという理由で,肉体的苦痛を与える目的・態様で行われた行為であり,最高裁判決の基準に照らしても,学校教育法11条ただし書で禁止される「体罰」に該当する行為というべきである。
原告は,管理職から単独でEの指導に関わらないよう指示されていたにもかかわらず,その指示に従わずに,単独でEの自宅を訪ね,同人に対し,平手で頬を叩き,両手で胸ぐらをつかんで前後に揺さぶる等の体罰を行うなど,午前3時頃まで指導を続けた。深夜にEの自宅を訪問して体罰をした原告の行為は,学校で定めた指導方針を守れず,自分本位な考えで行動するという,極めて不適切な行為といわざるを得ない。
(2) 原告は,女子生徒A及びBに対して,大声で恫喝したり,威圧的な態度で接するなどした。かかる原告の行為は,生徒に社会のルールを教える立場にある教員として,不適切な行為というべきである。
(3) 原告は,Eや女子生徒Aが退学に至ることを避けるために,指導に及んだ旨主張するが,E及び女子生徒Aはいずれも退学に至る行為をしたわけではない。また,原告は,女子生徒Bについても,同人がいじめをしていると勝手に決めつけた上で不適切な行為を行っているのであるから,原告の主張する経緯は,いずれも原告が事実関係や学校の指導方針を理解していないことを示している。
(4) 府教委は,原告の行為について,諸般の事情を総合的に考慮し,合理的な裁量に基づいて教育公務員にふさわしくない行為であると判断し,本件停職処分が相当と判断した。原告は,比較として事例を提示するが,原告が挙げる事例は,懲戒権者や事案の異なるものであるから,適切とはいえない。
(5) 以上のとおり,本件停職処分は,府教委の裁量権の行使が,社会観念上著しく妥当を欠き,あるいは裁量権を逸脱又は濫用したとはいえず,適正かつ適法というべきである。
3 争点3(本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における原告に対する発言が,国賠法上違法といえるか否か)について
【原告の主張】
(1) 本件研修命令について
ア 上記2の【原告の主張】で述べたとおり,本件停職処分は違法であるから,本件停職処分を基礎とする本件研修命令も違法である。
イ 本件研修命令は,原告について,「自分に都合の悪いことは受け入れず,勝手に嘘だと決めつける特性」があり,「体罰の事実を認めていない」という誤った前提に立って行われたものであり,いわば原告に対するいじめである。指導員らは,原告が数千枚にもわたる課題文や反省文を作成していることを把握しておらず,作成された課題文や反省文の一部にしか目を通していなかった。
(2) 本件延長命令について
ア 原告は,研修において,与えられた課題に対し,正に完璧というべき模範解答を行ったり,課題文や反省文では,自らの指導方法に問題があったことを素直に正面から認め,その原因や自らの人格の問題点まで反省をしている。指導員らは,原告が実際にどのように反省を深めているかについては全く興味を示さず,研修目的とは全く異なる指導を行うなどしていた。そうすると,本件延長命令の前提となっている,「生徒の状況や生徒の心情を理解できず,感情もコントロールできない体罰教師」という原告の教師像自体が全くの誤りであり,教特法25条の2第2項ただし書にいう「特に必要があると認めるとき」には当たらない。
イ 以上によれば,本件延長命令は違法というべきである。
(3) 研修期間中の原告に対する発言について
ア 被告職員によるパワハラ行為について
原告は,平成26年9月1日から平成28年3月31日までの研修期間中,別表一覧表の「日時」及び「場所」欄各記載の日時場所において,同「不法行為者」欄に記載された被告職員(研修担当者)から,同「不法行為の内容」欄記載のパワハラ行為を受けた。
イ F室長の発言について
別表番号2及び3の発言は,F室長が,原告の作成した研修課題の中で記載されていた事項について,研修課題を読まないままに指摘をしたものである。
別表番号4の発言は,原告が課題に対し即答すると,即答した点を問題視し,課題に対し回答できないと,回答できないことを問題視するという,非常に不合理な問答であった。
別表番号9の発言は,在日コリアンの生徒数を把握することが,プライバシーの観点や把握可能性の観点から,原告に無理を強いるものである以上,パワハラ行為に当たるものである。
ウ H指導主事の発言について
別表番号11の発言は,H指導主事が,虚偽あるいは誤った事実を原告に押しつけたものである。
別表番号12の発言は,H指導主事が,原告が訪問した中学校の校数について明確に回答したにもかかわらず,原告を非難するものであるから,明らかにパワハラ行為や侮辱行為に当たる違法なものである。
別表番号13の発言は,原告が,学校のルールについてH指導主事よりも正しく理解していたにもかかわらず,H指導主事が,原告に対し,ルールを理解していないと指摘するものであり,パワハラ行為に当たることが明らかである。
エ J管理主事の発言について
別表番号15の発言は,J管理主事が,原告が行った2つのプレゼンテーションについて,それぞれ一点ずつ不十分な点があったと感じていたにすぎないにもかかわらず,原告の指導力が不足していると述べるものであるから,原告の教員としての尊厳を傷つけ,多大な苦痛を与えるものである。
オ I管理主事の発言について
別表番号15の発言は,I管理主事が,原告に対し,原告の指導力につき,「まだ気づいていないことはたくさんあるな,とは思いましたね」などと発言をしたものであり,原告の教師としての尊厳を傷つけるものである。
別表番号16の発言は,I管理主事が,担任への連絡,担任との連携が十分でないという点について,原告はプレゼンテーションの中で指摘していたにもかかわらず,生徒に対しての思いが至っていないなどと誤った報告を行ったものである。
カ K指導員の発言について
別表番号18の発言は,K指導員自身の主張に根拠がないにもかかわらず,原告に対してのみ根拠を要求する不合理ないじめである。
別表番号19の発言は,K指導員独自の見解を執ように原告に押しつけるものであり,そもそも,K指導員による部活動に関する指摘は,研修目的とは全く関係がない。
キ G室長の発言について
別表番号17の発言は,聞き手にとって「指導するのをやめる」という意味に理解することができ,録音には,G室長が,原告に対する指摘につき,研修の延長とは一切関係ないと発言したことは残されていないから,パワハラ行為に当たる。
別表番号20の発言は,G室長が怒りの感情を原告にぶつけたものである上,聞き手にとっては,原告の発言内容や態度を研修延長の必要性に関する意見に反映させて,報告をする趣旨であると理解することができるから,自らの立場の優位性を背景とした言動ということができる。
【被告の主張】
(1) 本件研修命令について
府教委は,原告のE,女子生徒A及びBに対する行為並びにD校長の報告に係る原告に対する評価の根拠となった事実を踏まえ,原告に対し,「体罰の違法性についての認識を深め,これまでの自らの指導を振り返り自己の分析を行うとともに,他者への思いやりや人権感覚を身につけ,力に頼らない,生徒理解に立った適切な指導方法を身につけ,教員として基本的な資質を向上させ,二度と体罰を起こさず,適切な生徒指導を行える自己を確立すべきである」として,指導改善研修を命じたのである。したがって,本件研修命令は適法であり,府教委の裁量権を逸脱又は濫用するものとはいえない。
(2) 本件延長命令について
ア 教特法の改正に関する平成19年7月31日文部科学事務次官通知によれば,同法25条の2第2項の「特に必要があると認めるとき」とは,「当初に定められた指導改善研修の期間の終了時において,再度研修を行うことにより当該教諭の指導の改善の余地が見込まれる場合を想定していること」と解されている。府教委が定める評価育成手引の内容を踏まえると,「特に必要がある」か否かは,教員本人による気付きの点で指導の改善の余地が見込まれるかどうかにより判断することができると解される。
イ 原告は,指導改善研修の当初から,指導員らとの面談の際にメモをとる習慣がなかったため,指導員や指導主事がメモの有用性・必要性を指導したところ,メモをとるようにはなったものの,指導内容を理解することよりも,メモを取ることが主目的となり,その結果,原告に課された課題作文に,指導員や指導主事が助言や指導をした内容が反映されず,原告に課された課題の改善になかなか繋がらなかった。
原告は,指導改善研修を通じて,自らの対応が適切でなかったところや自らに課された課題についても理解しているような姿勢を見せるものの,面談やプレゼンテーションにおいて原告が述べる考えからは,事象や事案についての理解や把握が非常に表面的であり,原告自らが具体的にどのように生徒を指導していくかという点については,深く語ることができなかったことから,原告の体罰に対する理解が進んでいるとは到底いえない状況であった。
府教委は,以上のような原告の状況を踏まえ,原告が実際の生徒対応や生徒指導の場面における対応及び指導方法に関して,具体的なイメージを持ち切れるようになるために研修の延長が必要であると判断した。したがって,原告については,上記した「特に必要があると認めるとき」に該当するというべきであるから,本件延長命令は,裁量の逸脱又は濫用とはいえない。
(3) 研修期間中の原告に対する発言について
ア F室長の行為について
(ア) F室長は,原告の指導改善研修の受講開始当初,教育センターが委嘱する臨床心理士が行った各種検査及び面談結果に基づく臨床心理の面からの判断内容,原告の研修受講中の課題文の作成や指導員による面談の状況からして,原告には迎合的な特性があり,ドラマ等の作品に感化される傾向が見られるとともに,他者が述べたことなどを表面的に容易に受け入れて,よく考えることなく自己の課題として作成することや面談で述べることが多いと判断した。そこで,F室長は,原告の今後の教員生活のためには,原告本人が自らの反省が浅いことを自覚し,自身の行為を振り返り,自分自身の理解度,認識及び考え方などについて深く考えるための指導が必要であると考えた。
(イ) 本件高校では,組織的に,原告がEの指導には関与しないという申合せや注意があったにもかかわらず,原告は,組織の判断を無視して勝手にEの家庭訪問を行い,体罰事象を発生させた。原告に対する指導改善研修の直接の目標は,体罰に対する否定的自覚に対する改善にあるところ,F室長は,原告の体罰行動を含む全体的行動に対する反省を求めるための指導をした。
(ウ) 別表番号9は,原告の「いじめのないクラスを作りたい」という発言に対するものである。F室長は,原告に対し,生徒の背景を理解することが重要であるということを考えさせるために,「在日コリアンの立場である生徒の把握ができているのか」と尋ねた。クラス作りにおいて生徒の背景を理解することは,教員としての生徒理解の基本であり,その点が原告自身に欠けていることを認識させるために行った指導のための発言であり,F室長としては,原告に対し,人権が尊重されたクラス作りが「いじめのないクラス作り」の基本であることを指導したものである。したがって,同発言は,いじめや暴言・暴力と関係がない事情を述べたということではない。
(エ) 原告は,F室長の話に対し,表面的なことは単純に即答するが,本質的なことは理解しようとせず,あるときは,表情をこわばらせ,語気強く発言することがよくあった。また,原告は,ある時は指導員らの話に合わせて,「そのとおりである」と認めるように単純に答えるかと思えば,しっかり考えさせようとすると,反発することが多く,結局,何度も同じことを繰り返し話さなければならなかった。
イ H指導主事の行為について
(ア) 別表番号11について
H指導主事は,原告が,本件高校において,校長等から,体罰に関する指示を受けたことがないと述べたことから,原告に対し,大阪市立b高等学校の事件後,府立学校の全生徒に対する体罰に関する調査が一斉に行われ,その調査により明らかとなった事案について,関係する教員が一堂に集められ研修を受けたことは,当時府立学校に在籍している教員であれば,誰もが知っている事柄ではないかということを伝えるとともに,同じ時期に,府教委から,府立学校の全教職員に対し,いかなる場合も「体罰」は許されないという指示がなされたことを伝えた。その際,H指導主事は,原告に対し,微細な行為も体罰として許されないことの例として,生徒の肩を「頑張れよ」のつもりで叩いただけの教員も体罰事象として取り上げられ,注意を受けたことも伝えた。当該教員は,H指導主事の元同僚であり,内容は,H指導主事が直接当該教員等から聞いたものであって,事実である。
(イ) 別表番号12について
原告は,H指導主事との面談において,夏季休暇期間中に進路の仕事として中学校訪問を20校以上行ったと話した。しかしながら,H指導主事は,自分自身の経験から,夏季休暇期間中の中学校訪問を,一人で20校以上行くことはできないのではないかと考え,その旨を原告に伝え,何校訪問したのかを尋ねた。原告は,H指導主事に対し,「何校行ったか覚えていない,おおよその回数も忘れた。」と回答し,また,訪問した学校名については回答することがなかった。別表番号12の発言は,以上の経緯を踏まえてのものであり,H指導主事は,原告に対し,出張のおおよその回数や生徒に関する情報を覚えていないということが,教員として問題であると伝えたというものであって,原告を非難したわけではない。
(ウ) 別表番号13について
H指導主事は,原告が,謹慎中の生徒に対する指導について,生徒指導部の取決めに従わず自分の判断で行ったり,独自の判断で家庭訪問を行ったりするなど,学校のルールを心得ておらず,自分勝手に行動しているのではないかと考えていたところ,原告が,本件高校の生徒指導部や学校の取決めを知らないと述べたことから,学校の取決めがあったのではないかと指摘したのである。
また,原告は,H指導主事に対し,学年主任から原告の職務上の行動を激しく注意されたという話をし始めた。そこで,H指導主事は,原告に対し,「学年主任が叱責したのは事実か」と質問した。そして,H指導主事は,原告に対し,同質問に対する原告の回答内容からして,学年主任は原告が言うほど怒らないのではないかと伝えた。したがって,H指導主事としては,原告の話した内容について,それが事実かどうかの判断を示したことはなく,また,叱責などもしていない。
ウ I管理主事の行為について
別表番号14,15及び16は,原告に対する指導改善研修の途中で原告の状況確認のために行われた「研修で学んだことや自己の変化を振り返るプレゼンテーション」において,原告の生徒対応に依然として課題があると判断されたため,原告本人の生徒対応に関する意識や考え方の細部を確認・判断し,適切な指導を行うために実施したロールプレイ的プレゼンテーション(以下「プレゼンテーション」という。)の際のものである。同プレゼンテーションは,場面を設定し,いくつかの条件を想定した上で,原告の生徒対応に関する意識や発想,考え方を,指導する側として,適切に確認してから指導助言を与えるために,演習形式により,その場で課題を示し,しばらく自分自身の考えをまとめる時間を与えた上で,自身の考えや指導方法を述べさせ,原告の状況確認を行ってから指導助言を行うという手順で実施された。このようなプレゼンテーションの方式による指導が選択された理由は,それまでの指導改善研修の状況から,原告については,課題を与えてから日を空けて課題作文の提出を求めると,自分で考えることなく,様々な文献等から課題作文を作成する可能性が高く,適切な指導を行うことができないと判断したためである。
I管理主事は,原告の述べた内容のうち,原告の生徒に対する思いが至らないと思われた部分については,原告が生徒指導の幅を広げられるように,視野を広げて考える重要性について例を挙げながら助言したものであり,叱責を繰り返すというようなことはなかった。
