裁判年月日  令和 4年 3月23日
裁判所名  福井地裁
裁判区分  判決
事件番号  平31(ワ)32号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容
控訴審 令和 5年 3月15日 名古屋高裁金沢支部 判決 令4(ネ)86号 →現在、ページを制作中です。


原告 X
同訴訟代理人弁護士  島田広

被告 福井県
同代表者知事 A
同訴訟代理人弁護士 小川洋一


主文

 1  被告は、原告に対し、711万7600円並びにうち64万円に対する平成29年3月1日から及びうち別表「損害」欄記載の各金員に対する同表「起算日」欄記載の各起算日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2  原告のその余の請求を棄却する。
 3  訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
 4  この判決の主文第1項は、仮に執行することができる。

 
事実及び理由

第1  請求の趣旨
 1  第一次的請求
 被告は、原告に対し、1012万円及びこれに対する平成29年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2  第二次的請求
 被告は、原告に対し、924万円並びにうち370万円に対する平成29年4月1日から及びうち554万円に対する平成30年4月1日から支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
 1  本件は、福井県立高等学校の教職員であった原告が、被告に対し、@第一次的には、被告の設置する福井県教育委員会(以下「県教委」という。)が平成29年度福井県公立学校再任用教職員採用選考(以下「本件再任用選考」という。)において原告を再任用しないとした行為(以下「本件不合格決定」という。)は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとして、国家賠償法1条1項に基づき、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用の損害金合計1012万円及びこれに対する本件不合格決定をした日の翌日である平成29年3月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、A第二次的に、県教委が平成29年度臨時的任用講師又は非常勤講師(以下「平成29年度臨時講師等」という。)の採用に当たり、原告に福井県公立学校講師等登録申込書の提出を促すべき義務を負っていたにもかかわらずこれを怠るとともに、平成30年度臨時的任用講師又は非常勤講師(以下「平成30年度臨時講師等」といい、平成29年度臨時講師等と併せて、「本件臨時講師等」という。)の採用に当たり、平成30年度臨時講師等の任用の必要性が生じたときは、原告に面接等を行うべき義務があったにもかかわらずこれを怠り、原告が本件臨時講師等として任用される機会を違法に奪ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、924万円並びにうち370万円に対する原告が平成29年度臨時講師等として任用されないことが確定した後の日である平成29年4月1日から支払済みまで及びうち554万円に対する原告が平成30年度臨時講師等として任用されないことが確定した後の日である平成30年4月1日から支払済みまで、いずれも同割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 2  関係法令等の定め
 本件に関係する法令等の定めは別紙1関係法令等の定め記載のとおりである。
 3  前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
   (1)  当事者等
   ア 原告は、昭和54年4月、中学校の教諭として勤務を開始してから平成29年3月末に定年退職するまで、約38年間にわたり美術科及び養護学校の教員として福井県内の中学校、高等学校等に勤務し、美術教育活動に従事してきた者であり、特に、上記採用以来、平成16年4月に養護学校へ異動するまでの間は、中学校教諭として勤務していた。(甲1)
 原告は、小学校二種免許、中学校二種免許(社会)、中学校専修免許(美術)、高等学校専修免許(美術)及び特別支援学校教諭二種の各教員普通免許を有している。
 原告は、平成29年○月○日に満60歳を迎えたことから、同月31日に福井県立a高等学校(以下、単に「a高校」ということがある。)を最後に定年退職した。
   イ 被告は、県教委を設置する地方公共団体である(地方自治法180条の5第1項1号、地方教育行政の組織及び運営に関する法律2条)。
   (2)  本件に至る経緯(甲2ないし5、7、9、10、17)
   ア 本件再任用選考について
 県教委においては、平成29年3月末をもって定年退職する予定の教員らに対し、平成28年11月30日から同年12月27日の間に、本件再任用選考の募集がされていたところ、原告は、同月中に本件再任用選考に応募し、同校校長による再任用意見書の作成を経て、平成29年1月25日、本件再任用選考の面接(以下「本件面接」という。)を受けた。
 本件再任用選考においては、校長評価による勤務実績の点数と面接の点数を合算した絶対評価を行い、健康診断結果等をも勘案して総合的に採否を判定するものとされているところ(後記認定において詳述)、本件面接は、面接官3名により行われ、この3名がそれぞれ別個に原告に対して付けた面接評価は、いずれもが「E」評価の0点(「A」が20点、「B」が15点、「C」が10点、「D」が5点)であった。
 県教委教育長は、原告に対し、再任用の希望に添えない旨の同年2月28日付け通知を送付した(以下「本件通知」という。)。
   イ 平成29年度臨時講師等の採用について