エ J管理主事の行為について
(ア) 別表番号14について
J管理主事は,記録作業に徹しており,原告と直接会話をしなかった。なお,原告は,「指導員らは研修期間中,些細なミスを取り上げて原告を叱責するということを繰り返した」と主張するが,研修担当者らは,原告に対して,生徒に対する考察が不十分な部分があったことを指摘したにすぎず,叱責を繰り返したという事実はなかった。
(イ) 別表番号15について
プレゼンテーションの課題事案は,喫煙に関する事案であり,原告の指導改善研修の要因となった事案も生徒の喫煙であって,原告自身に関わりの深いテーマであり,J管理主事らは,原告が,どれだけ冷静に周囲の状況を客観的に把握しながら,他の教員と連携をとりつつ対応できるかという点について,研修でどの程度学びが深まっているかを観察する目的で同事案を設定したのである。
原告は,事例に関するプレゼンテーション中,喫煙同席を疑われている生徒に対する聞き取りの最初の段階で,その生徒が喫煙したと決めつけてかかるかのような聞き方をした。そこで,J管理主事は,原告に対し,聞き取りの仕方に慎重な配慮が不足していることを指摘した。すると,原告は,感情的になり,J管理主事に対し,「僕の指導力が不足していると認定したのか」,「指導力不足と認定されていない他の教員なら,この質問にちゃんと答えられるのか」などと反論してきた。これに対し,J管理主事は,「今回1回のプレゼンで指導力不足とは認定していない。ただ,慎重な配慮に基づく聞き取りという点において,十分とは言い難い部分がある。他の人ができるかどうかではなく,あなたが多様なケースを想定した対応ができるかを見ている」と回答した。したがって,この時点において,J管理主事が,原告を叱責して,指導力不足であると断言したという事実はない。
オ G室長の行為について
(ア) 別表番号17について
別表番号17は,原告が,平成27年11月から教育センターの付属高校における所外研修を控えた状況で,G室長が,原告に対し,同年9月に原告が府立高等学校で行った所外研修の状況を踏まえ,所外研修に取り組む姿勢を確認する目的で行われた面談の際のやり取りである。G室長は,原告に対し,同面談における指摘について,「研修命令や研修延長とは関係のない内容である」と最初に説明していたのであるから,G室長の指摘が,研修命令や研修延長命令とは全く関係のない話であることは,原告も理解していたはずである。
G室長は,原告が府立高等学校で行った上記所外研修に関して,同校の教員から聞き取った原告に関する評価の内容と,指導員らが日頃観察している原告の言動を踏まえ,同年11月の所外研修のための注意喚起及び助言を行った。しかし,原告は,助言を素直に受け止めるのではなく,厳しい表情で,詰問するように質問をしてきたため,G室長は,原告の質問に答える必要がない旨伝えた。
(イ) 別表番号20について
別表番号20記載の前半部分は,原告が,G室長に対し,「弁護士を頼んでいるので,自分が正しい」と理解できる発言をしたことに対する指摘や,原告が,所外研修を行った府立高等学校の校長からの話について,誤った理解していたことに対する指摘をしたにすぎない。
別表番号20記載の後半部分は,原告が,面と向かってG室長のことを小ばかにし,あまりにも礼を失する発言をしたために,G室長が,原告に謝罪を要求した時のやり取りである。G室長が謝罪を要求した直後,原告が自分の非を認めて謝罪したため,G室長は,原告に対し,礼を失したことについて説諭するにとどめた。G室長が,原告に対し,「報告書に書くぞ」などというような発言をした記憶はない。そもそもG室長は,報告書の提出を受ける立場であって,報告書を書く立場にはない。
カ K指導員の行為について
(ア) 別表番号18について
K指導員は,部活動が義務であるという発言をしたものの,部活動は教員の仕事であり,文部科学省としても,部活動は教育の重要な部分として,教員にその指導を期待しているものである。K指導員は,部活動が義務ではないという原告の考え方では,学校現場で部活指導に工夫,尽力している教員の言動とそごを来すので,しっかりとした視点を持ってもらうためにした発言である。原告は,K指導員の発言に対し,顔をこわばらせ,語気を荒げて反論していたのであって,K指導員が原告を脅したということはない。
(イ) 別表番号19について
K指導員は,部活動は義務ではないという論点で発信している人の論理を研究しようという趣旨で,原告に対し,「誰がそのような論点を主張しているのか」と問いかけた。原告は,名古屋大学教員のL氏の名前が出したものの,もう1人同旨の主張をしている人物の名前については,黙秘権だと述べて名前を明らかにしなかった。このようなやり取りからみても,原告が主張するような,違法なパワハラ行為でなかったことは明らかである。
4 争点4(原告に係る損害の有無及びその額)について
(原告の主張)
(1) 上記1のとおり,本件評価は違法無効であることから,原告に対しては,平成24年度ないし平成27年度において,それぞれ4号給昇給が行われるべきであったところ,平成24年度及び平成25年度においては,本件評価によって,2号給昇給しか行われず,また,平成26年度においては,本件停職処分によって,昇給が行われず,さらに,平成27年度においては,本件研修命令によって,昇給が行われなかった。
(2) 以上のような違法行為による損害は,以下のとおりである。
ア 原告の経済的損害 111万4473円
イ 本件評価による慰謝料 20万円
ウ 本件停職処分及び本件研修命令による慰謝料 合計30万円
エ 研修期間中にパワハラ行為を受けたことによる慰謝料 200万円
(なお,パワハラ行為については,予備的に,別表記載の行為ごとによる慰謝料はそれぞれ10万円を下らない。)
オ 弁護士費用相当損害金 36万円
カ 合計 397万4473円
(被告の主張)
上記1ないし3のとおり,本件評価,本件停職処分,本件研修命令及び本件延長命令は,いずれも適法であって,原告が主張するようなパワハラ行為は認められない。したがって,原告の損害に関する主張については,いずれも否認ないし争う。
第5 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(1) 教員に対する評価の仕組みについて
ア 業績評価について
(ア) 評価対象者となる教員は,年度内に取り組むべき個人目標を自己申告し,評価者と面談を行って個人目標を設定する。その後,評価対象者は,目標達成に向けた取組を各自行い,毎年1月下旬までに目標達成状況の自己点検をして,評価者に対し点検結果の自己申告を行う。
評価者は,評価・育成シートを作成して人事評価を行い,毎年3月下旬までに評価の結果を開示面談において説明する。
(イ) 評価育成手引によれば,原告を含む教諭については,設定目標の区分に「学ぶ力の育成」,「自立・自己実現の支援」,「学校運営」の3つがある。
「学ぶ力の育成」の目標設定例としては,「教科等の指導」,「自立活動」があり,「自立・自己実現の支援」の目標設定例としては「生活指導,進路指導,学級経営,給食指導,児童会・生徒会指導,人権尊重の教育の推進」があり,「学校運営」の目標設定例としては,「校務分掌,各種委員会,学年経営,学科・部経営,開かれた学校づくり」がある。
なお,平成25年度からは,「学ぶ力の育成」の区分は,「授業力」に変更され,「授業力」の目標設定例としては,「授業にかかる取組み」がある。
(ウ) 業績評価は,上記設定目標の達成状況を評価の対象とし,設定目標と評価者が把握した達成状況を比べて絶対評価を行うものである。A評価は「目標を概ね達成している」,B評価は「目標を達していない」という評価である。
イ 能力評価について
(ア) 能力評価は,日常の業務全般に対する取組を評価の対象とする。
教諭については,評価育成手引記載の「求められる行動パターンの例」を参考にしながら,「学ぶ力の育成(平成25年度については授業力)」,「自立・自己実現の支援」,「学校運営」を評価要素ごとに,「十分発揮している」,「概ね発揮している」,「発揮していない」のいずれであるかを判断し,能力評価を行う。
B評価は「期待される能力を発揮していないことがあり,児童生徒の成長・発達に寄与するような教育活動を進めることができていない。職務遂行上,支障をきたす場合がある」という評価である。
(イ) 学ぶ力の育成(授業力)については,「児童生徒の学習理解度の把握」,「計画的な指導」,「授業内容の充実」,「個に応じた学習指導」,「知識・技能の習得等に対する意欲」を着眼点として評価される。
(ウ) 自立・自己実現の支援については,「児童生徒の生活背景の把握」,「児童生徒との信頼関係の構築」,「児童生徒の集団づくり」,「児童生徒への支援・指導」,「知識・技能の習得」,「研修に対する意欲」を着眼点として評価される。
「求められる行動パターンの例」としては,「児童生徒の生活背景や児童生徒指導上の課題の把握に努めるとともに,同僚教職員や保護者等との協力・連携に努め,様々な立場にある児童生徒への理解を深め,指導に取り組んでいける」,「児童生徒の態度・行動や健康状態をよく観察し,その変化を敏感に受け止めるよう努め,同僚教職員や保護者等と情報を共有するなど,児童生徒への適切な対応に活かしている」,「児童生徒の希望や思いを受け止め,同僚教職員と協力・連携して,児童生徒の意欲や適性を踏まえた進路指導を行っている」などが挙げられている。
(エ) 学校運営については,「学校運営への参画」,「校務分掌等への参画」,「協力・連携」を着眼点として評価される。
「求められる行動パターンの例」としては,「めざす学校像や学校経営方針を理解し,その実現のため,学校改革や様々な教育課題の解決に向けた学校全体の取組みに積極的に参画し,同僚教職員との協力・連携に努め,主体的に行動している」,「校務分掌や学年等の目標を理解し,様々な教育課題の解決に向け,校務分掌や学年等の取組みに積極的に参画し,同僚教職員との協力・連携に努め,主体的に行動している」,「管理職や同僚教職員間での意思疎通を図るとともに,協力・連携に努めている」などが挙げられている。
ウ 総合評価について
総合評価は,業績評価と能力評価を基に行う評価であり,A評価は「標準的な評価」であって,B評価は,「業績評価と能力評価を総合すると,低い評価」である。
(以上アないしウにつき,乙A2,A3,A5)
(2) 授業アンケートについて
ア 府教委は,授業アンケートの実施目的や実施方法について,「授業アンケートの手引き」(以下「授業アンケート手引」という。)を作成した。
授業アンケート手引によれば,学校の教育活動の中心である授業をよりよく行うために,教員の改善意識が大前提となるものの,授業が生徒にとって「わかる授業」になっているかどうかについては,授業を受けている生徒でなければ気付かない要素が多く含まれていると考えられるため,授業アンケートを実施し,その結果を教員の育成に役立て,「授業力」の評価を行うための「重要な一要素」にするとされている。
授業アンケートの内容は,高等学校においては,授業に対する生徒の取組について2問,授業の様子について5問,授業に対する生徒の意識について2問の合計9問を問うものである。このうち,授業に対する生徒の意識についての質問項目は,全校共通で,「授業に,興味・関心をもつことができたと感じている」かどうか,「授業を受けて,知識や技能が身に付いたと感じている」かどうかを問うこととし,ほかの7問については,各学校が,生徒の実態及び教科・科目の特性に応じた質問項目を設定することになっている。
質問に対する生徒からの回答は,4者択一式とし,「そう思う」,「だいたいそう思う」,「あまり思わない」,「思わない」の中から1つを選ぶこととなっている。
イ 授業アンケート手引によれば,授業アンケートについては,校長等が,統計処理で得られたデータにより,結果を分析し,3段階(特段に高い結果,標準的な結果,特段に低い結果)で判定することとされている。また,同手引によれば,校長等は,授業アンケートの結果を踏まえ,授業観察や年間を通じての授業に関する指導育成を行った上で,「授業力」の評価を行うとしつつも,授業アンケートは,専門的な指導技術等を問うものではなく,授業を受けた生徒らの受け止めを中心に回答を求めるものであるため,直接教員の評価になるものではないとされている。
(以上につき,乙A4)
(3) 授業評価ガイドラインについて
ア 府教委は,「高等学校授業評価ガイドライン」を作成した。
同ガイドラインによれば,授業評価とは,授業の質の向上により,生徒にとって「魅力的な授業」,「わかる授業」を実現することを目的として,多様な観点から授業を検証する取組であると定義されている。
イ また,同ガイドラインには,授業評価を行う方法について,校内における体制づくり,授業評価軸の設定,授業者本人の自己評価のほか,生徒や同僚教員,学識者,保護者など多様な観点を取り入れ,様々な側面から評価を行うことなどが記載されている。
また,同ガイドラインには,生徒による授業評価の信頼性の向上について,「生徒による授業評価を実施するにあたっては,その目的が,教員の人物や人格を評価することではなく,『授業の質を向上させる』ことであるということが,教員と生徒の双方において共有されていることが重要となる」,「評価方法についての適切な指導を通して,生徒の評価能力の向上を図ることも必要となる」などと記載されている。
(以上ア,イにつき,乙A7)
ウ 府教委は,平成25年1月,「高等学校授業評価ガイドラインU」を作成した。
同ガイドラインUによれば,生徒による授業アンケートは,毎年2回行われ,毎年5月から7月に行われる第1回授業アンケートは,課題の洗い出しを主目的とするものであり,毎年11月から12月に行われる第2回授業アンケートは,授業の改善状況の検証を主目的として行われるものである。
(乙A22)
(4) 体罰の禁止について
ア 「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」(平成25年3月13日付け24文科初第1269号文部科学省初等中等教育局長,同スポーツ・青少年局長通知)によれば,学校教育法11条ただし書で禁止される体罰は,「違法行為であるのみならず,児童生徒の心身に深刻な悪影響を与え,教員等及び学校への信頼を失墜させる行為である。体罰により正常な倫理観を養うことはできず,むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ,いじめや暴力行為などの連鎖を生む恐れがある。もとより教員等は指導に当たり,児童生徒一人一人をよく理解し,適切な信頼関係を築くことが重要であり,このために日頃から自らの指導の在り方を見直し,指導力の向上に取り組むことが必要である。懲戒が必要と認める状況においても,決して体罰によることなく,児童生徒の規範意識や社会性の育成を図るよう,適切に懲戒を行い,粘り強く指導することが必要である」とされる。
イ 上記通知によれば,教員等が行った行為が体罰に当たるかどうかは,「当該児童生徒の年齢,健康,心身の発達状況,当該行為が行われた場所的及び時間的環境,懲戒の態様等の諸条件」を総合的に考慮した,客観的個別的判断であるとされている。
また,上記通知によれば,教員等が行った行為の内容が,身体に対する侵害を内容とするもの,児童生徒に肉体的苦痛を与えるものであれば,体罰に該当するとされている。体罰に該当するものの例としては,「授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする」,「生徒指導に応じず,下校しようとしている生徒の腕を引いたところ,生徒が腕を振り払ったため,当該生徒の頭を平手で叩(たた)く」,「部活動顧問の指示に従わず,ユニフォームの片づけが不十分であったため,当該生徒の頬を殴打する」などが挙げられている。
(以上につき,乙B3)
(5) 本件高校における学校教育活動の方針について
ア 本件高校の平成25年度学校教育計画においては,学習指導の方針として,「授業に作業的活動,小グループでの話し合い,発言の交流と共有を取り入れ,生徒同士の学び合いを推進する」ことが掲げられている(乙A10)。
イ D校長は,本件高校の平成25年度学校経営計画及び学校評価と題する書面において,学校教育自己診断の結果と分析の内容として,「今年度から授業改革として,一斉授業ではなく生徒同士での学び合いに重点を置いた『協同的な学び』に取り組んできたが,1学期までは生徒・教師とも戸惑うところもあったが,2学期以降は生徒・教師もコの字型の机の配置から小グループでの学習に取り組めるようになった」と記載している(乙A9)。
(6) 評価分布について
府立学校において,業績評価,能力評価及び総合評価につき,B評価を受けた者の割合は,以下のとおりである。
平成23年度 平成24年度 平成25年度
業績評価 0.8% 0.8% 1.7%
能力評価 0.9% 1.0% 2.1%
総合評価 0.8% 0.9% 1.9%
(乙A12ないしA14)
(7) 23年度評価について
ア 原告は,23年度評価の業績評価において,「学ぶ力の育成」がおおむね目標を達成していると判断されたものの,「自立・自己実現の支援」は二次評価で,「学校運営」は一次及び二次評価で,それぞれ目標に達していないと評価された。
業績評価所見欄には,「学習指導及び生徒指導において,生徒との係わり方に工夫が必要」と記載されている。
原告は,23年度評価の能力評価において,「学ぶ力の育成」がおおむね能力を発揮していると評価されたものの,「自立・自己実現の支援」及び「学校運営」が能力を発揮していないと評価された。
所見欄には,「研究授業など自己の能力を高めるための研修に取り組むこと」との記載があり,次年度に向けた課題・今後の育成方針の欄には,「授業計画をしっかりと立て,生徒に『分かる授業』を展開する事」との記載がある。
(甲A1の@)
イ 授業見学の結果について
(ア) D校長は,平成23年度,原告の授業を見学し,その際,授業見学評価表を作成して,原告の授業につき,Aを上位,Cを下位とする,A,B,Cの3段階中,Bの評価をつけた。
(イ) 同評価表における具体的な内容をみると,「授業の目標が生徒に明確に伝わっている」,「説明が分かりやすい」,「副教材や補助プリントなど理解を助ける配慮がなされている」などといった項目についてはB評価がなされているのに対し,「生徒の授業参加(質疑や発表)に配慮している」,「教員の意欲や熱意が生徒に伝わる授業である」,「生徒の学習意欲を喚起している」,「授業中に生徒に集中させている」といった項目にはC評価がなされている。
(ウ) また,D校長は,同評価表の授業見学メモ欄に,原告の課題を記載した。D校長は,具体的課題として,@原告が,授業中,生徒を指名する際に「○○ちゃん」と呼ぶことなどがあるため,言葉遣いを丁寧にする必要がある,A原告の授業が「生徒に考えさせる授業ではなく,計算結果や解答だけを説明し暗記させる授業である」,B原告と生徒との距離感について,「全体的に言葉遣いが軽く,生徒との距離感を詰める目的があるのか,しかしながら本校では心のケアが必要な生徒が多く,嫌がっている生徒も多いと思う」と指摘している。
そして,D校長は,これらの指摘事項について,原告に対して指導を行った。
(乙A5,証人D,弁論の全趣旨)
(8) 24年度評価について
ア 原告は,24年度評価の業績評価において,「学ぶ力の育成」がおおむね目標を達成していると評価されたものの,「自立・自己実現の支援」及び「学校運営」が目標に達していないと評価された。
また,業績評価所見欄には「生徒の生活背景や生徒指導上の課題の把握に努め,適切な支援をすること」と記載されている。
原告は,24年度評価の能力評価において,「学ぶ力の育成」が一次評価で能力を発揮していないと判断されたものの,二次評価ではおおむね能力を発揮していると評価された。他方,「自立・自己実現の支援」及び「学校運営」については,能力を発揮していないと評価された。また,次年度に向けた課題・今後の育成方針の欄には,「生徒同士が活動し,表現する協同的な学びのある授業の推進」と記載されている。
(甲A1のA)
イ 原告は,数学の授業において,「○」や「△」の記号を用いたプリントを使用することがあった(乙A19,証人D,原告)。
ウ D校長は,平成24年6月20日,原告に対する授業観察を行った。
D校長は,原告の授業内容が,生徒に対し,解答を出す過程を考えさせていないものと評価した。
(乙A19)
エ D校長は,平成24年度における原告に係る評価の基礎となる事実として,「原告は,平成23年度に引き続き,自分に近づいてくる生徒には,友達のような接し方をしていたが,平成23年度と同様に,生徒の生活背景や生徒指導上の課題の把握に努め,適切な支援・指導に取り組んでいると言える状況には至っていなかった。生徒との距離感が必要以上に近く,言動や行動において,教員として生徒との適切な関係性が築けていなかった」との認識を有していた(乙A19)。
(9) 25年度評価について
原告は,25年度評価の業績評価において,「授業力」がおおむね目標を達成していると評価されたものの,「自立・自己実現の支援」及び「学校運営」は目標に達していないと評価された。
また,業績評価所見欄には「生徒の指導の在り方,校務分掌業務への取り組みができていない」と記載されている。
原告は,25年度評価の能力評価において,全ての事項について能力を発揮していないと評価された。また,所見欄には「教員としての研鑽を積むこと」,次年度に向けた課題・今後の育成方針については「教科の研鑽に努め,学び合う授業づくりを推進すること」と記載されている。
(甲A1のB)
(10) 授業力評価票の記載について
ア D校長は,原告の平成25年度における授業力評価票を作成した。D校長は,同評価票において,原告に対する第1回授業アンケートの結果については,特段に高い結果であると分類し,第2回授業アンケートの結果については,標準的な結果であると分類した。
イ D校長は,平成25年度に原告の授業観察を行った。その結果,授業観察評価については,生徒が授業を受けるに当たっての姿勢や準備ができており,やる気を失わずに授業を受けていたことから,「生徒取組」と「生徒意識」がおおむねできていたと評価して,3段階中2段階目の評価をした。また,職務行動評価のうち,「学習に臨むための環境のつくり」についても,3段階中2段階目の評価をした。
他方,D校長は,「教材や授業内容,指導方法の工夫」,「専門的知識・技能の習得」については,数学科で統一的に用いることとしたプリントを使用する際に,説明や時間配分に問題があったこと,解答を出す過程よりも,解答自体を重視するものと評価したことから,3段階中最下位の評価をした。また,本件高校の学校教育計画等で定められた,生徒同士の学び合いを志向する「協同的な学び」の実現については工夫が必要であるとして,3段階中最下位の評価をした。
ウ D校長は,以上の評価を総合した結果,原告に係る授業力の評価について,3段階中最下位の評価(5段階の場合には,上から4段階目の評価)をした。
(以上につき,乙A5,A8,A19)
(11) 平成25年度における原告の言動について
ア 女子生徒A及びBへの指導に対する注意について
(ア) 本件高校の教頭であったM(以下「M教頭」という。)は,平成25年6月7日,原告に対し,同月3日における原告の女子生徒Aに対する言動について,机を叩いたり,大声で叱責するなど威圧的な態度をとらないように,粗暴な言葉を使わないように注意をした。また,D校長も,同月12日,原告に対して注意を行った。
(前提事実(5)ア,乙B1のCD,B2の@D,原告)
(イ) M教頭は,平成25年6月11日,原告に対し,その前日における原告の女子生徒Bに対する言動について,同月7日に上記(ア)のとおり注意をしたにもかかわらず,なぜ同じことをするのかと質問をした。これに対して,原告は,M教頭に対し,「生徒になめられたくないから。いじめに発展する事象が起こっている状況を変えたいから」という趣旨の回答をした。
(前提事実(5)イ,乙B1のD,B2の@D,原告)
(ウ) 原告は,平成26年5月22日,府教委からの事情聴取において,M教頭からの指導に従わず,机や壁を叩き,生徒に対し大声で指導をしたことにつき,自らが未熟であり,真摯に受け止めなければならないと考えている旨述べた(乙B2の@)。
イ 研究授業について
原告は,平成25年6月20日,府教委事務局教職員人事課及び教育センターの職員ら参加の下において,研究授業を行った。
D校長は,同授業の内容について,答えを最重要視しており,解答に至る過程を説明したり,生徒に考えさせる時間を与えたりすることがなかったため,課題の工夫や研究が必要であると考えた。
(乙A19)
ウ 生徒に対する指導について
原告は,平成25年6月26日,生徒が1限目から早退したいと職員室へ来て申し出たのに対し,粗暴な言葉で対応し,当該生徒を追いかけ,「待て,コラ」などと発言した。
原告は,生活指導部の教員が原告を制止したことに対して,「こんなことだから指導がはいらない。生徒になめられている」などと発言した。
M教頭は,原告に対し,原告の上記言動について,指導を行った。
(乙A19,B1のD,B2の@D)
なお,原告は,かかる言動の存在を裏付ける客観的証拠等がないと主張する。しかしながら,原告に対する指導経過をまとめた一覧表が存在すること(乙B1のD,乙B2のD)や,原告が,平成26年5月22日,府教委からの事情聴取において,同一覧表記載の指導内容を間違いないと認めていたこと(乙B2の@)に照らすと,原告の上記主張は採用できない。
エ 学年会用資料の作成について
本件高校の各教員は,学年会を開催し,資料に基づいて成績不振者に対する対応等を協議しているところ,同会で用いる資料については,各教員が,年度当初に定めた予定日までに成績資料や出席状況を入力するなどして作成していた。ところが,原告は,平成25年度2学期中間考査の成績入力や出席状況の入力を予定日までに行わなかった。
(乙A19,B1のD,B2の@D)
オ 選択科目の変更
平成25年11月22日,原告が,複数の生徒について,当該生徒らの担任に相談することなく,次年度の選択科目に関して,選択科目を変更させたことについて,原告は,同月25日,変更した選択科目を元に戻すこと,クラス編成には私情を容れず機械的に行うこと,生徒から選択科目の変更希望があった場合には,必ず担任等を通し,保護者に確認し,担任会で報告するようという指示を受けた(なお,原告は,府教委からの事情聴取において,「担任と連携できていない生徒はいましたが,基本的には担任と連携していました。自分が受け持ちたい生徒を誘導するように意図したことはありません。生徒の進路に合わせて指導しました」と述べている。)。
(乙B2の@D)
カ Eに対する行為等について
(ア) Eは,平成25年4月に本件高校に入学した後,喫煙したことを理由として,2度の停学処分を受けていたが,平成26年1月24日にも喫煙をしたことが発覚した。
Eの担任教員や生徒指導担当教員は,Eの喫煙の事実を知り,Eに対して事実確認を行った上,Eに対し,今後の進退を含めて保護者と相談するようと指導をした。
原告は,Eが問題を起こしたことを察知すると,Eについて,3度,喫煙の事実が発覚した以上,生活態度を改めたことを示さなければEが退学することになってしまうと考えて,Eに対する指導を行うこととし,同日午後11時にEの自宅を訪問して,Eの左頬を1回平手打ちするなどし,翌25日の午前3時頃まで,同自宅において,Eの指導を行った。
(前提事実(5)ウ,甲B15,乙B7)
(イ) D校長は,平成26年2月5日,原告に対して,本件高校教頭ら2名の立会いの下で事情聴取を行った。
原告は,同聴取において,「夜中の12時前に家庭訪問し,午前3時頃まで家にいた。訪問の早い段階で右手で(Eの)左ほおをたたいた。また,胸ぐらをつかみ,『なぜこんなことをしたのだ』と涙ながらに訴えながら壁に押しあてた」と発言した。また,D校長が,原告に対し,Eの母親らへ何かお願いをしたかと質問したのに対して,原告は「首になるのを覚悟で来たことは言ったが,このことが知れたら首になるかもしれない」,「あまり(Eの事に)関わらない方がよいと言われているので,訪問したことは黙っておいてくれと言った」と発言した(乙B1のB)。
(ウ) 原告は,D校長に対し,平成26年2月10日付けの顛末書を提出した。
原告は,同顛末書において,Eに対する行為の内容につき,「立った状態で(Eの)左頬を平手打ちして,胸ぐらをつかんで壁に押しつけました」と記載している。
原告は,上記顛末書において,原告が,Eと通勤途中で一緒になることが多く,勉強の話にとどまらず様々な話をする仲であり,Eの姉や母親とも面識があったこと,原告は,平成26年1月7日,Eが翌日に提出期限が迫っている課題を完成させておらず,進級が危ぶまれる状態であったために,原告の自宅でEともに夕食を食べつつ,徹夜で課題を完成させるなど,Eの進級に向けて,母親と連携しつつ共に歩んできたこと,原告は,「会議等で(Eの)状況を学校側がよく思っていないと感じていましたので,時をあけずに,本人と話す方がよいと判断して,自分自身が懲戒処分を覚悟の上で行なうことで,少しでも(Eの)行動だけではなく,内面にも訴え,良い方向に向けば」と考え,「どうすれば(Eの)心に響くか考えたときに,自身の懲戒処分を覚悟で叩くことでしか解決できないと考え,訪問の前に,母親に『手がでると思いますが,よろしいですか?』と確認したところ,『やってください』と言っていただいた」ために,Eの自宅を訪問し,左頬を平手打ちするなどした旨Eの左頬を平手打ちするなどした経緯等について記載している。
(乙B1のA)
(エ) D校長は,平成26年5月16日付け「教職員の懲戒処分等に係る調査報告書」を作成し,府教委に提出した。
D校長は,同報告書において,@原告のEに対する行為につき,原告が,Eに対し,「何を考えてんねん」,「俺がどれだけお前のことを考えているかわかっているのか」と叫びながら,Eの胸ぐらをつかみ詰め寄り,壁面に押しつけ,右の平手で水平にEの左頬を叩いて,壁面に押しつけたこと,A原告が,Eの母親に対し,Eを叩いたことを謝罪したところ,Eの母親は,原告に対し,謝罪する必要はない旨述べて,Eに対し,説教をしたこと,BD校長は,同報告書において,原告が,Eの母親らに対し,学校でEには関わらないように言われているので,訪問したことは黙っていてほしいと伝えたことをぞれぞれ記載した。
(乙B1の@)
(オ) 府教委は,平成26年5月22日,原告に対する事情聴取を行った。
府教委は,原告に対し,Eに対する行為について,「右平手で(Eの)左頬を中程度の力で1回叩き,胸ぐらを両手でつかんで数回揺さぶり,『何を考えてんねん』,『俺がどれだけお前のことを考えているか分かっているのか』,『お前が退学になってしまったら俺はどうしたらいいんや』などと泣いて叫びながら,壁に押しつけた」との内容で間違いないかと確認したところ,原告は間違いないと答えた。
また,府教委は,原告に対し,Eに対する行為の当日,原告が,Eの家族に対し,以前から,「学校でEには関わらないように言われている」と言ったものの,E宅を「訪問したことは黙っていてほしい」と言ったかどうかについてははっきり覚えていない,ということで間違いないかと確認したところ,原告は間違いないと述べた。
さらに,原告は,府教委に対し,Eに対する行為について,実際に叩く前から叩かなければならないと思っていた旨,午後11時頃に生徒の自宅へ行き,午前3時頃まで生徒に指導をすることについては,不適切だとは思ったものの,Eの母親の日程上の都合や,教員としての熱心な姿勢を示すことで大阪の教員の信頼を取り戻せると思ったことも原因となって,上記時間帯にEの家庭を訪問した旨述べた。