 他方、被告が平成28年11月25日から同年12月2日にかけて4回開催した退職教員向けセカンドライフセミナーにおいて、県教委は、その出席者らに対し、退職後の学校教育への協力要請を行うとともに、臨時講師等については、再任用教諭の応募とは別に退職教員用の福井県公立学校講師等登録申込書を提出する必要がある旨説明した。
 本件通知には、「なお、今後、臨時的任用講師または非常勤講師としての任用の可能性はあります。この連絡は、3月中旬ごろまでに連絡をする予定です。」との記載があった。
 被告は、平成29年度臨時講師等としても、原告を採用することはなかった。
   ウ 平成30年度臨時講師等の採用について
 原告は、上記ア、イの不採用の後、平成29年4月7日、福井県公立学校等登録申込を行ったが、平成30年度においても、被告が原告を臨時講師等として採用することはなかった。
   (3)  原被告間におけるかつての別件訴訟等の経緯
 原告は、これらに先立つ平成25年3月に、当時在籍していた福井県立b高等学校の校長から、生徒指導に当たり不適切な行為を何らしていないのに不適切な指導があったとして注意を受け、同年4月頃には「体罰等不適切指導を行った教職員に対する研修会」の受講を命令された(以下、これを「本件研修強制事件」ということがある。)と主張して、平成28年になってから、被告を相手方として福井簡易裁判所に民事調停を申し立てた後(甲36)、本件研修強制事件により精神的苦痛を被った旨主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めて、福井地方裁判所に訴えを提起した(福井地方裁判所平成28年(ワ)第96号事件)。
 原告は、平成29年4月11日上記訴訟事件を担当する裁判所の受命裁判官が本件研修強制事件に対し遺憾の意を表明するなどの裁判所所見を述べたことを受けて、同訴訟事件における請求を放棄し、同訴訟事件は終了した(甲17)。(以下、ここでの上記調停事件を「別件調停事件」、上記訴訟事件を「別件訴訟事件」ということがある。)
 4  争点
   (1)  県教委の本件不合格決定が国家賠償法上違法か(争点@)。
   (2)  県教委が、平成29年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書の提出を促さなかった行為が国家賠償法上違法か(争点A)。
   (3)  県教委が、平成30年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書を提出した原告と面接しなかった行為が国家賠償法上違法か(争点B)。
   (4)  原告の損害の発生及びその額(争点C)
 5  争点に関する当事者の主張
   (1)  争点@(県教委の本件不合格決定が国家賠償法上違法か。)について
 (原告の主張)
 原告は、本件再任用選考において、希望者はほぼ全員再任用されている実態があり、総務省の「地方公務員の雇用と年金の接続について」と題する通知が発出されている中で、優秀な美術教員で懲戒処分歴もないにもかかわらず、平成28年に本件研修強制事件において訴えを提起したことで、以下のように本件再任用選考において、恣意的な評価を受け、県教委により本件不合格決定がなされたのである。本件不合格決定は、裁量権を逸脱濫用するものであって、公正な選考を受けるという原告の期待権を侵害し、違法である。
   ア 校長評価が恣意的になされていること(平成28年度人事評価と本件再任用選考の校長評価が著しく矛盾していること)
 原告の評価を行ったa高校の校長は、原告に対し、本件再任用選考直近の平成28年度人事評価において、業績評価及び業績評価について「B」と評価したにもかかわらず、本件再任用選考における校長評価の勤務実績評価の5項目のうち2つ又は3つの項目を「C」の「0点」と評価している。
 通常の人事評価と本件再任用選考基準は評価する観点は共通している。通常の人事評価の能力評価の評価基準とされている別紙2能力評価の項目には、本件再任用選考基準の勤務実績の評価の観点の5つの評価項目(「職務遂行能力」、「責任感」、「積極性」、「協調性」、「勤務態度」)と同じ又は同趣旨の評価項目が含まれている。能力評価とは、過去の勤務実績を総合して将来における職務上の能力適性を評価するものに他ならないから、総合的な勤務実績評価というべきものである。したがって、通常の人事評価と本件再任用選考の校長評価の趣旨は異ならない。
 そうすると、a高校の校長がした原告に対する評価において、直近である平成28年度人事評価と本件再任用選考の校長評価の勤務実績評価とが著しく矛盾しており、本件再任用選考における校長評価は恣意的になされたものといえる。
   イ 面接評価が恣意的になされていること(本件再任用選考の面接評価が0点であること)
 本件面接の評価において、面接官3人全員が原告に0点をつけている。
 本件面接は、受験者が4人から6人の集団面接であり、1人の受験者の面接時間が約5分間という簡単な面接で、本件再任用選考基準の5項目(「態度、服装」、「明朗さ、積極性、リーダー性、後輩への指導力」、「責任感、誠実性、協調性」、「判断力、表現力」、「職務についての意欲、教育観」)の全てについて3人の面接官全員から原告が0点の評価を受けるということは、面接評価という特殊性を考慮しても、平成28年度人事評価の結果及び本件再任用選考の校長評価に照らし、通常想定し難い。
 実際の面接においても、原告は3人の面接官からの質問に全て明確に答え、面接は特に問題なく終了しており、3人の面接官全員が0点評価という異常な結果を予測させるような異常な状況は生じていない。
 したがって、面接評価も恣意的になされているといえる。
 また、面接評価における最低評価の要因に関する被告の主張は、いずれも何らの合理的根拠もないものばかりであり、そこからも恣意的な評価であることが明らかである。
 さらに、原告は、本件再任用選考において、希望する職務として、第1希望から第3希望まで選択できるところ、これは同一校種の同一職種に限定されることはなく、被告が、面接審査において小学校教員への適性を中心に考慮することは許されない。