(乙B2の@)
(カ) 原告は,Eに対する行為の態様について,前記第4の2【原告の主張】(1)アのとおり,「壁に打ち付ける」というほどの激しいものではなかった旨主張するが,上記(ア)ないし(オ)で認定した原告の府教委での発言内容やD校長が府教委に提出した報告書の内容等に鑑みれば,上記認定したとおり,@原告は,Eと話をする機会が多くあり,Eの母親や姉とも面識があったため,Eに対し,気にかけて指導を行っていたものの,他方で,本件高校から,Eの指導に関わらないよう伝えられていたため,Eの指導に関与してはならないとの認識があったこと,Aそうしたところ,原告は,平成26年1月24日,Eが喫煙による2度の停学処分を受けていたにもかかわらず,再び喫煙したことが本件高校に発覚したということを知り,急いでEに会い,懲戒処分を受けてでも,叩いて指導するしかないとの考えの下,同日午後11時頃にEの自宅に赴き,Eの左頬を右平手で1回叩き,胸ぐらを両手でつかんで数回揺さぶり,「何を考えてんねん」,「俺がどれだけお前のことを考えているか分かっているのか」,「お前が退学になってしまったら俺はどうしたらいいんや」などと泣いて叫びながら,Eの身体を壁に押し付けた,以上の事実を認めることができ,これらの点を覆すに足りる的確な証拠は認められない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
キ 懲戒指導中の生徒に対する指導について
原告は,平成26年1月31日,懲戒指導中の生徒に対して,勝手に登校時間を指示したことについて,注意を受けた(乙B2の@D)。
(12) 指導改善研修の申請について
D校長は,平成26年7月3日,府教委に対し,原告が児童等に対する「指導が不適切」(教特法25条1項)な教諭に該当し,指導改善研修の実施が必要かどうかの認定を行うよう申請をした。
同申請に係る申請書には,申請の理由として,@教科に関する専門的知識が不足している(数学的知識が乏しく,解答へと導く過程が数学的でない),A授業の目的が明確でなく,計画的な指導ができない(自ら授業計画を立てることができない。また,課題プリントが作成できない),B指導方法が不適切であるため,学習指導を適切に行うことができない(生徒に対する言葉遣いが粗野,ぞんざいである。授業が教師主導型で一方通行である。被告採用前に塾講師として身に付けた指導法から未だに抜け出せない),C生徒の心を理解する能力に欠ける(思い込みが強く,多方面からの情報収集能力に欠けるため,一方的な指導しかできない),D生徒指導等を適切に行うことができない(生徒からなめられてはいけないと威圧的,高圧的な言動をとる),Eコミュニケーションに課題があり,適切な人間関係が構築できない(自分の思いばかり語り,相手の話が聞けない。自分勝手な思い込みで行動するため,同僚との協調性に欠ける)と記載されている。また,上記申請に係る「『指導が不適切である』教員に関する報告書」には,原告について,「専門的知識が乏しいため,説明がわかりにくく,答えを覚えさせて定期考査で点を取らせようとする」,「体罰について,やってはならないという根本的なところがまだ分かっていない状況である」と記載されている。
(乙C1,C2)
(13) 本件研修命令について
ア 本件研修命令の目標等について
(ア) 本件研修命令の目標(研修内容)は,前記第2の2前提事実(7)ア(ウ)記載のとおりである。
(イ) 本件研修命令における研修計画書によれば,研修は,第1段階として,体罰による被害者の心情を理解し,体罰事象を引き起こした原因について内省を深めるとともに,授業における課題や,その改善について自発的に述べることができるようになることを目標として,授業演習,自己研修課題発表,事例研究,アンガーマネジメントなどを行うという計画であった。その後,課題理解の状況についてのプレゼンテーションの結果を踏まえた検討会を経て,状況が良好であれば,第2段階として,学習指導や生徒指導の課題を認識し,基本的な指導方法を身につけることなどを目標とした授業演習,事例研究,プレゼンテーションを行うこととしていた。
(乙C18)
イ 平成26年9月19日の発言について
F室長は,平成26年9月19日の面談において,原告に対し,原告の提出した課題文の記載内容に間違っているところはないものの,「切り刻んで」いく必要があり,「協働性のために何が必要」であったかという点や,生活指導について,深く考える必要があること,原告自身の「課題を見つめるところでのネックになってるところ」があり,「自分の今までの全てを捨てるくらいの覚悟」がなければ,課題を明確化して認識することはできないなどと告げた(甲C8の@A,証人F)。
ウ 平成26年10月2日の発言について
F室長が,平成26年10月2日の面談において,原告に対し,「なんでE君(E)に関わるなって言われたのに,行ったん?」と質問したところ,原告は,「やっぱり何とかしたいって気持ちが僕の中にあったからやと思います。そこもまた深く考えてみます」と回答した。F室長は,原告に対し,「それがやっぱり理解できへんねん。(中略)教育の公務員として,教員として,大人としてね,何とかできると思っているところが理解できない。まあ,我々はみんな管理職をしてきましたからね,みんなやっぱり家庭訪問行った後は必ず,報告を受けてるんですよ。(中略)担任の先生が夜,家庭訪問に行かれたら,まあ,学年主任や教頭や,時と場合によっては校長先生に直接,必ず連絡を入れるっていうのは本来的」,「必ずそこで担任の先生は悩みながら,どうしたらいいですかね,こうしようかって,学年主任であったり,教頭であったり,時と場合によっては校長であったりね,相談するんです。あり得ない行為。関わるなって,1人でも言ってる人がおった時に,どうするんやろうね,普通は」と述べた。
(乙C10の@,C12の@)
エ 平成26年10月8日の発言について
F室長が,平成26年10月8日の面談において,原告に対し,「その言葉をね,先生自身がどう深くとらえるかちゃうかな。この間ずっと言っているけど,深く刻んでやっぱり考えるっていう風にならないと。すぐね,答えが出てくるねん,あなたは。で,まあ振り返った時に,家庭訪問行きはったんやなあ,子供のために何とかしたい思ってやったら行ってええって言うねん。そういう風に判断してしまうっていうのは,非常にやっぱり,自分の弱さと結びつけて考えへんと。一見いいように聞こえるよそれは。子供のためやったら,何とかしたくて行きましたって,まあテレビドラマの世界やったらまああるやろう。でも現実でいえば,そのあなたが行った家庭訪問に関わって色んな人の思いが絡まり合っているわけやね。そりゃ当然,目の前の生徒,保護者さんのことを中心に考えるのは当然のことだけども,その裏側で学年の先生や学校全体の先生,管理職,地域色んな人の思いが詰まっているなかでの,あなたの行動やからね」と述べた。
また,F室長が,原告に対し,「先生のまあ,研修命令の中のね,2つ目のとこの,覚えてる?」と問うと,原告は,F室長に対し,「固定的な教育観」と答えた。F室長が,原告に対し,「うん。で,もう一つは?」と問うと,原告は,F室長に対し,「自分の弱さ」と答えた。そうしたところ,F室長は,原告に対し,「こことどう結び付けていくかやね,うん。だから家庭訪問に行ってしまったことが,自分の弱さっていう風に結び付けるかどうかとか,意見やで。生徒のためっていうのはすごくいいことですよね。そこはでも,ようよう考えなあかんな」,「ほんまにそこを言葉でね,上っ面で言うんじゃなくて」,「ほんまに生まれ変わるつもりで考えなあかんのちゃうかな。やっぱりそりゃN先生も見抜きはるよ,あ,この方はきれいに繕うてはるんかなあとか」,「こんだけのね,時間とって研修受けてるわけやからね,そこがすごく大事やな。まあ深く切り刻んで真摯に見つめることが大事やね」と述べた。
(乙C10のA,C12のA)
オ 平成26年10月10日の発言について
(ア) F室長は,平成26年10月10日午前の面談において,原告に対し,「色んなとこにね,あの,非常にきれいな言葉が出てくんねん。さっきもゆうたように,『いじめや暴言といった人の人権に対しては,あってはならないことに対しては,厳しく指導しなければならない,二度と起させてはならない』。今授業が話題になっているけど,『授業の中では,私が意識していた学習指導案,まず生徒たちが分かるという授業を徹底することでした』と。『E君の家庭訪問行ったのは,何とかしたいからです』。ほんまに思っている?」と質問したところ,原告は,F室長に対し,「思っています」と答えた。
F室長は,原告に対し,「そうなすぐに思っていますていうところが,課題やなと。葛藤がない。思ってますって,言うところが,葛藤がないのがしんどいところやと思う。違う言葉で言い換えるとね,深く考えていないということやねん。ほんまに思ってる人は,本気で考えてて,できてないっていうことをまず自分が認識してるから,本気でそんなん思ってますなんていわへんわ。即答しない。書かない。(中略)ここちょっときつい言い方するで,免罪符のように,自分の何か意図するものにのっかって,例えば家庭訪問行く,結局は,先生自身の正しいと思ってることに,のっかって,自分の気持ちを大事にしてるだけなんやわ。(中略)無意識やけどな。結局,自分の気持ちを大事にしている表現なんじゃないの。本気で思ってたら,本気で考えて即答しないよ。(中略)先生,今いうたやん,思ってますって。ほんまに思ってる人は,思ってますって言わへん。思ってるけどできないんです。どうしたらいいんでしょうかって日々悩んでます。そんな葛藤が,先生には全く見えへん。そんな葛藤がないから,安易に行動できたり,安易に自分の意見を言ってしまう。(中略)色んなことを総合的に考えて相談しながら役割組んだりするわけ。(中略)みんな組織として相談しながら,子供を見ていってるわけや。(中略)一人の子供に対してどうやろうとなれば,普通はケース会議や関係者会議があって相談するねん」と述べた。
(乙C10のC,乙C12のC)
(イ) F室長は,同日午後の面談において,原告に対し,「午前中話したんやけども,ほんまに,そんな風に思ってたんかな。先生自身が,いじめをなくしたい,暴言をなくしたいとか,家庭訪問行くときも,その子を何とかしてあげたいとか」と質問した。原告は,F室長に対し,「思っていたんですけど,やっぱり自分の独りよがりな考えだなって,すごく,今はすごく思います」,「担任の先生も何とかしたいと思っていても,本人がそういう状態のときで,何もできないもどかしさがあったかもしれませんし,そんなときに僕が行ったことで,その先生たちがその悩んで,どうしようっていうのを,ブチャっとつぶしてしまったとしたら,本当に申し訳ないことだと思います」などと答えた。
そうしたところ,F室長は,原告に対し,「生徒のためっていうのって,本当に難しいわね。簡単に言えるようなことでないよね。生徒のためなんやけどね。みんな,悩みながらやってはるんちゃうかな。先生は,やっぱり,そこの葛藤が見えへんわ。教員って,生徒のために,色んな葛藤をする人でないと,あかんと思う。生徒のために思って,葛藤する人っているのは,大事なんちゃうかな。幼い大人が教師をしているって感じがしている。厳しい言い方だけど」,「幼いね,自分の気持ちを,自分の気持ちを優先してる。そこは,先生自身が,すごく考えないとあかんところやし,ほんまに生まれ変わろって思いはるんやったら,その根っこのところをなあ,よう見つめんとあかんのちゃうかな。しんどいけどね」と述べた。
(乙C10のB,乙C12のB)
カ 平成26年10月16日の発言について
H指導主事は,平成26年10月16日の面談において,原告に対し,大阪府立の高等学校で体罰事案が発生した以降,「がんばりやあと言うて頭ゴンとやった先生も全部呼ばれて処分されてる」ことを知っているか質問したところ,原告は「全く知らない」と答えた。H指導主事は,原告に対し,体罰についての考え方を,職員会議などにおいて校長から教員に伝えるなどして周知しているはずであり,教員に対する調査や生徒に対するアンケートも行っているはずである旨言及しながら,「教員からあがってきたのと,生徒からあがってきたのを照合して,こうなるやないかていうのでまた新たに出てきたこととか,先生の方は何かこんなんでなんか肩とかをコンコンやってなんかそれは思ってないけど,生徒はそれは嫌だったということで,あげてあるのもあったりする。周りで厳重注意された先生は何かのやつで,頑張れよとコンコンとやったやつで,それで呼ばれて厳重注意をうけてはる。それくらいのやつでもかなりたくさんの人数の者が処分受けてて,例えば,それから以降に体罰的なことをすればどうなるかというのは,かなり徹底して通知されているはずやと思いますけどね。事実に基づいてそういうことであればということをXさんよく言うてはるんですが,その,何度もそういうことを通知とか,連絡ではないなあ,もっと徹底してね言われているはずやと思うんですけどね。そこは全然聞いてないですか」と質問をした。原告は,H指導主事に対し,「まあ,アンケートみたいなものはあったかも知れないですけど,すいません,いまちょっと手元に資料もないですし,なんとも」と答えた。
(乙C10のG,乙C12のF)
キ 平成26年10月23日の発言について
(ア) H指導主事は,平成26年10月23日午前の面談において,夏休み期間中に原告が大阪府内の中学校を訪問した件についてやり取りをした。H指導主事が,原告に対し,訪問した学校数について,「20校くらい」かと尋ねると,原告は,H指導主事に対し,「ぐらいですかね」,「ちょっと詳しくは覚えてないですけど」と答えた。H指導主事が,原告に対し,「1年間ではどれだけ行ってたんですか」と尋ねると,原告は,H指導主事に対し,「1年間やと,多分10コくらいやとは思うんですけど」,「多分,8コか10コくらいちゃうかな」と答えた。そこで,H指導主事が,原告に対し,「8校から10校ぐらい。さっき20校ぐらいと言ってはったのは,二つ合わせて?」と尋ねると,原告は,H指導主事に対し,「多分去年と合わせて二つ。すみません,ごっちゃになってるからどの年にどれ行ったとかは,はっきりとは覚えてないですけど」と答えた。そうしたところ,H指導主事は,原告に対し,「いろんなことはごっちゃになってこないですよ,教員の仕事をしてると。(中略)ごっちゃになってしまうんやったら,それは,かなりね,こう厳しいっていうことになってしまいますよ。それを指摘されてはるのじゃないかな」,「去年ここへ行ってその前そこ行った,二つの年度しかないわけやから,大体ではないと思うんですよ。だから,そこらのとこが,やっぱりいろんな他の先生から指摘されてる部分なんではないんではないんかな思いますけどね」と述べた。
(乙C10のH,乙C12のG)
(イ) F室長は,同日午後における原告との面談において,原告に対し,「他者評価って表現覚えてる」と尋ねると,原告は「うん」と答えた。F室長は,原告に対し,「まったくね,子供やないし,学生やないからね。私たちは教育公務員やから他者評価ってすごい大事やね」と述べた。
また,F室長は,原告に対し,「前,まあ文章持ってきてくれはって,すごい気になるなって思ってるのが一か所あってね(中略)『もっと組織に私が働きかける必要があったこと,そしてバラバラだった学年の動きに関してもっと積極的に意見を発言し,学年として一つの方向を向く必要性を訴える必要もあったんではないかと思います』と書いてんねんけども,どうやってやるの,これ」と尋ねた。原告は,F室長に対し,「会議の場ですとか」,「どの様にその,全体としてこの子をどういう風にその,今後どういう風にその,話す内容ですとか,いつ,どういうその,指導の形の動きをするのか,ですとか,(中略)共有してやっていく必要があったなと」と答えた。F室長は,原告に対し,「それはそのとおりやねんで。じゃ,具体として先生はそれを言うような意見であったりとか,言葉がけであったりとか,できるんかな,ということやねん。書いてることは間違いないねん,全て」,「書いてることは表面的には間違いではないけど,具体としたものが見えてけえへんねん。(中略)ごっつい難しいことよ,これ。一つの方向性に持っていくように訴えるって。4年目のね,教員が,そんなことを訴えるていうのはすごく難しいこと。だから文章の中にじゃあ自分は実際こうやって働きかけをするんやっていうことが具体でイメージできん限りは,そういうことをポッポポッポと書かん方がええんちゃうかな。書いてもいいけども,ちゃんとそこは考えて書かないと。すごくいいこと書いてくれてんねんけどね」,「正しいことは言うけども評論家になっているというのが見え隠れする,文書の中にね。いや,そりゃ,無意識にやってはんねんで,そんなん。意図的にはやってないと思うけどね」などと述べた。
(乙C10のF,乙C12のE)
ク 平成26年10月28日の発言について
H指導主事は,平成26年10月28日の面談において,学校における生徒指導の取決めについて会話をし,原告に対し,「家庭訪問は一人で行くなって言われていることはないですか」,「なんか,こう,ルール,きまりがあると思いますけれどもね」と尋ねた。原告は,H指導主事に対し,「他の先生も一人で行ったりとか聞いていたんで」,「いや,何も聞いてないです」と答えた。H指導主事は,原告に対し,「その辺がその,聞いてないんか,聞こうとしてないんか。で,その学年主任の先生がすごく怒ってはったっていうのも,多分,1回『家庭訪問,行きませんよ』っていうようなことをゆうてるだけだったら,そういうことは言わないんではないかなあと。それ以前に(中略)学年とか,生徒指導の決まりに合わないことをしてしまってるんでないかなと。まあ,これは推測やけど。そう思ってしまうとこが,自分の判断でこう動くという,さっきおっしゃったようにその,夜10時とかに一人でクラスじゃないところに行くってのは,これは,こんなん家庭訪問とは言わないから」,「まあ,学校のルール,決まりやとか,その辺のこともちょっと思い出してください」と述べた。
(乙C10のI,乙C12のH)
ケ その他の発言について
(ア) F室長は,本件研修命令による研修中,原告との間で,原告が「人の人権に対し,あってはならないことに対しては,厳しく指導しなければならない。そして,二度と起させてはならない」との考えを示したことに関して,問答を行った。
原告は,F室長に対し,Eを「厳しく叱責」したのは,組織的な判断ではなく,原告の判断であったこと,「厳しく叱責」した際,Eの家庭状況は分かっていなかったことを述べた。F室長は,原告に対し,「(Eの)家庭状況を分からずに,自分で判断して,厳しく叱責したんやね。その後,管理職からは,もう関わらんといてくれと言われた。ようよう考えた方がええな,そこはな」と述べた。
その後,F室長は,原告に対し,自らが担任を務めるクラスの生徒の家庭状況は把握していたか,人権上配慮すべき生徒は何人いたか,外国籍の生徒はいたか質問した。原告は,F室長に対し,担任を受け持つクラスに,通訳の必要性を検討した外国籍の生徒がいたと述べた。F室長が,原告に対して,当該生徒について「どういうルーツで」来たのかを質問すると,原告は,F室長に対し,「いや,そこまで詳しくは。逆に,立ち入った話は聞けないので。まあそのあたり,すごくデリケートな問題だと思いますので」,「僕も初めてだったので,どのように対応していいのかはもう,そのようなケースの場合は上の方に相談したり」と答えた。そうしたところ,F室長は,原告に対し,「何でそっちは上の人に相談するん」,「そこは上の人に相談して,で,叱責するのはするんか,相談せんと」と述べた。
さらに,F室長は,原告に対し,「在日コリアンは何人おったん」と質問をした。原告が,F室長に対し,「いや,名前で分かるケースの子と分からないケースの子がいたので」と答えると,F室長は,原告に対し,「何で把握してない。地域性からいっても,a高校多いでしょ,在日の人」,「何で把握してない,そんなん」と述べた。
また,F室長は,原告に対し,「デリケートって言ったんやね」,「デリケートっていうのはどういうこと,先生の言い方で。なぜデリケートなの。保護者の方が外国にルーツのある人やねんね。ニューカマーで来られた方かもしれん。通訳がいるかもしれんな,懇談のときに。そこは何でデリケートなの,先生の表現からして」,「先生な,(中略)人権についてこれだけな,しっかりやらなあかんという風に表現しはるわけや,こういう風にな,『厳しく指導しなければならない』。でも実際には,在日の子が何人おるとか,家庭状況全部掴んでるんかとか,ギャップがあるわけよ,そこに。(中略)いろんな意見を言いはるけども,それだけの把握とか想像力を働かせた理解があって,初めて人権に関わって何か発言できるんちゃうかなあ。その辺のギャップがあるから,周りの先生から,いろんな風に薄っぺらく見られるん違う」と述べた。
(甲C12の@A)
(イ) F室長は,原告に対し,「授業であったり,生徒指導っていうのは,実践的な基礎っていうのは誰しもあるはずなんや。でも先生は反対したわけや。例えば学びの共同体でな」,「普通教員なんて3年4年経ってな,一定卒業生出して,授業が初めて基礎的にできて,そこで初めて,ちょっとずつ,あ,こう違うかな,こうちゃうかなっていう風な意見を。意見を持ったらあかんとは言わへんで」,「学びの共同体の,先生の意見を聞いてても,行き当たりばったりや。そう見える。だからその行き当たりばったりと,はたから見えることに対して,先生はどう真摯に向き合うか,っていうことを先生はいま求められてるんちゃうかな」,「いや,そこはな,答えんでええねん。切り刻んで深く考えなさい。そっからしか話始まらへん」などと述べた。
(甲C9の@A)
コ 研修担当者の所見等について
(ア) 府教委は,原告に対し,本件研修命令による研修において,原告が,自己の行動を振り返ることによる課題や研修内容の確認,生徒指導提要をまとめることによって,生徒指導の意義と原理,組織による教育の必要性の理解を深めることを期待して,課題作文に取り組ませることとした。
研修担当者は,原告の研修内容に対する理解について,原告が自らの行為が不適切であったとの表現はするものの,かかる行為が自らの熱意に基づくものであると述べていたことや,同僚教員の無理解,一部教員からの原告への賛同などを述べていたこと,本件高校が推進する「協同的な学び」について否定的な意見や行動を示していたこと,原告自身の行動や考えを突き詰めて質問をすると返答に困って黙ってしまうことが見られたことなどから,原告については,学校組織の一員としての自覚や,自己の行為の不適切さに対する理解が表層的であるとの印象を持った。そこで,研修担当者は,原告に対し,自らの教育活動について自己本位あるいは自己満足であることを自覚させ,組織としての教育活動の存在や,その一員としての自覚を促すこととした(なお,原告は,平成26年10月下旬から,報告書作成時までの間,病気による入院,療養を行ったため,研修を実施することができていない。)。
(乙C24)
(イ) 原告は,平成27年1月5日から研修に復帰し,自己の課題の把握や体罰被害者の心情把握,学習指導方法を身につけるため,課題作文,課題レポート,課題読書,授業演習,課題発表を行った。研修担当者は,今後の課題として,自らの固定的な教育観を改めること,現場で組織的に教員として対応する力を涵養することなどが挙げていた。
(乙C25)
(14) 本件延長命令1について
ア 本件延長命令1の趣旨目的等について
(ア) 府教委は,原告が,Eに対し,その左頬を1回叩き,胸ぐらを両手でつかんで揺さぶり壁に押し付けるという,学校教育法11条ただし書で禁止される体罰を行い,また,女子生徒A及びBに対する不適切な指導を行ったことから,本件研修命令による研修を行ったところ,研修の結果,原告については,「体罰の違法性及び自らの不適切な点に関しては,認識を深めつつある」ものの,「生徒対応や生徒指導の実際の場面における,対応や指導方法に関して具体的なイメージを持ち切れるところまでには至っていない」とし,「今後は,他者への思いやりを持ち,人権感覚を身につけたうえで,生徒理解に立った,力に頼らない適切な指導方法を身につけることにより,二度と体罰を起こさない自己を確立すべきである」として,平成27年3月30日,本件延長命令1を行った。
(イ) 本件延長命令1による研修内容は,前記第2の2前提事実(7)イ(ア)記載のとおりである。
(以上について,前提事実(7)イ(ア),甲C5)
イ 本件延長命令1における研修計画書について
本件延長命令1における研修計画書によれば,第1段階の研修内容は,本件研修命令によるものと同様であり,課題理解の状況についてのプレゼンテーションの結果を踏まえた検討会を経て,状況が良好であれば,第2段階として,所外研修や事例研究,プレゼンテーションなどによって,集団育成,学級経営における生徒指導力を高めるとともに,生徒主体の授業を展開することを目標とした研修を計画していた(乙C21)。
ウ 平成27年7月22日の発言について
(ア) 原告は,平成27年7月22日,「5月にあなたが担任をしている1年のクラスの女子生徒Aさん(真面目でおとなしい)から,『B先生の授業で,男子生徒C君が授業の流れを止めるような質問を繰り返し,迷惑を受けている』との相談を受けた。先生はどのように対応しますか」とのテーマについて,10分間で検討し,I管理主事やJ管理主事らの前で,プレゼンテーションを行うという課題に取り組んだ。
(イ) I管理主事らが,原告に対して,プレゼンテーションを行うこととした理由は,従前の研修状況に照らすと,原告は,課題作文の形式で課題の提出を求めた場合,自分で考えることなく,文献等を調べて作文を作成する可能性が高く,適切な指導が行えないという点にあった。
(ウ) I管理主事は,原告がプレゼンテーションを行った後,原告に対し,講評を行い,テーマについて原告と問答を行った。I管理主事が,原告に対し,「Aさんについては,どう考えたか」,「もっとAさんに対して配慮すべきことはないか」と問い,原告は「周囲の生徒から『Aさんはすぐに先生に言いつける子だ』と思われること」と答えた。I管理主事は,原告に対し,「かなり近づいてきた。Aさんが担任に相談したことを,周囲の生徒やC君に知られないように,まず配慮すべきではないか」と述べた。原告は,I管理主事に対し,「それは当たり前のことなので,あえて言わなかった。報告をくれた生徒の名前を出さないのは当然のこと。生徒から報告を受けたのではなく,教員が見ていたことにする」と答えた。
(乙C6,C7)
エ 平成27年7月24日の発言について
(ア) 原告は,平成27年7月24日,「過去に校内での喫煙を繰り返し,2回(1年生の5月中旬,9月上旬)の停学処分を受けた1年男子生徒(中学時代から喫煙習慣あり。自宅には本人自身の部屋はなく,家庭内での喫煙を両親は黙認していた。)が,10月下旬の1限終了後の休み時間に体育館裏で上級生3名(男子生徒と同じ中学校出身)が喫煙していた場に同席しているところを巡回指導の教員に発見され,生徒指導部から指導を受けることになった。本人は喫煙具を所持しておらず,事情聴取では『自分は吸っていない』と主張しているが,制服からは煙草の匂いを確認した。この男子生徒の担任であるあなたは,2回目の処分の時に『3回目は絶対に無いように』,本人と約束をしていた。担任であり生徒指導部員でもあるあなたは,どのような対応をされますか」という具体的な事案について,10分間で検討し,I管理主事やJ管理主事らの前で,プレゼンテーションを行うという課題に取り組んだ。
(イ) 原告がプレゼンテーションをした後,原告とI管理主事らは,上記事案に関して,討議等を行った。I管理主事は,原告に対し,生徒に対する聞き取りを自分でするとしたら,どのような聞き方をするかと尋ねた。原告は,「約束したな。先生,信じとったんや。どうしたんや。煙草やめるのしんどいか?やめたいという気持ちはあるんか」と聞き取りをする旨答えた。
同回答について,J管理主事は,原告に対し,「聞き取りの最初の段階でこんな言い方をするのは,吸ったという風に決めつけている聞き方になるのではないか」と指摘した。原告は,J管理主事に対し,「決して決めつけるつもりはない。事務的にではなく,気持ちを込めて話している」と答えた。
(以上(ア),(イ)につき,乙C7)
(ウ) J管理主事は,原告に対し,議論を深めることは悪いことではないとしながらも,研修の中で求めているのは,最初の10分間の検討の中で,事案中にどのような問題があるか,具体的な解決は何かといった点について,原告がどの程度考えることができるかを見せてもらうことである旨伝えた。
そうしたところ,原告は,J管理主事及びI管理主事に対し,「対応力はどれほどあるか,ということですね」,「今の答えでは,ないということですか」,「J先生は,もうこの僕の回答で,指導力が不足しているというご判断ですか」,「I先生はいかがですか」,「指導力が不足していると,対応できてないというお考えでしょうか」などと,自らの指導力が不足しているのかどうかについて質問し,また,指導力が不足していると認定されていない者であれば,課題に対して,完璧な回答をすることができるのかどうか質問をするなど,J管理主事及びI管理主事に対し,不満を示した。
原告の同質問について,J管理主事及びI管理主事は,原告に対し,原告のプレゼンテーション1回だけで,指導力が不足しているか否かを判断するものではないこと,時間の制限もあるため,プレゼンテーションにおいて完璧な回答をすることは難しいと考えていること,原告自身がどのように課題に回答するかが問題であり,他人がどのように回答するかは原告と関係がないことなどを告げつつ,原告のプレゼンテーションにおいては,生徒に対するアプローチの仕方など,大事な観点が抜けているため,要求した答えを返していないこと,気付いていないことがたくさんあると考えたことなどを告げた。
原告は,自らが,課題に対して,完璧な回答をすることができているとは思っていないものの,精一杯頑張って課題に取り組んでいる旨を述べた。これに対して,I管理主事は,原告に対し,「一生懸命考えてくれてるのはよう分かってるよ」,「今までの反省踏まえて,ね,あの,取り組んでいる姿勢もよく分かってる」などと述べた。
(乙C11のA,C13のA)
オ 平成27年7月28日の出来事について
原告は,平成27年7月28日,I管理主事ほか2名に対して,プレゼンテーションを行った(乙C11のC,C13のC)。
(15) 本件延長命令2について
ア 本件延長命令2の趣旨目的等について
(ア) 府教委は,本件研修命令及び本件延長命令1による研修によって,原告が,「体罰の違法性及び当該行為における自らの不適切な点に関しては,徐々に認識を深め,自らの起こした行為がマスコミが取り上げている体罰事案と本質的に同じであることに気づけるようになってきた」ものの,「自分自身の感情のコントロールに課題があることについて認識しているものの,適切に生徒に対応するための感情コントロールのスキルを身に付ける必要がある」こと,「生徒対応や指導方法において考えるべきことを知識として獲得してきているが,実際の生徒指導の場面において,生徒の状況を適切に把握し,様々な想定のもとに対応を判断するスキルを身に付ける必要がある」こと,「所外研修により,実際に生徒と対応することにより,研修での学びを実践し,自己を振り返ることで,生徒理解を基本とした,自らの感情を優先しない適切な指導方法について再認識するとともにさらなる改善を図る必要がある」ことから,原告に対し,平成27年8月31日,本件延長命令2を行った。