 (被告の主張)
 原告に対して、以下のように、公正公平に選考がされた結果、県教委によって本件不合格決定がなされたのであって、裁量権の逸脱濫用はなく、違法ではない。また、希望者が全員再任用されているという実態はなく、原告の指摘する「地方公務員の雇用と年金の接続について」は、法的拘束力を持つものではない。
   ア 平成28年度人事評価と本件再任用選考の校長評価が矛盾しないこと
 平成28年度人事評価と本件再任用選考の校長評価の勤務実績評価は、通常の人事評価の能力評価における別紙2能力評価の評価項目と本件再任用選考における勤務実績評価の評価項目は、多くの部分で異なっている。
 通常の人事評価の業績評価は、原告が設定した限られた目標の達成度を評価するものであって、本件再任用選考における校長評価は、再任用をするに適するか否かの観点からの勤務実績や意欲等を純客観的に評価するものであり評価基準も異なっている。
 評価区分についても、通常の人事評価は5段階であるが、本件再任用選考の校長評価も3段階であり、異なっている。
 以上より、評価対象項目、評価基準、評価区分が異なっており、平成28年度人事評価と本件再任用選考の校長評価の勤務実績評価は何ら矛盾していない。
   イ 面接評価が適正になされたこと
 本件再任用選考基準の面接評価は「態度、服装」、「明朗さ、積極性、リーダー性、後輩への指導力」、「責任感、誠実性、協調性」、「判断力、表現力」、「職務についての意欲、教育観」の5項目であるところ、原告が面接評価において、最低評価を受けた主な要因は、以下のとおりである。
 (ア) 原告の面接での話は、理論のみを並べ立て、経験に基づく具体的な指導例等が出てこないため、「教育観」や「表現力」において低い(特に小学校や特別支援学校には全く適さない。)評価になった。
 (イ) 原告は、児童生徒が一生幸せに生きるための造形教育を行い子供の心を育てるというようなことを言っていたが、原告の話からは、児童生徒の自主性や感性を軽んじた方法で授業を行おうとする様子がうかがわれ、「態度」、「誠実性」、「教育観」において低い評価になった。
 (ウ) 原告は自己中心的で、考え方も偏っており、「協調性」に欠けているという評価がされた。
 再任用教員は、即戦力としての人材が求められているところ、原告は、全く勤務経験のない小学校の常時勤務の教諭を希望したから、最低評価となった。なお、平成29年度福井県公立学校再任用教職員選考審査申込書(甲3はその写し。以下「本件審査申込書」ということがある。)の記載からすれば、第2希望以下が選択できるのは勤務形態が複数ある職種であり、原告が第2希望とすることができたのは小学校の短時間勤務の教諭であるから、それを書いていない以上、第1希望の職種を中心に面接評価を行ったことには何ら問題はない。
   (2)  争点A(県教委が、平成29年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書の提出を促さなかった行為が国家賠償法上違法か。)について
 (原告の主張)
 本件通知には、「今後、臨時的任用講師または非常勤講師としての任用の可能性はあります。」と記載があり、原告に「臨時的任用講師及び非常勤講師として任用される可能性がある」と期待を抱かせる行為をしたのであるから、本件通知以降、平成29年度臨時講師等の採用の募集事務を行うにあたり、原告から福井県公立学校講師等登録申込書の提出がされていないことを認知した時点で速やかに同申込書の提出を促すべき義務を負っていたのに、これを怠ったのであるから、原告から臨時的任用講師及び非常勤講師として採用される機会を奪っており、同申込書の提出を県教委が促さなかった行為は、国家賠償法上違法である。
 (被告の主張)
 臨時的任用講師及び非常勤講師について、再任用教諭の応募とは別に申込書の提出が必要なことは、原告が提出している平成28年度セカンドライフセミナーの参考資料の県教委の退職後の学校教育への協力を要請する文書にも明記されており、原告が出席したセカンドライフセミナーでも説明されている。したがって、原告が主張するような同申込書の提出を促す義務など存在しない。
 本件通知の文言は、定型書式であり、なお書きは、臨時的任用講師又は非常勤講師の登録を申込みしている者に対する文言である。
   (3)  争点B(県教委が、平成30年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書を提出した原告と面接しなかった行為が国家賠償法上違法か。)について
 (原告の主張)
 原告は、平成29年4月7日に、希望校種を「小学校(美術専科)」、「中学校」、「高等学校」、「特別支援学校」と、希望勤務地を「鯖江市」、「越前市」、「池田町」、「南越前町」と記載して、福井県公立学校講師等登録申込書を提出した。
 平成30年度の非常勤講師任用については、越前市所在の福井県立c高等学校や福井市所在の福井県立d高等学校の美術教員に空きがあり、同c高等学校については、原告の知人の推薦もあったのに、県教委は原告に連絡すらしなかった。また平成30年1月から3月を勤務期間として福井市所在の福井県立e特別支援学校についてハローワークで臨時的任用講師の募集をしていた。通常であれば、ハローワークで募集を行う前に講師登録者に任用の打診を行うはずであるのに、県教委は同支援学校に勤務経験もある原告にあえて打診しなかった。これらは、県教委が本件研修強制事件の訴えを原告が提起したことの嫌がらせとして、意図的に原告を任用対象者から除外していたことを推認させる。
 県教委は、原告が平成29年4月7日に福井県公立学校講師等登録申込書を提出して講師登録を申し込んで以後、講師任用の必要が生じたときは、その都度任用条件等を考慮し、原告が同条件に該当すれば原告に連絡し、面接等を行うべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、原告から臨時的任用講師及び非常勤講師として任用される機会を奪っており、原告の希望する条件の学校等の定員に空きがあったにもかかわらず、原告に連絡し、面接等を行わなかった行為は、国家賠償法上違法である。