(イ) 本件延長命令2による研修内容は,前記第2の2前提事実(7)イ(イ)記載のとおりである。
(以上について,前提事実(7)イ(イ),甲C6)
イ 本件延長命令2における研修計画等について
本件延長命令2における研修計画書によれば,同研修は,上記した研修内容を踏まえ,@生徒の心理を理解する必要性を認識し,その能力を高め,生徒指導を適切に行えるようにする,A体罰行為の重大性を深く認識し順法の精神を身につけて,今後体罰を起こさない自己を確立させる,B人権尊重の視点に立ち,自らの固定的な教育観を改め,自己の弱さ,自らの特性を理解し,教員としての必要な資質を身につけることを研修目標とするものである。
また,同研修計画書においては,原告の課題や研修目標について,「面談やプレゼンテーション,課題図書等において指導員から受けた指導内容については,一定記憶できており,問いかけに応じて,教えられた内容は返してくる。しかし,自己理解に立って自己分析に整理できるところまでは達していないなかで,現場における実践を通して,自己の生徒指導の在り方を確立させる」,「今回の研修命令では教科指導が含まれていないが,やはり教科指導力は低い面がある。所外研修の中で,授業見学や模擬授業を行う中で,実際の生徒に対する中で,授業力の向上を図る」,「普段は好青年を装っているが,自分自身が予想していない注意や指摘を受けると感情を制御できていないと感じられる言動がある。所外研修の場で,関係性の低い周囲の教員等と関わることで,感情をコントロールする力を高める」とされている。
そして,こうした研修目標を達成するための具体的な研修内容としては,大阪府立の高等学校において,「長期の所外研修を実施し,生徒対応力や指導力,授業力の向上を図り,同時に現場復帰に向けた検証を行う」,「長期間の研修の中で周囲の教員と強調(協調)することや連携することの必要性について認識を高めさせるとともに,自己の思いと異なる対応に対する感情のコントロールの必要性についても認識を高めさせる」,「管理主事等による恒常的な状況観察により,現場復帰に向けた検証を行い,課題については厳しく指摘,指導していく」こととされた。
(乙C22)
ウ 平成27年10月27日の発言について
(ア) 原告は,平成27年9月に高等学校で所外研修を行い,同年11月には教育センター附属の高等学校において,所外研修を控えている状況にあったところ,G室長は,同年9月に実施された所外研修における原告に係る人物評が非常に悪かったため,人物評をもって研修を延長することはないとは考えられるものの,同年11月に実施予定の所外研修を行うに当たって,原告に対し,助言しておく必要があると考えた。
そこで,教育センター内で同助言について協議を行ったところ,原告に対する助言については,やめておいた方がよいとの意見もあったが,G室長は,原告に助言をすることとした。
(証人G,弁論の全趣旨)
(イ) G室長は,平成27年10月27日,原告との面談を行った際,原告に対して,同年9月に実施された所外研修における原告に係る人物評が悪かったと直接的に述べることは適当でないと考え,原告の気付きを促す程度の表現を用いることとした。
そこで,G室長は,原告に対し,丁寧で,あいさつを元気にするなど,好青年的に見えるということは一般的によいことだが,過度に大きい声であいさつをしたり,過度に明るく振る舞うと,周りの教師は違和感を覚えるので,普通に振る舞うことが必要であるという趣旨の発言をした。これに対して,原告は,G室長に対し,G室長が原告のどの時点での行動について言及をしているのかを質問したところ,G室長が,原告に対し,その質問には答えられないと答えたのに対して,原告は,G室長に対し,「まあ言ったら,後だしじゃんけんみたいな感じなんですよ」と述べた。そうしたところ,G室長は,原告に対し,「俺,その答えで来るんやったら,ちょっと怒らなあかんなと思って来てん。俺はそんなこと言ってない。何でね,それは後だしじゃんけんで,自分はここがあかんとか,それで戻られへんっていうつもりですかって取るんやろ。それは人の善意を取れない,君。俺はそんなこと言ってないって。もうそれやったら言うのやめるわ。その代わり,後は何が起きても俺知らない」,「先生は,他でもそうやけど,僕がそうやって言い出すとね,(中略)またあかんっていうことを言い出してるとしかとってないんやろ。だから,後だしじゃんけんっていう言葉を使ったし,その前に,それをいつのいつですかって聞いたやろ」,「僕は他の人から聞いてるから言ってるだけやねん」,「何ちゅうんかな,行き過ぎたときに,人の感覚って,人って他人のね,他人の感覚っているのは,そんなんそこまでせんでええのに,とか,だからちょっとって思ってしまうんですよね」,「僕はその代わりに代弁して言ってるだけで,だから研修は終われませんとか,学校には戻しませんとか,そんなこと言ってるつもりはさらさらないです。(中略)そういう風に聞いてもらいたいねん,僕は」などと述べた。
(甲C10のA,証人G)
エ 平成27年12月21日の発言について
K指導員は,原告が,日報の中に,部活動指導は義務ではないと明記していたのを読んだ。
そこで,K指導員は,平成27年12月21日,原告との面談において,原告に対し,部活動指導が義務であることや部活動の顧問のあり方に特化した指導が必要になる旨発言した。
(証人K)
(16) 本件延長命令3について
ア 本件延長命令3の趣旨目的等について
(ア) 府教委は,本件研修命令,本件延長命令1及び同2によって,原告が「周りの教員との連携の重要性については理解し,実践しようとする姿勢が見られた」ものの,「自己の思いや考えとは違った対応を迫られた際の感情コントロールについては,さらにスキルを高める必要がある」として,平成27年12月22日,原告に対し,本件延長命令3を行った。
(イ) 本件延長命令3による研修内容は,前記第2の2前提事実(7)イ(ウ)記載のとおりである。
(以上について,前提事実(7)イ(ウ),甲C7)
イ 本件延長命令3における研修計画書について
本件延長命令3における研修計画書によれば,上記研修内容を踏まえ,@生徒の心理を理解する必要性を認識し,その能力を高め,生徒指導を適切に行えるようにする,A体罰行為の重大性を深く認識し順法の精神を身につけて,今後体罰を起こさない自己を確立させる,B人権尊重の視点に立ち,自らの固定的な教育観を改め,自己の弱さ,自らの特性を理解し,教員としての必要な資質を身につけることの諸点を研修目標とするものであった。
また,同研修計画書によれば,原告の課題については,「面談やプレゼンテーション,課題図書等において指導員から受けた指導内容については,一定記憶できており,問いかけに応じて,教えられた内容は返してくる。しかし,自己理解に立って自己分析に整理できるところまでは達していないなかで,現場における実践を通して,自己の生徒指導の在り方を確立させる」,「今回の研修命令では教科指導が含まれていないが,やはり教科指導力は低い面がある。所外研修の中で,授業見学や模擬授業を行う中で,実際の生徒に対する中で,授業力の向上を図る」,「普段は好青年を装っているが,自分自身が予想していない注意や指摘を受けると感情を制御できていないと感じられる言動がある。所外研修の場で,関係性の低い周囲の教員等と関わることで,感情をコントロールする力を高める」とされ,また,研修内容については,「2度の所外研修の結果を踏まえ,周囲の教員と強調(協調)することや連携することの必要性について認識を高めさせるとともに,自己の思いと異なる対応に対する感情のコントロールの必要性についても認識を高めさせる」,「2度の所外研修の振り返りの中で,生徒対応力や指導力,授業力など自己の課題を自覚させ,研修の必要性について改めて認識させるとともに,その改善に取り組ませる」,「臨床心理士や管理主事等によるプレゼンテーションなどにより,現場復帰に向けた検証を行っていくとともに,対人スキルを高める」,「授業演習により,生徒対応の実践力を高める」とされている。
(乙C23)
ウ 平成28年1月5日の発言について
原告は,平成28年1月5日,K指導員に対し,一般的な部活動の指導が仕事であり,職務であるのかを尋ね,K指導員は,仕事であり,職務である旨答えた,原告は,K指導員に対し,「その前提で話をします」,「先生はこうおっしゃったんですよ」,「『義務,部活動の指導は義務です。義務でないという人の論理があれば』先生はこうおっしゃたんですよ『部活動の指導が義務でないというのであれば,もし義務でないその指導をやっていることは越権行為であり,違法行為になる』とおっしゃったんですよ,先生は」,「なぜそれが違法行為で越権行為になるのですか」と述べた。これに対し,K指導員は,自らの考えとして,「違法行為であるという論理にまでなってくる」と考えている旨答えた。すると,原告は,K指導員に対し,「先生のお考えですね」,「ああ,まあそれ聞けてよかった」と述べた。
K指導員は,原告に対し,部活動の指導が義務でないと考えるのであれば,根拠を示すように求めたところ,原告は,部活動の指導が義務でないと主張する者が2名いると述べ,うち1名についてはL・名古屋大学准教授であると明かしたものの,もう1名の氏名については黙秘権だといって明らかにしなかった。
(乙C11のD,C13のD,証人K)
エ 平成28年2月10日の発言について
(ア) G室長は,原告が高等学校における短期間の研修を行っていたため,平成28年2月10日,原告と面談を行った。
G室長は,原告に対し,まず,遅刻指導に関して,「まあ完全に朝,遅刻してくるやん,まあ3日みたら3日とも遅れてくる子とか他におったとしたら,自分としてはどうせなあかんと思う」と質問した。原告は,G室長に対し,「遅刻続いたら何であかんのかを説明するしかないですよね。(中略)単に遅刻があかんっていうだけの話じゃないと思いますし」と答えた。そうしたところ,G室長は,原告に対し,質問の趣旨を理解していないと述べ,原告は,G室長に対し,質問の趣旨を確認する旨の発言をし,以降,同旨のやり取りが繰り返された。こうした過程で,G室長は,原告が質問の趣旨を確認することで回答する範囲を狭くしようとしていると考え,原告に対し,「それは悪い癖やで」,「癖やから直さなあかんよ」と述べ,また,質問の趣旨を理解しないことに関しては,「相手が言ってることに対して,素直にまともに答えないと,自分でね。そこで,フィルターがいっぱいかかってんねん,ちゃうん」などと述べた。
(イ) その後,G室長が,原告に対し,「もう後ね,仮に3月まででしょ,研修がなかったとしいや,あと1か月ちょっとしかないのよ」と述べると,原告は,G室長に対し,「いや,3月までって,お言葉ですけど,1か月しかないって,何で分かるんですか」と質問をした。G室長は,原告に対し,「3月まで研修命令が出てるから,そこまで1か月しか,そこらしかちょっとしかないでしょって言ってる。そら当たり前の話やん。だから何でそれをね,そういうきつい聞き方をせなあかんの」と答えた。
そうしたところ,原告は,G室長に対し,「いや,今までも散々ね,昨年の2月の段階で,そんなこと一言も言われてないですし,それでいきなり延長になりました」と述べた。G室長は,原告に対し,「はあ,だから何でまたそこへ行くんやって。俺は今言ってんのは,3月末まで研修命令が出てるんだから,3月末までは1か月ちょっとしかないでしょって言って,何でそんな話になるんかなって聞いてるねん」と応じた。原告が,G室長に対し,「いや,それだと8月の時とかも同じことが言えますよねって話なんですよ」と述べると,G室長は,声を荒げ,原告に対し,「そらいつも言ってたやん,俺。そら,(平成27年9月の所外研修に)行く前でもな,あと1週間かもしれへんし,次も伸びるかも知れへんから,1週間やとしたら1週間の問に行ってもらうでって言ったやん。俺同じこと言ってるわ。変わったか。だからそういうね,自分が勝手な勘違いをして俺を責めるなよ,お前。何で俺が切れなあかんのか,それに対して。失礼ちゃうか。同じこと言ってるやろ。違うこと言ったか。いま俺同じこと言って思い出した。それちゃうこと言ってる。俺はカレンダーでしか話してないよ。え,謝るなり何なり何かしてくれよ。俺ちょっと今一瞬プチッときたで。同じこと言ったよね」と述べた。これに対して原告は,G室長に対し,「いや,言ってないですけど」と応じた。
そこで,G室長が,原告に対し,「いや,(平成27年9月の所外研修に)行くときに,あと1週間やから,もしかしたら1週間で行ってもらうかもしれんし」と述べると,原告は,G室長に対し,「あ,それはおっしゃいました」と述べた。すると,G室長は,声を荒げて,原告に対し,「言ったよなあ。え,どないすんねん,一体全体人に文句ばっかり言ってよ。じゃあ,それはそれで上げたらええか,俺も。こんな人ですわって。いや,どうなん。謝るんやったら謝ってくれてええよ。俺言ったよね,カレンダーで。前回もカレンダーで」,「だからどっちもカレンダーで言ってるやん,俺言ってるやんか。それをちゃうちゃうちゃうちゃうって言ってんで,あなた。てことは,俺は嘘つきやって決めつけたやろ。それ謝るべきちゃうん」,「俺ちゃうこと言ってないやろ。だからそれは失礼言ってんねん。そんなんすぐに謝るんちゃうん」と述べた。これに対し,原告は「まあ,そういう風に捉えられたんでしたら,すいませんでした」と述べた。
(以上につき,甲C11の@ないしB,証人G)
2 争点1(本件評価が,国賠法上違法といえるか否か)について
(1) 地方公務員に対する人事評価については,地公法上,具体的かつ詳細な規定は設けられていない。もっとも,府教委は,地方公務員たる教員に対する評価について,評価育成手引を作成し,同手引には,評価の着眼点や評価対象者に求められる行動パターンなどが示されているところ,同手引に従って適正な評価を行うためには,評価者において,当該教員に関する多種多様な事情を踏まえ,柔軟かつ専門技術的な評価を行う必要性があるから,同人事評価に関しては,基本的に評価者の裁量に委ねられていると認められる。そうすると,当該人事評価が違法となるのは,社会通念上著しく妥当性を欠き,評価権者が裁量権を逸脱し,又は濫用したと認められる場合に限られると解するのが相当である。
(2) 原告は,前記第4の1【原告の主張】のとおり,D校長が,本件評価中の業務評価及び能力評価における学ぶ力の育成(授業力),自立・自己実現の支援及び学校運営の各項目につき,原告のどのような点に問題があったのかを指摘していないこと,他方で,原告が,授業アンケートの結果や授業見学等において,高い評価を得ていたこと,B評価を受けた者が分布上極端に少ないことを指摘するなどして,本件評価が国賠法上違法である旨主張する。
ア 学ぶ力の育成(授業力)について
(ア) 確かに,@上記認定事実のとおり,D校長は,平成23年度の授業見学において,原告の授業に総合B評価を行っていること(認定事実(7)イ),原告に対する平成25年度第1回授業アンケートの結果は,特段に高い結果に分類され,同年度第2回授業アンケートの結果は,標準的な結果であったと分類されること(認定事実(2)イ,(10)ア),AD校長は,陳述書(乙A5,A19)において,各年度の評価根拠となる事実を具体的に述べているものの,平成23年度については,原告が,女子生徒に対する不適切発言をしたり,謹慎中の生徒に対するメールを行ったとする点,平成24年度については,原告が,健康文化部の担当で自分勝手な判断をすることがあり,教科や学年に関する業務はできていない状態であったとする点について,原告に対する指導を行った記録等の客観的資料は見当たらないこと,B原告が「○」や「△」の記号を用いたプリントを使用していたこと(認定事実(8)イ)について,原告が,生徒に対し,解答を暗記させる趣旨で上記プリントを用いたものであると認めるに足りる的確な証拠はないこと,以上の点が認められる。
(イ) しかしながら,@D校長は,平成23年度の授業見学において,総合B評価を行いながらも,同授業見学を通じて,原告の授業は,生徒に考えさせるという授業ではなく,解答だけを暗記させる授業であると認識し,この点について,原告に対して指導を行ったこと(認定事実(7)イ),AD校長は,平成24年6月20日の授業観察や,平成25年6月20日に実施された研究授業といった具体的な機会を通じて,原告の授業内容について,解答を出す過程よりも,解答自体を重視するものと評価したこと(認定事実(8)ウ,(10)イ),BD校長は,平成25年度に実施した授業観察の結果,授業観察評価や「学習に臨むための環境のつくり」については,3段階中2段階目の評価をしながら,「教材や授業内容,指導方法の工夫」,「専門的知識・技能の習得」,「協同的な学び」の項目については,3段階中最下位の評価を行い,授業力の評価についても3段階中最下位の評価(5段階評価とした場合には,上から4段階目の評価)を行ったこと(認定事実(10)イ,ウ),以上の事実が認められる。
以上認定したD校長による指摘等は,いずれも,授業見学や授業観察といった,D校長の直接的な経験に基づくものであって,具体的な根拠を欠くものということはできないこと,授業見学や授業観察においては,上記(ア)のとおり,原告が行った授業の一定内容を肯定的に評価しており,同評価全体が原告に対する偏見等に基づくものともいえないこと,以上の点が認められ,これらの点からすると,原告が,平成23年度から平成25年度の各年度において,客観的にみて,授業内容の充実等に問題を抱えていたとするD校長の認識判断が合理性を欠くものであったとは認め難い。
(ウ) 上記認定したとおり,授業アンケートの内容は,授業力の評価を行うための重要な一要素になるとされている(認定事実(2)ア)。しかしながら,前記前提事実並びに上記認定事実及び後掲証拠によれば,@授業アンケートの内容は,授業を受けた生徒らの受け止め方を回答したものであって,専門的な指導技術等を問うものではなく,授業アンケートの実施(生徒による授業評価の実施)に当たっては,生徒が,教員の人物や人格を評価するのではなく,授業の質を向上させるという観点から行わなければならず,評価方法についての適切な指導を通して,生徒の評価能力の向上を図ることも必要であると指摘されていること(認定事実(3)ア,イ),A原告に対する授業アンケートは,授業アンケート実施の初年度に行われたものであること(前提事実(2)イ),BD校長は,原告に対する授業観察の結果,原告が,計算の結果や答えを重要視し,考える過程を指導していなかったと評価していたこと(認定事実(7)イ,同(8)ウ,証人D),以上の点が認められ,これらの点からすると,D校長は,原告に対する授業アンケートの結果を一切考慮しなかったというのではなく,授業アンケートの結果を踏まえて,授業の質に対する生徒の評価能力に疑問を呈し,自ら授業観察を行った上で,原告の授業力に対する評価を行ったと認められる。
したがって,原告に対する授業アンケートの結果が,特段に高い,あるいは標準的な結果であるのに対し,本件評価中,業績評価及び能力評価における,学ぶ力の育成又は授業力の項目が,おおむね発揮できている又は全く発揮できていないとの評価を受けたという結果をもって直ちに,D校長が,本件評価において,その裁量を逸脱し,又は濫用したとまで評価することはできない。
(エ) 原告は,本件評価が,D校長の推進する「協同的な学び」に対し,原告が批判的な立場をとっていたことに対する制裁である旨主張するが,この点を認めるに足りる的確な証拠は認められない。
(オ) 以上によれば,原告が,学ぶ力の育成(授業力)の項目に対する業績評価及び能力評価について,23年度評価及び24年度評価においては,おおむね目標を達成している又はおおむね能力を発揮していると評価され,25年度評価においては,業績評価でおおむね目標を達成している,能力評価で能力を発揮していないと評価されたことにつき,D校長が,その裁量権を逸脱し,又は濫用したということはできない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ 自立・自己実現の支援及び学校運営について
(ア) 原告は,自立・自己実現の支援及び学校運営の項目について,23年度評価から25年度評価までの,業績評価及び能力評価全てにおいて,目標に達していない又は能力を発揮していないと評価されている(認定事実(7)ア,(8)ア,(9))ところ,D校長は,原告に係る自立・自己実現の支援及び学校運営の項目に対する評価について,各年度の評価根拠となる事実を具体的に述べている(乙A5,A19)ものの,上記(2)ア(ア)のとおり,その一部については,原告に対する指導記録等の客観的資料は見当たらない。
(イ) しかしながら,前記前提事実及び上記認定事実によれば,@D校長は,平成23年度における授業見学の結果を踏まえ,原告に対し,原告が,生徒との距離感を詰める目的があるとしても,生徒に対する言葉遣いが軽く,本件高校には心のケアを必要とする生徒が多く在校していたため,生徒との関係構築において,適切であるとはいい難いとの問題点を指摘し,平成24年度においても,同問題点の改善が見られなかったと認識していたこと(認定事実(7)イ,(8)エ),Aその一方で,原告は,平成25年度には,女子生徒A及びBなどに対し,粗暴な言動で指導に当たっていたこと(前提事実(5)ア,イ),B本件高校の教頭や同僚教諭が,原告の粗暴な言動による指導に対し,指導や制止を行ったにもかかわらず,原告は「生徒になめられたくない」といった理由で,これらの指導や制止に従わなかったこと(認定事実(11)ア(ア)(イ),ウ),C原告は,Eに対する指導には関わらないよう伝えられ,自ら懲戒処分の可能性を認識していたにもかかわらず,深夜にEの自宅を訪れ,Eの左頬を平手打ちするなどしたこと(同カ(ア)(カ)),D原告は,重要な会議で用いる資料を作成するのに必要な作業を期限までに行わなかったこと(同エ),E原告は,必ずしも担任と連携ができていない生徒について,次年度の選択科目を変更させ,注意を受けたこと(同オ),F懲戒指導中の生徒に対して,勝手に登校時間を指導したこと(同キ),以上の事実が認められ,これらの事実によれば,原告には,平成23年度から平成25年度にかけて,同僚教職員との協力・連携,指導に従うという意識に欠け,時には懲戒処分を課される可能性があるとしても,自らの考えを優先して行動し,その結果として,生徒の生活背景を把握し,適切な関係性を構築することができていなかったとの問題点を指摘することができるのであって,これらの点を総合すると,D校長が,評価育成手引に基づいて,平成23年度から平成25年度までの原告の行動につき,目標に達していない又は能力を発揮していないと評価した点については,裁量権を逸脱し,又はこれを濫用したとはいえない。
ウ 原告は,B以下の評価が付けられた府立学校の教員は,各年度において1%前後しかおらず,かように低い評価を受けるべき問題点は存在しないと主張するが(前記第4の1【原告の主張】(4)),そもそも府立学校の教員に対する評価は,絶対評価であること(認定事実(1))及び上記認定説示した原告に関する評価の具体的な内容に鑑みれば,原告の上記主張は理由がなく,この点をもって,D校長による評価が裁量権を逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
(3) 以上のとおりであって,本件評価は,原告の評価者であるD校長が,その裁量を逸脱し,又はこれを濫用してなされたものとはいえず,国賠法上違法であるとはいえない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
3 争点2(本件停職処分が,国賠法上違法といえるか否か)について
(1) 本件停職処分に係る懲戒事由の有無について
ア 前記前提事実のとおり,@原告は,女子生徒Aに対し,机を叩きながら大声で「何考えてんねん」などと言って指導を行ったこと(前提事実(5)ア)。A原告は,M教頭から,女子生徒Aに対する指導につき,机を叩いたり,大声で叱責するなど威圧的な態度をとらず,粗暴な言葉を使わないように注意を受けたにもかかわらず,女子生徒Bに対し,机や壁を叩き,「お前がやってることはわかっとんねん」,「正直に言えや」などと言い,女子生徒Bの担任教諭が制止するのも聞かず,叱責を続けたこと(同イ),以上のような原告の生徒に対する言動は,生徒に対して威圧的・粗暴な言動を用いた点で,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たると認めるのが相当である。
イ また,上記認定事実のとおり,原告は,平成26年1月24日,Eが喫煙による2度の停学処分を受けていたにもかかわらず,再び喫煙した事実が本件高校に発覚したことを知り,急いでEに会い,原告自身が懲戒処分を受けてでも,叩いて指導するしかないとの考えの下,同日午後11時頃にEの自宅に赴き,Eの左頬を右平手で1回叩くなどした(認定事実(11)カ(カ))ところ,原告のEに対する同行為は,身体に対する侵害を内容とするものであること,原告の同行為が,たとえEに対して生活態度を改めるよう自覚させるという目的を達成するためのものであったとしても,注意や叱責といった教育的手段によるのではなく,身体に対する侵害を内容とする手段を用いるべき必要性は何ら認められないこと,以上の点に鑑みれば,原告の上記行為は,学校教育法11条ただし書にいう「体罰」に該当すると解するのが相当である。
したがって,原告の上記行為は,法令等に従う義務を定めた地公法32条に違反し,かつ,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当たると認めるのが相当である。
ウ 以上によれば,原告については,地公法29条1項1号,同項3号所定の懲戒事由があると認められる。
(2) 本件停職処分に係る量定の相当性について
ア 地方公務員につき懲戒事由がある場合において,懲戒処分のうち,いかなる処分を選ぶべきであるかについては,懲戒処分が広範な事情を総合してなされるべきものである以上,かかる事情に通暁する懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり,懲戒権者がかかる裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,懲戒処分は違法とならないものというべきである(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
イ 以上を踏まえて,本件停職処分についてみると,そもそも本件停職処分は,1か月の停職を内容とするものであるところ,本件条例によれば,生徒に体罰を加えた場合の標準的な懲戒処分の種類は,「戒告,減給又は停職」とされ,また,停職の期間については,1日以上6月以下とされていることからすると,本件停職処分は,本件条例における標準的な懲戒処分の種類の中で,選択可能な幅の中から選択されたものであると認められる。
そして,前記前提事実及び上記認定事実によれば,@原告は,本件高校からEに対する指導には関わらないよう指導されており,かつ,自ら懲戒に処される可能性の認識がありながらも,Eに対し,左頬を平手打ちなどの行為に及んだこと(認定事実(11)カ(カ)),A原告が,午後11時から午前3時頃までの深夜帯に,Eの自宅において注意や叱責を行ったこと(同),B原告は,Eに対する指導以前にも,女子生徒Aに対する叱責について,威圧的な言動や粗暴な言葉を用いることのないよう指導を受け,その直後には,同指導に反し,女子生徒Bに対し,威圧的な言動や粗暴な言動を用いたこと(前提事実(5)アイ),以上の事実が認められ,かかる事実によれば,原告の行為には,体罰や粗暴な言動,威圧的な言動を用いたという問題点があり,原告自身には,指導方法に関する指示に従わず,自らの考えを優先させて行動しようとするという問題点があると指摘することができる。
以上認定説示した諸般の事情を総合的に勘案すれば,選択可能な処分のうち,最も重い種類の処分を選択しつつ,停職期間を1か月とした本件停職処分については,懲戒権者が裁量権を付与した目的を逸脱又は濫用したと評価することはできない。
(3) 以上のとおりであって,本件停職処分は,懲戒権者が裁量権を逸脱又は濫用したものということはできず,国賠法上違法と評価することはできない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
4 争点3(本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における原告に対する発言が,国賠法上違法といえるか否か)について
(1) 本件研修命令に係る違法性の有無について
ア 違法性判断の判断枠組みについて
教特法25条の2第1項は,指導改善研修の実施について,任命権者が「指導が不適切であると認定」したことを要件としているところ,同条においては,上記文言に加え,一定の手続(同条5項及び6項)に従うことのみを要することとされていることや教員の人事管理の適正化には多角的な検討を要することからすると,上記した「指導が不適切」であるか否かについては,基本的に任命権者の裁量的判断に委ねられるものと解され,同裁量権の行使が,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合に限り,指導改善研修に係る命令が違法になると解するのが相当である。
イ 本件研修命令の違法性の有無について
(ア) 上記3で認定説示したところによれば,本件停職処分は裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえないから,本件停職処分が違法であることを理由に,本件研修命令が国賠法上違法であるとする原告の主張は,その限りで理由がないといわざるを得ない。
(イ) 原告は,学校教育法11条ただし書で禁止される「体罰」を行い,生徒に対して威圧的な言動を用いたものであるところ,本件研修命令の目標(研修内容)は,原告の上記言動の背景には,原告が自らの考えを優先して行動するために,教頭からの指導に従わず,同僚教員との協調性にも欠けていたという問題点が存在するとの認識に立ち,同様の事象の再発を防止する点にあると認められる(前提事実(7)ア(ウ))。そして,上記2で認定説示したとおり,本件評価は適法であるという点をも併せ鑑みると,上記研修内容に基づいて,原告に対し,必要な研修を受けるよう命じること自体は,何ら違法不当とはいえず,裁量権の逸脱又は濫用であるということもできない。
したがって,本件研修命令が,国賠法上違法であるということはできない。
(2) 本件延長命令に係る違法性の有無について
ア 違法性判断に係る判断枠組みについて
教特法25条の2第2項においては,指導改善研修は,「特に必要があると認めるとき」に延長することができるとされているところ,同条においては,同文言に加え,指導改善研修の終了時において,指導の改善の程度に関する認定を一定の手続を履践して行わなければならないとのみ定められていることや教員の人事管理の適正化には多角的な検討を要することからすると,「特に必要があると認めるとき」に該当するか否かについては,基本的に任命権者の裁量的判断に委ねられるものと解され,裁量権行使が,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合に限り,延長命令は違法となると解するのが相当である。
イ 本件延長命令1の違法性の有無について