 (被告の主張)
 講師の採用については、登録者で条件に合う者全員について面接等を行うのではなく、適切と思われる者を面接して決定しているのであって、原告の主張するような面接等を行う義務など存在しない。なお、福井県立d高等学校と福井県立e特別支援学校は、福井市に存在し、原告の希望条件と合致していない。
   (4)  争点C(原告の損害の発生及びその額)について
 (原告の主張)
   ア 第一次的請求が認容される場合
 (ア) 再任用拒否による経済的損害 820万円
 平成29年度福井県公立学校再任用教職員募集要項によれば、再任用教師の年収は410万円とされている。
 したがって、平成29年度に原告が再任用されていれば、410万円の年収が見込まれたのであり、被告による再任用拒否によって平成29年度及び同30年度において合計820万円の損害を被ったといえる。
 (イ) 慰謝料 100万円
 原告は、福井県内でも顕著な実績を持つ美術教員であったにもかかわらず、公平な選考を受けられず、本件研修強制事件に関する正当な訴訟行為をしたが故に教職に就く機会を奪われるという不当な取扱いを受けたのであり、その精神的苦痛は、これを経済的に評価して100万円を下らない。
 (ウ) 弁護士費用 92万円
 本件事案の性質に鑑み、上記(ア)、(イ)の合計920万円の1割に当たる弁護士費用が、被告の違法行為と因果関係のある損害といえる。
 (エ) 以上の合計 1012万円
   イ 第二次的請求が認容される場合
 (ア) 本件臨時講師等に関する任用拒否による経済的損害 740万円
 平成29年度福井県公立学校再任用教職員募集要項によれば、臨時的任用講師の年収は370万円とされている。
 したがって、平成29年度及び同30年度に原告が臨時的任用講師又は非常勤講師として任用されていれば、合計740万円の収入が見込まれたのであり、被告による任用拒否によって同額の損害を被ったといえる。
 (イ) 慰謝料 100万円
 第一次的請求の場合と同様。
 (ウ) 弁護士費用 84万円
 第一次請求の場合と同様に、上記(ア)、(イ)の合計840万円の1割
 (エ) 以上の合計 924万円
 (被告の主張)
 否認ないし争う。
第3  当裁判所の判断
 1  認定事実
 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
   (1)  県教委の教職員人事評価(乙1)と原告に対する同評価について
   ア 教職員人事評価の目的等
 県教委においては、教職員の意欲・資質能力の向上、学校組織の活性化及び人事管理の基礎を目的として、教職員人事評価が行われるものとされ、その構成は、目標管理の手法を用いた業績評価と能力評価であるとされている。
 評価期間は、4月1日から翌年3月31日までの1年間であり、業績評価の期間は、中間評価期間と年度末評価期間がある。
 評価者は、教職員については、第1次評価者は教頭で、第2次評価者は、校長である。
 業績評価及び能力評価の評価項目は、教諭については、「学習指導」、「生徒指導・進路指導」、「学校運営」があり、すべての職種に必要な能力評価の項目は「共通」項目が設定されている。
   イ 業績評価
 業績評価は、教職員が、その職務を遂行するに当たり挙げた業績を把握した上で行う勤務成績の評価であり、目標管理の手法を用いて、5段階の絶対評価で行われる。
 目標管理の手法を用いた業績評価は、教職員が目標設定をして、その目標を遂行し、それに対して自己評価をした上で、評価者が業績評価を行うものとされている。
 評価基準は、第1次及び第2次評価者並びに中間評価及び年度末評価共通で、以下の5段階になっている。
 「S」は「目標をはるかに上回る成果をあげた。」。
 「A」は「目標を達成し、期待された以上の成果をあげた。」。
 「B」は「概ね目標を達成した。【標準】」。
 「C」は「目標を達成できなかった。」。
 「D」は「目標をはるかに下回った。」。
   ウ 能力評価
 能力評価は、教職員が、その職務を遂行するにあたり発揮した能力を把握した上で行う勤務成績の評価で、職務遂行の中でとった行動を職種ごとに設定された評価項目及び具体的評価内容に照らして、発揮した能力の程度を5段階の絶対評価で評価されるものとされている。
 能力評価は、年度末に自己評価をした上で、第1次及び第2次評価者において評価される。
 具体的評価内容は、前記アの評価項目に応じて定められており、その内容は、別紙2能力評価のとおりである。
 評価基準は、第1次及び第2次評価者において共通で、以下の5段階になっている。
 「S」は「具体的評価内容にある行動を確実に行っており、特に優秀な能力発揮状況である。」。
 「A」は「具体的評価内容にある行動をいつも行っており、能力を十分発揮した。」。
 「B」は「具体的評価内容にある行動を概ね行っている。【標準】」。
 「C」は「具体的評価内容にある行動をあまり行っておらず、能力を十分発揮していない。」。
 「D」は「具体的評価内容にある行動をほとんど行っておらず、能力がほとんど発揮されていない。」。
   エ 評価結果の開示等
 評価結果の開示を希望する教職員は、年度末面談時に評価者に申し出れば、評価結果が本人に開示される。
   オ 校長は、教職員の評価結果をまとめて、所管教育委員会に提出する。
   カ 教職員は、評価結果について意見がある場合には、所管教育委員会に提出し、所管教育委員会は、当該教職員の第2次評価者から評価者意見書の提出を求めて、再度評価を実施するか決定する。
   キ 原告の平成28年度人事評価
 原告が勤務するa高校校長による平成28年度の原告に対する人事評価は、業績評価の中間及び年度末評価、能力評価、並びに総合評価について、いずれも「B」であった(甲14)。
   (2)  本件再任用選考について(甲2、5、乙5、6、8、9)
   ア 概要