前記前提事実及び上記認定事実のとおり,府教委は,原告に対する研修の結果,原告については,体罰の違法性等について認識を深めつつあると,一定の評価をしつつも,生徒指導等の実際の場面における,力に頼らない適切な指導方法に関して,原告が「具体的なイメージを持ち切れるところまでには至っていない」との認識に立ち,力に頼らない適切な指導方法を身につけることによって,「二度と体罰を起こさない自己を確立」する趣旨で,本件延長命令1を行ったものと認められる(前提事実(7)イ(ア),認定事実(14)ア)。そして,上記2で認定説示したとおり,原告が,女子生徒A及びBに対して,威圧的・粗暴な言動を用いたことやEに対して体罰を行ったことに照らすと,原告については,具体的な指導方法をも含めて指導改善研修を受ける必要があること,実際に,原告は,本件延長命令1の期間において,プレゼンテーションを行うなどして,具体的な事例における生徒指導の方法について研修を行っていること(認定事実(14)ウないしオ),以上の事実が認められ,これら本件延長命令1の趣旨目的や上記した同命令期間中の原告に対する研修内容に鑑みれば,本件延長命令1については,任命権者が,裁量権を逸脱し,又はこれを濫用したと評価することはできない。
ウ 本件延長命令2及び3について
確かに,府教委は,本件研修命令及び本件延長命令1の結果等を踏まえ,原告について,体罰の違法性等について認識を深め,自分自身の感情のコントロールに課題があることについて認識し,生徒対応や指導方法において考えるべきことを知識として獲得してきていると一定の評価をしている(認定事実(15)ア,同(16)ア,イ)。
しかしながら,上記認定事実のとおり,府教委は,原告について,実際の生徒指導の場面において,適切に生徒に対応するための感情コントロールのスキルや,様々な想定の下に対応を判断するスキルを身に付ける必要があるとの課題を指摘していることや現場における実践を通して,自己の生徒指導の在り方を確立し,周囲の教員との協調や連携の必要性について認識を高める必要があり,現場復帰に向けた検証を行うとの趣旨も合せて,本件延長命令2を行ったと認められること(認定事実(14)ア),原告は,本件延長命令1による研修期間中に実施されたプレゼンテーションにおいて,I管理主事やJ管理主事による指摘に対し,反発をする姿勢をみせていること(認定事実(14)エ(ウ)),実際に,原告は,上記趣旨に沿って,本件延長命令2及び3による研修期間中に,所外研修を行っていること(認定事実(15)ウ(ア),同(16)エ(ア)),以上の点が認められ,これらの点を総合的に勘案すると,本件延長命令2及び3については,府教委が,その裁量権を逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
エ 小括
以上のとおりであって,本件延長命令はいずれも裁量権を逸脱又は濫用したものではなく,国賠法上違法であるとはいえない。したがって,この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。
(3) 原告主張に係るパワハラ行為について
ア 別表番号1について
上記認定事実のとおり,原告は,本件研修命令によって,体罰による被害者の心情を理解し,体罰事象を引き起こした原因について内省を深める等の理由から,課題作文の作成などを行ったと認められる(認定事実(13)ア(ア))ものの,本件全証拠によっても,かかる課題を与えることが国賠法上違法と評価すべき個別具体的な根拠となる事実は認められない。したがって,別表番号1の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
イ 別表番号2について
確かに,F室長の指摘は,問題点を具体的に示すものとはいえない。しかしながら,上記した研修内容等からすると,問題点を具体的に示さず,原告に考えさせること自体が,研修の目的をなすものであるとも考えられるところ,上記認定事実(13)イによれば,F室長は,原告に対し,原告自身の課題を明確化して認識するためには,原告自身が深く考える必要があることを指摘したことが認められ,これらの点に鑑みれば,問題点を具体的に示さなかったという点が,研修の目的に沿わない不相当なものであるとまでいうことはできない。したがって,別表番号2の点について,これを国賠法上違法と評価することはできない。
ウ 別表番号3について
上記認定事実(13)ケ(イ)で認定したF室長の発言内容に照らすと,同発言は,原告に対し,他の教員との連携等について説いているものと理解することができるところ,かかる発言が,それ自体,研修の目的に沿わない不相当なものであるとまでいうことはできない。したがって,別表番号3の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
エ 別表番号4及び6について
上記認定事実(13)エ及びオによれば,F室長は,原告に対し,原告の行動と,原告の固定的な教育観や弱さとを結びつける趣旨の発言や,問いに即座に答える原告の対応に指摘を加えているものと認められる。そして,F室長の発言内容に照らすと,同発言は,原告に対して,生徒指導を,教員個人の思いだけではなく,組織的に行うことの必要性や,原告自身が深く考えて課題を認識することの必要性を説くものであると認められるから,研修の目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表番号4及び6の各点は,いずれも国賠法上違法と評価することはできない。
オ 別表番号5について
上記認定事実(13)ウによれば,F室長は,原告に対し,生徒指導において組織的な行動が求められることは,難なく理解することができるはずであり,原告が,Eの指導に関わらないよう伝えられていたにもかかわらず,自らの「何とかしたい」という気持ちに基づいて,Eの指導を行ったことについて,かかる原告の言動が通常行うことのない行為であると指摘したにすぎないと認められる。そうすると,F室長の同指摘は,同指摘の趣旨及び内容からして,研修の目的に沿わない不相当なものであるとはいえず,別表番号5の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
カ 別表番号7及び8について
上記認定事実(13)オによれば,F室長の発言は,原告に対し,生徒指導の適切な内容や方法は,単独でみつけるのは困難な場合が多く,自らが生徒のために行動できていると考える場合であっても,実際には生徒のために行動できているとはいえない場合もあるから,安易に結論を出したり,独善的になることなく,他の教員と連携することの必要性を十分に認識するよう説くものであると認められる。そうすると,F室長の発言は,同発言の趣旨内容からして,研修の目的に沿わない不相当なものということはできず,国賠法上違法と評価することはできない。
キ 別表番号9について
上記認定事実(13)ケ(ア)によれば,F室長の発言は,原告が,通訳の必要性を検討した外国籍の生徒に対する対応については,組織的に行うことができていながら,Eに対する指導の件などでは,組織的に対応することができていなかったことを指摘するものであり,また,生徒の生活背景を十分に把握した上で指導に当たることの必要性を指摘したものであると認められる。そうすると,F室長の発言は,殊更原告を非難するものではなく,また,研修目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表番号9の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
ク 別表番号10について
上記認定事実(13)キ(イ)によれば,F室長の発言は,原告に対し,生徒指導について,生徒に対する具体的な働きかけの方法など,実践的な視点も入れながら,検討することの必要性を説いたものであると認められる。そうすると,F室長の同発言は,研修目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表番号10の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
ケ 別表番号11について
上記認定事実(13)カによれば,H指導主事の発言は,校長が,本件高校において,教員に対し,体罰に対する考え方を周知したり,体罰についての教員に対する調査や生徒に対するアンケートを実施した事実の有無を確認したものであると認められる。そうすると,H指導主事の発言は,研修目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表番号11の点は,国賠法上違法であると評価することはできない。
コ 別表番号12について
上記認定事実(13)キ(ア)によれば,H指導主事の発言は,原告が1年間で8校から10校の中学校を訪問し,2年間で20校くらいの中学校を訪問したと思うが,いずれの年にどの中学校に訪問したのかは明確に覚えていないと発言したことに対して,教員の仕事として行った学校訪問について,2年のうちいずれの年度に,どこの中学校へ訪問したのかという点については,明確に覚えておくべき事柄であると指摘したものであると認められる。そうすると,H指導主事の発言は,殊更原告を非難するものとまでいうことはできず,また,研修目的に照らし不相当であるとはいえない。したがって,別表12の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
サ 別表番号13について
上記認定事実(13)クによれば,H指導主事の発言は,家庭訪問は一人で行ってはならないなどの決まりがないかどうかを確認しつつ,推測であるとしながら,原告が学校における生徒指導についての決まりを聞こうとせず,独断で行動してしまうのではないかと述べるなど,原告に対し,学校における生徒指導についての決まりを思い出しておくように説いたものであると認められる。
確かに,H指導主事の発言には,推測にわたる事項が含まれてはいるものの,生徒指導に関するルールが存在しない,あるいは教員がルールの存在を知らないことは想定し難いということを踏まえ,原告の言動に疑問を投げかけつつ,原告に対し,生徒指導に関するルールを十分に認識しておくよう説いたものであると認められる。そうすると,H指導主事の発言は,研修目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表13の点は,国賠法上違法であると評価することはできない。
シ 別表番号14及び15について
上記認定事実(14)ウ及びエによれば,J管理主事及びI管理主事の発言は,原告のプレゼンテーションについて,原告が一生懸命に取り組んでいる姿勢は評価しつつも,原告のプレゼンテーションの内容には,大事な観点が抜けている等の指摘をしたものであると認められる。そうすると,両管理主事の発言は,いずれも研修目的に沿う相当なものであると認められる。したがって,別表番号14及び15の点は,国賠法上違法であると評価することはできない。
ス 別表番号16について
原告は,I管理主事が,完璧に回答できない問題を出しては,原告にプレゼンテーションをさせ,原告の誤りを指摘し,叱責することを繰り返したと主張する。しかしながら,本件全証拠を精査しても,I管理主事が,原告に対し,原告の誤りを指摘して叱責を繰り返したことを認めるに足りる的確な証拠は認められず,そのほか,別表番号16記載に係る原告の主張する事実を認めるに足りる的確な証拠は認められない。したがって,別表番号16の点は,国賠法上違法であると評価することはできない。
セ 別表番号17について
上記認定事実(15)ウによれば,G室長の発言は,平成27年9月に実施した高等学校での所外研修おいて,原告に係る人物評が非常に悪かったため,同年11月に所外研修を控えている原告に対して,研修を延長するか否かとはかかわりなく,助言をするという趣旨であることを示しながら,飽くまでも普通に振る舞うことの必要性を指摘したものであると認められる。また,「もうそれやったら言うのやめるわ。その代わり,後は何が起きても俺知らない」というG室長の発言は,その発言の内容や両者のやりとりの具体的な状況に照らすと,原告がG室長からの助言を素直に聞き入れないのであれば,助言することはあきらめるが,その代わり,所外研修において注意を受けるかもしれないとの趣旨であると認められる。以上の点を総合的に勘案すると,G室長の同発言は,研修目的に沿わない不相当なものということはできない。したがって,別表番号17の点は,国賠法上違法と評価することはできない。
ソ 別表番号18及び19について
上記認定事実(15)エ及び同(16)ウによれば,K指導員の発言は,部活動の指導が義務であり,仮に義務でないとすれば,部活動の指導が違法行為になってしまうと考えていること,部活動の指導が義務でないと考えるのであれば,部活動顧問のあり方に特化した指導が必要となること,部活動指導が義務でないとする根拠を示すよう求めたこと,以上の点を内容とするものであると認められる。
確かに,K指導員の同発言は,原告に対する研修との関係からすると,直接的な関連性が乏しいといわざるを得ない。もっとも,同発言の内容や原告とK指導員との具体的なやりとりの状況に鑑みると,K指導員が原告に対し,脅迫又は執ような追及をしたとまでは認められない。したがって,別表番号18及び19の点は,いずれも国賠法上違法と評価することはできない。
タ 別表番号20について
G室長が発言した経緯及びG室長の発言内容,G室長と原告との具体的なやりとりの状況については,上記認定事実(16)エで認定したとおりである。
確かに,G室長の同発言は,原告の発言内容が事実に反することや,原告の態度が引き金となったものであるとうかがわれる。しかしながら,上記認定した事実の経過を踏まえても,G室長が,原告に対し,声を荒げて発言をするという必要性があったとはいえず,その発言内容についても適切さを欠いていると認められること,さらには,そもそも原告は,女子生徒A及びBに対する威圧的な言動を一つの原因として本件停職処分を受け,同言動に関する改善等を目的として本件研修を受けてきたところ,G室長は,同研修を差配し,原告に対し,生徒に対する威圧的な言動等に関して,これらを改善指導する教育センターの学校経営研究室長という立場にったこと,以上の点を総合的に勘案すると,G室長の言動は,教育的手段であるか否かにかかわらず,相当性を欠いているといわざるを得ない。
以上によれば,G室長の上記言動は,国賠法上違法であると評価することができる。
(4) 小括
以上のとおり,本件研修命令,本件延長命令及び研修期間中における原告に対する発言のうち,別表番号20に係るG室長の言動については,国賠法上違法であるが,そのほかの点は,いずれも国賠法上違法と評価することはできない。
5 争点4(原告に係る損害の有無及びその額)
別表番号20に係るG室長の言動は,声を荒げて,原告に対し謝罪を求めるという内容のものであるところ,原告の発言内容が事実に反することや,原告の態度が引き金となり,また,原告が「いや,言ってないですけど」,「まあ,そういう風に捉えられたんでしたら,すいませんでした」などと原告自身,自らの発言等に不適切な点があったことを認めていること,以上の点に照らすと,G室長の同言動による原告の慰謝料は,5万円をもって相当であると認められ,また,弁護士費用相当損害金については,事案の内容や慰謝料の金額等に照らすと1万円をもって相当であると認められる。
6 結論
以上の次第で,原告の本件請求は,主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余については理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判長裁判官 内藤裕之 裁判官 大寄悦加 裁判官 溝口達)