 被告は、地方公務員法28条の4及び福井県職員等の再任用に関する条例に基づき、退職教員の再任用を行うものとされており(以下、このような制度を単に「再任用制度」という。)、本件再任用選考は、募集期間が、平成28年11月30日から同年12月27日とされ、再任用希望者である教職員が選考審査申込書、自己申告書等を提出して、平成29年1月下旬頃に面接試験が行われ、面接結果、勤務実績、健康診断結果等により総合的に選考判断されるものであった。選考結果は、平成29年2月中旬以降に、所属長を通じて申込者に文書で通知されることとなっていた。
 県立学校又は行政機関に勤務している再任用希望者である教職員(校長及び所属長を除く。)については、校長又は所属長が必要に応じて面接を行った上で、再任用意見書を作成し、学校振興課に提出する(提出期限は、平成28年12月27日。)。
   イ 判定基準
 勤務実績、面接の合計200点満点で絶対評価を行い、点数順を基準に、勤務実績、面接、健康診断結果等を勘案して総合的に選考する。
 (ア) 勤務実績
 勤務実績の配点は100点であり、県立学校教職員の場合、校長の評価による。勤務実績の評価項目は、「職務遂行能力」、「責任感」、「積極性」、「協調性」、「勤務態度」の5項目であり、各項目につき「A」評価が20点、「B」評価が10点、「C」評価が0点として配点されており、5項目で合計100点となる。
 (イ) 面接
 面接については、3名の面接官が4名から6名の受験者を集団面接し、1人の受験者の面接時間はおよそ5分間である。
 面接の配点も100点であり、「A」評価が20点、「B」評価が15点、「C」評価が10点、「D」評価が5点、「E」評価が0点である。面接官3名それぞれが別個に評価を行い(満点が合計60点)、3名の合計点に1.67を掛けることにより、100点を満点とした場合の評価点が出される。
 面接の際の評価の観点は、「態度、服装」、「明朗さ、積極性、リーダー性、後輩への指導力」、「責任感、誠実性、協調性」、「判断力、表現力」、「職務についての意欲、教育観」の5項目である(乙5)。
 (ウ) 健康診断結果
 点数化されていない。
   ウ 本件再任用選考における原告の評価点
 (ア) 原告に対する面接官3名の評価は、いずれも「E」評価(0点)であり、本件面接の点数は100点中0点であった(その詳細は後記(3))。
 (イ) また、原告に対する校長による勤務実績の評価については、被告が項目別の評価を開示しないので不明であるが(甲5)、合計点数は100点中30点であった(甲6)。
 これは、5つの評価項目のうちの少なくとも2項目に「C」評価(0点)が付けられたことを意味するが、当時のa高校の校長としてこの勤務実績評価を行ったB(以下「B」という。)は、当審における証人として、平成28年度の人事評価とかかる勤務実績評価との間に若干のずれはないかとの原告代理人の質問に対して「ないですね。」と答え、両評価をそれぞれ行った時期の間に、原告に対する評価を変えるべきと思ったような事件や事情があったという記憶もない旨答えている(なお、証人Bに関しては、同人が公務員であった際の監督官庁である被告において、尋問事項である「原告の再任用選考における校長評価の内容について」等についての尋問に同意しなかったことから(被告提出の令和3年8月2日付け「人証採否についての意見書」)、上記のとおり、原告の勤務実績の評価として30点を付けた理由の詳細等については供述されていない。)。
 (ウ) 上記(ア)及び(イ)により、本件再任用選考における原告の評価点は、200点満点中30点であった。
   エ 原告の提出した本件審査申込書について
 原告は、本件再任用選考に応募するに当たり、本件審査申込書(甲3はその写し)を提出しており、その中の「希望する職務」欄には、第1希望として小学校教諭の常時勤務、第2希望として中学校教諭の常時勤務、第3希望として特別支援学校の常時勤務を希望する旨記載した(甲3)。
 なお、本件審査申込書の末尾2行には、小さな文字で「勤務形態が複数ある職種については、第1〜第3希望まで選択することができる」との記載はあるが、本件再任用選考の募集要項にも本件審査申込書にも、本件再任用選考で希望する職務について複数の希望をする場合に、同一校種での職務しか希望できない旨の記載はない(甲2、3)。
   (3)  本件面接時の状況
   ア 本件面接の当日において、十数名の面接官が手分けして応募者の面接を行った中で、原告を面接した面接官は、C(以下「C」という。)、D(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)の3名であった。
 このうちのCは、平成28年3月29日以降、原告が福井県を相手方として申し立てた別件調停事件や別件訴訟事件に、福井県の担当者として複数回出席した。Cは、当時、福井県教育庁教育政策課の参事兼学校振興課の参事の立場で県立学校の人事に関わっていた。また、Eは、上記調停の当時、福井県教育庁学校振興課長の立場にあった。Cは、原告が被告に対する調停を申し立てた頃から、その内容等について、Eに伝えていた(証人C、証人E)。
   イ 本件面接の当日、面接が行われる直前に、面接官とは別の担当者により別室で個別面談が行われており(証人E)、原告は、その個別面談において、小学校教諭にはクラス担任の業務があることを説明され、小学校での勤務経験がない原告には、小学校でのクラス担任業務ができない旨を示唆されたため、その場において、第一希望としていた小学校教諭の常時勤務を希望しない旨を回答していた(原告本人)。
   ウ 本件面接は集団面接の形で行われ、原告と一緒に面接を受けた被面接者は4名ないし5名であった。原告が参加した面接のグループは、義務制の学校を第1志望とする受験者のグループであった。
 原告は、本件面接の際、背広を着てネクタイを着用しており、面接時の態度にも特段問題は認められず、質問に対して特に答えに窮したりしたこともなかった。
   エ 当審における証人尋問において、証人C及び同Dは、いずれも、本件面接では、原告が第1希望としていた小学校での勤務を中心とした評価を行った旨供述している(証人C、証人D)。
   オ 証人Cは、原告に対してE評価を付けた理由として以下のとおり供述している。
 (ア) 原告が面接において理論ばかり並べて経験に基づいて具体的指導例がないため、小学校や特別支援学校での指導は無理と判断したこと。
 (イ) 原告が、児童生徒の自主性や感性を軽んじた考え方で授業を行おうとしていると感じたこと。
 (ウ) 原告が自己中心的で考え方が偏っており、協調性も感じられなかったこと。
 なお、Cは、E評価が0点であることは知らなかったが、面接の評価でE評価を付けるのは極めてまれなことであるとの認識を持っている。
   カ 証人Dは、面接官として原告にE評価を付けた具体的理由については記憶がなく、希望する職種の経験、適性という観点から判断していたとの記憶であるが、原告の中学校の美術教師としての適性に相当問題があったとの具体的な認識まではなく、原告が第1希望としていた小学校の適性を特に重視して判断した旨供述している。
   キ 証人Eは、原告にE評価を付けた具体的理由についての記憶はなく、福井県の子ども達を安心してその人に任せられるか、若い教員に対してリーダーシップをとって引っ張っていけるか、という観点から、C評価を標準として、Dはやや劣り、Eは劣るとして評価した。
   ク 原告は、福井県高等学校○○連盟・高等学校教育研究会△△部会の代表理事を務め、平成28年7月30日に公益社団法人全国高等学校学校○○連盟感謝状、平成29年2月3日に福井県高等学校○○連盟功労賞、同年3月31日には福井県教育委員会表彰をそれぞれ受けている一方、懲戒処分歴は全くなかった。
 2  争点@(県教委の本件不合格決定が国家賠償法上違法か。)について
   (1)  違法性判断の枠組み
 再任用制度は、定年等により一旦退職した職員を任期を定めて新たに採用することができる制度であって、任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定めはない。また、任命権者は成績に応じた平等な取扱いをすることが求められると解されるものの(地方公務員法13条、15条参照)、採用候補者選考の合否を判断するに当たり、従前の勤務実績等をどのように評価するかについて規定する法令等の定めもない。これらによれば、採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務実績等の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられているものということができる。
 もっとも、教員の再任用制度は、定年退職者等の知識、経験等を活用することにより学校における教育の質を維持確保し、また、若手教員への知見の承継を図り、あるいは、教育活動又は教育行政等の効率的な運営を図るなどの公的な目的を有するものであると解されるものの、定年退職者等の雇用の場を確保し生活の安定を図ることをもその目的として含んでいるものと解される。
 そして、平成25年度以降、公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に60歳から65歳へと引き上げられることに伴い、無収入期間が発生しないように国家公務員の雇用と年金の接続を図るとともに、人事の新陳代謝を図り組織活力を維持しつつ職員の能力を十分活用していくことを目的として、平成25年3月26日、定年退職する国家公務員が公的年金の支給開始年齢に達するまでの間、再任用を希望する職員については原則として再任用することを内容とする閣議決定(「国家公務員の雇用と年金の接続について」。以下、この閣議決定を「平成25年閣議決定」ということがある。)がされ、これを受けて総務副大臣から地方公務員法59条及び地方自治法245条の4に基づき、定年退職する職員が再任用を希望する場合、当該職員の任命権者は、当該職員が年金支給開始年齢に達するまで、原則として常時勤務を要する職に再任用することに留意して、能力・実績に基づく人事管理を推進しつつ、地方の実情に応じて必要な措置を講ずるようにとの旨の要請がされている。
 以上のような事情を踏まえれば、再任用制度における定年退職者等の雇用の場の確保や生活の安定を図るという目的は、より重要なものになっていると解される。
 そうすると、採用候補者選考の合否の判断に当たっての県教委の裁量権は、前記のとおり広範なものであったとしても、上記の年金制度の変化等を踏まえた再任用制度の制度趣旨を考慮に入れた上で、本件不合格決定の理由が著しく不合理である場合や恣意的である場合など、本件不合格決定等の判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には、県教委による裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として、当該判断は違法と評価されるべきことになるものというべきである。
 なお、公立学校における再雇用職員採用選考又は非常勤職員採用選考等に関し、「再任用制度等において任命権者が有する上記の裁量権の範囲が、再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない」と判示した最高裁判所平成28年(受)第563号同30年7月19日第一小法廷判決の事案は、平成18年度から平成20年度に実施された再雇用職員採用選考等に関する事案であるから、平成25年閣議決定後の事案である本件において、再任用に関する任命権者である被告の裁量の範囲が一定程度狭まっていると解したとしても、上記最高裁判所の判断に反することにはならない。
   (2)  本件不合格決定の違法性判断
   ア 上記のような再任用制度の趣旨を踏まえて本件を見るに、原告には中学校及び高校での教師として相当年数の勤務経験があり、特に、前後期中等教育段階での美術教育の分野において、高い実績を上げて内外で高い評価を受けているといえる者であり、少なくとも中学校における教育について活用すべき十分な知識、経験があったものと認められる。しかるに、前記認定事実によれば、原告が本件面接に先立つ個別面談において、小学校勤務を第1希望とすることを取り消していたにもかかわらず、担当面接官の3人中2人は、原告が第1希望とした小学校での勤務を中心とした面接評価を行ったというのであり、そうであれば(もっとも、このような供述自体が多分に後付けの弁解であるにすぎない可能性もある。)、原告が第2希望とした中学校での勤務に係る面接評価は十分にされなかったものといえる。この点、被告は、当審における人証調べ後の最終盤になってからにわかに、本件審査申込書の末尾2行に小さな文字で「勤務形態が複数ある職種については、第1〜第3希望まで選択することができる」との記載があることを根拠として、第2希望以下が選択できるのは勤務形態が複数ある職種であり、原告が第2希望とすることができたのは小学校の短時間勤務の教諭であるから、それが書かれていない以上、第1希望の職種を中心に面接評価を行ったことには何ら問題はない旨を主張する(被告の令和3年11月24日付け準備書面(12))。しかしながら、上記のようなわずかな記載をもって被告主張のとおりに理解することは困難である上、本件再任用選考の募集要項や本件審査申込書等を見ても、本件再任用選考において一つの校種での職務しか希望できない旨の明示的な記載はないのであり、再任用希望者が、再任用された場合に希望する職務として複数の校種での職務を希望することは可能であったものと解される。そのため、再任用希望者が複数の校種での職務を希望した場合、その希望の全てについて再任用の適否を十分に面接評価すべきであると解され、本件再任用選考においては、原告の希望した全ての校種での職務について再任用の適否を評価すべきであったといえる。したがって、上記の点にかかる被告の主張は採用できない。
 以上によれば、中学校教諭として豊富な知識と経験を有し、特に美術教育の分野における高い業績と評価を有し、かつ、再任用において中学校の職務をも希望していた原告については、小学校での勤務のみならず中学校での勤務についての知識や経験等に関する評価を十分に行うことが必要であったというべきであるにもかかわらず、本件面接においてこれを行わなかったことについては著しく合理性を欠くというべきである。
   イ また、被告は、原告の本件面接での話は、理論のみを並べ立て、経験に基づく具体的な指導例等が出てこなかったこと、原告の話からは、児童生徒の自主性や感性を軽んじた方法で授業を行おうとする様子がうかがわれたこと、原告は自己中心的で、考え方も偏っていたこと等を指摘し、本件面接において低い評価を受けたと主張する。しかるところ、本件再任用選考においては、面接官らの中で採点基準が具体的に共有されていたことが明らかとはいえず、面接の評価がEとなる人数の割合等も明らかではないが、少なくとも面接官の一人であるCの認識においては、E評価とされる者はごく少数であることからすれば、3名の面接官がE評価、すなわち、全く点数を付けることができない状況というのは、極めて異常な状況であったと考えるほかはない。しかるに、面接官であったC、D及びEの各供述内容によっても、そのような異常な状況であったことをうかがわせる具体的な事実は何ら認められず、かえって、前記認定事実によれば、原告は、本件面接時に服装や態度に大きな問題があったとはいえず、受け答えについても、応答に窮すること等はなかったものと認められる。さらに、原告は、平成28年度の人事評価は業績評価、能力評価及び総合評価でいずれもB評価を得ており、定年退職するまで懲戒処分歴もなかったことからすれば、原告が教員として、大きな問題があったとは認められないのであって、本件面接時においてのみ、他の教員と比較して特に劣るとの評価を受けるような状態であったとも考え難い。
 以上によれば、本件面接における各面接官による評価は、本件面接時に各面接官が受けた印象による評価にすぎなかったものといわざるを得ない。そして、C及びEは、本件研修強制事件に係る別件調停事件や別件訴訟事件に被告側として関与していたというにもかかわらず、本件面接当日に総勢十数名いたという面接官のうち、寄りによってこの2名が同席して原告に対する面接を一緒に担当しているのであり、敢えてこの2名を外すといった配慮は全くされていないことをも考慮すれば、本件面接において、恣意的な評価がなされたのではないかという疑いも当然に生じるところであり、少なくとも、客観性や公平性の確保された合理性のある判断であるとは認め難い。
   ウ 一方、本件再任用選考において、a高校の当時の校長がした原告の勤務実績評価は、100点満点中の30点にすぎなかったものであるが、かかる低評価は原告の平成28年度の人事評価の結果と著しく乖離しているといわざるを得ないところ、当時の校長であったBが当審においてその理由を証人として証言することが被告により敢えて禁じられたことから、そのような乖離が生じたことの理由は明らかにされないままとなっている。しかし、証人Bの認識においても、原告に対する平成28年度の人事評価と本件再任用選考における勤務実績評価とが大きく乖離しているとの認識がなく、そのような乖離を生じさせるような事件や事情もないと供述していることからすると、県教委の何者かから当時の校長であったBに対して原告の勤務実績評価を殊更低くするよう事前の指示があったか、又は、Bにおいて県教委に対しそのような忖度をしたことにより、100点満点中30点という低評価がされたとの疑いを払拭することは困難というべきであって、かかる疑念が解消されない責任は、証人Bの証言を禁じた被告にこそあるというほかはない。あるいは、これも証人Bの証言がないので真相は不明であるが、原告が再雇用後においては小学校勤務を第1希望としていることが周知されていたために、校長のBとしても、原告の小学校教諭としての適性を重視して評価した結果、本件再雇用選考における勤務実績評価が平成28年度の人事評価に比して著しく低くなった可能性も考えられなくはないところ、たとえそのような場合であっても、原告は中学校勤務を第2希望としていたのであるから、本件面接の場合と同様、第2希望である中学校教諭としての適性を無視した評価は、著しく合理性を欠くものというほかはない。
 なお、被告は、通常の人事評価と本件再任用選考における勤務実績評価は、評価対象項目、評価基準、評価区分が異なるなどとして、原告につき上記のような評価の乖離が生じていること自体に何ら矛盾がない旨主張をするが、いかに評価対象項目に違いがあったとしても、いずれも校長という同一の立場にある同一の人物がその所属する学校の教職員としての適性を総合的に検討し判定するために用いた評価項目であることに変わりはないのであり、5段階評価の前者において全てB評価が付されているのであれば、3段階評価の後者においては多くの項目にB以上が付くのが正常であると考えられるところであって、両者の評価に何ら矛盾がないという被告の主張には何らの説得力もなく、到底採用の限りではない。
   エ 以上述べたところからすると、本件再任用選考においては、本件面接の際、原告の中学校教諭としての適性が正常に審査され、かつ、その真相は被告の責任により解明されていないものの、当時の校長による不自然かつ不可解な原告の勤務実績評価がされるのではなく、平成28年度の人事評価と矛盾しない適正な評価が正常にされていたのであれば、被告の開示した得点分布の状況(被告の令和3年5月31日付け準備書面(11)添付の別紙)に照らして、原告は十分合格可能な得点圏内に入っていたものと認められるから、本件不合格決定は、県教委による裁量権の範囲を逸脱したものとして、違法であるとの評価を免れない。
 3  争点C(原告の損害の発生及びその額)について
   (1)  本件不合格決定による経済的損害
 平成29年度福井県公立学校再任用教職員募集要項によれば、常時勤務の中学校教諭にかかる給与額は月額26万9900円であり、本件再任用選考において原告が再任用されていれば、同額の給与は見込まれたものといえる。そして、同要項における任期は1年となっているものの、再任用制度には更新制度があり、かつ、平成25年閣議決定等のとおり、年金支給開始年齢に達するまで原則として再任用されるものと考えられることからすれば、原告については、平成29年度及び同30年度の2年間、月額26万9900円の給与を得られる見込みであったといえるにもかかわらず、これが得られなくなったといえるから、その2年分である647万7600円については、原告の経済的損害であると認められる。
 なお、原告は、上記募集要項において再任用教師の年収が410万円とされていることから、その2年分である820万円をもって原告の経済的損害である旨主張するが、上記410万円という年収額は、上記の月額26万9900円という定額部分のほか、支給の有無及び金額が不確定な諸手当をも含めた概算的な金額であって、その全額が得られた蓋然性があったとまでは認めるに足りない。
   (2)  慰謝料請求について
 原告は、本件研修強制事件に関する別件調停事件や別件訴訟事件のために恣意的に教職に就く機会が奪われた旨を主張し、確かに、本件の一連の経緯からすると、そのような疑いを払拭することはできず、違法な本件不合格決定により原告が大変に悔しい思いしたことも理解できる。しかしながら、前記認定説示のとおり、本件不合格決定がされた主因としては、本件面接の直前に別の担当者によってなされた個別面談において、原告が小学校勤務の希望を取り消したにもかかわらず、本件面接において、単に小学校教諭としての適否のみが審査されたことによる結果であると認められ、面接官らが原告の上記取消しの意思を知りながら敢えて小学校教諭としての適否のみを審査したと断ずるには足りず、むしろ何らかの手違いによって、原告が小学校勤務希望を取り消したことが面接官に伝えられなかった可能性も否定できないところであり、また、これと同様に、校長による勤務実績評価が平成28年度の人事評価と不自然に乖離している理由についてもまた不明といわざるを得ないことからすると、被告に対して別件訴訟を提起するなどした原告に対する意趣返し等によって、原告を殊更不利益に取り扱ったとまでの立証が十分にされているとはいえない上、違法な本件不合格決定による原告の経済的損害に対する賠償請求が前記のとおり相当程度認容されることにより、原告の精神的苦痛も相当程度回復することが期待されることからすると、本件において慰謝料請求までを認容することが相当であるとはいえない。
   (3)  弁護士費用
 上記(1)の損害額の約1割にあたる64万円が本件と相当因果関係のある原告の損害と認められる。
   (4)  小括
 上記(1)及び(3)の合計額は711万7600円となる。なお、得られるはずであった給与に対する遅延損害金については、各支給日に発生すると考えられる(各支給日については、福井県一般職の職員等の給与に関する条例5条2項、同条例施行規則22条1項によるもので、別表「起算日」欄の起算日に対応する。)。また、弁護士費用に対する遅延損害金については、本件不合格決定をした日の翌日から発生すると考えられる。
 4  その余の争点について
 その余の争点である争点A(県教委が、平成29年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書の提出を促さなかった行為が国家賠償法上違法か。)及び争点B(県教委が、平成30年度臨時講師等の採用において、福井県公立学校講師等登録申込書を提出した原告と面接しなかった行為が国家賠償法上違法か。)は、第二次的請求に関する争点であるが、仮にこれらの点について原告の主張が認められたとしても、第一次的請求により認められる損害額を超える損害が発生したものとは考え難いことからすれば、これらの争点については、いずれも判断するまでもないというべきであって、原告の第二次的請求は認められない。
第4  結論
 以上のとおりであって、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
 福井地方裁判所民事部
 (裁判長裁判官 上杉英司 裁判官 橋本悠子 裁判官 亀井奨之)