大阪府教育委員会が実施する「授業アンケート」の杜撰な実態
大阪府教育委員会ウェブサイトによれば、大阪府立学校については、地方公務員法第6条第1項に基づいて定める「大阪府立学校の職員の評価・育成システムの実施に関する規則」に基づいて、授業アンケートが実施されています。
大阪府立学校の職員の評価・育成システムの実施に関する規則6条では、「職員の評価(以下「評価」という。)は、毎年1回定期に実施する。ただし、定期に評価することができない職員については、随時評価を行うことができる。」とし、4項において「前項の授業に関する評価は、生徒又は保護者による評価を踏まえるものとする。」としています。
この授業アンケートについては、制度開始当初から多くの批判・非難が寄せられてきましたが、大阪府教育委員会は何ら抜本的な対応をとることなく現在に至っています。
このページで紹介する事例は、授業アンケートがいかに杜撰に実施され、アンケート結果が捏造・偽造されているのかを示すものです。
東住吉総合高校での事例
令和3年度の流れ
令和3年度当時、東住吉総合高校の教諭であったA先生は、次のようなアンケート結果を教頭から手渡されました。

これを見る限り、A先生の授業アンケート結果は、おおむね各項目において学校平均を微妙に下回っている状況ですが、A先生はこの結果について強い違和感を持ち、教頭と以下のような会話をしました。
A教諭:「私が受け持っている生徒数は126人ですが、このアンケートには101人分しか載ってないからおかしいのではないか?」
教頭:「休んだ生徒については載ってないんや!」
A教諭:「休んだ生徒については、例年、後日追加でアンケートをさせていたように記憶しているが、今年はそういう運用ではないのか?」
教頭:「だったら、追加した分も含めてその人数や!」
A教諭:「休んだ生徒を追加しても25人分もアンケートが取れてないのはおかしいのではないか? そんなに休む事態が想定できないが」
教頭:「何もおかしくない!」
A教諭:「おかしいかどうかを含めて検証したいので、教科別の内訳を出して欲しい」
教頭:「そんなもんは無い!」
A教諭:「無いことはあり得ない。授業アンケートの分析に使うために、前任校ではもらっていたので、存在は確認している。」
教頭:「うちの学校では出してないんや!」
A教諭:「それはあなたが判断することではなくて校長が判断することではないのか? 校長に聞いてから返答して欲しい」
なお、A教諭が主張する「内訳」とは、次のようなもので、科目ごとのアンケート回答者数の割合を示すものです。

この表では、各項目について、何%の生徒が回答したのかを知ることができます。(実際は、受講者数(母数)が分かっているので、パーセンテージをかけることで人数そのものを知ることもできます。)
この表は、アンケート結果作成にあたって同時に必ず作成されるものであることをA教諭は知っていましたから、前任校ではこれを必ず入手していました。
後日、A教諭は、教頭に対して、授業アンケートに関する質問がどのような状況であるのかを尋ねました。
A教諭:「先日お願いしたアンケートの内訳はどうなりましたか?」
教頭:「校長に聞いたら、うちの学校では出してないって言うてた!!」
A教諭:「今まで出してたかどうかではなくて、今回も出さないのかという質問ですが」
教頭:「今回も出せへんよ!」
A教諭:「私は出すように希望しますが、それでも出さないんですか?」
教頭:「校長がそう言うてる!」
A教諭は教頭のこの回答を聞き、校長と教頭が共謀して、何か都合の悪いことを隠蔽しようとしていると直感しました。
 北村 洋介 校長(当時) |
 岡本 敦子 教頭(当時) |
令和6年度の流れ
授業アンケートの公文書としての保存年限が3年間であったことから、A教諭は、令和6年度のうちには上記授業アンケートの実態を調査する必要があると考え、大阪府教育委員会に対して個人情報開示請求を実施しました。
個人情報開示請求によって、生徒が授業アンケートのために塗りつぶしたマークシートそのものを入手し、その内容と突合することで、授業アンケートの内容が真実であるのか否かを解明できます。(なお、大阪府教育委員会に個人情報開示請求をすると、それを理由に人事上の不利益を受ける事例があり、係争(裁判)になっているようです。詳細は北村洋介氏(大阪公立大学勤務)に聞くと良いと思われます。)
しかしながら、この個人情報開示請求を通じての調査は難航を極めました。
令和6年4月に個人情報開示請求をしたものの、当初に開示された開示されたマークシートの枚数と、アンケート結果の数が合いません。
A教諭:「まず、そもそも、生徒数とアンケートの枚数が合っていません。本来の生徒数は126人で、マークシートの集計は101人なのに、出てきたマークシートが163枚あるのはどういうことですか?」
教育庁教職員企画課 担当 篠原那奈(元商工労働部金融課主査):「学校から出てきたのを出してるだけなので(笑)」
A教諭:「物理的に考えておかしいと思わないんですか?」
篠原:「そこまで見てないので(笑)」
A教諭:「アンケートを人事評価に活用しろと言ってるくせに、まともに集計もできず、まともに情報開示もできないんですか?」
篠原:「精査します(笑)」
なんと、令和3年度前期の授業アンケート集計結果は101人分なのに、開示されたマークシートは163枚もあったのです。当然、集計結果とも全く合致しません。
令和3年度前期の他、令和3年度後期、令和4年度前期、令和4年度後期も同時に開示されましたが、どれひとつとして枚数と結果が一致したものはありませんでした。
その後、A教諭は教職員企画課に対し、何度も「精査」の進捗状況を確認します。
A教諭:「精査にはいつまでかかるんですか?」
篠原:「9月中には出てくると思うんですけどね(笑)」
A教諭:「もう9月は終わりましたが、いつまでかかるんですか?」
篠原:「9月中に出てくるとは言ってないんですけどね(笑)」
このような調子で、結局、全てのマークシートが「精査」されて出てきたのは12月になってからでした。
しかも、A教諭には、「正しい集計結果」として、「訂正」された新しい集計結果が配付されたのです。

これを見ると明らかに、@集計されたアンケート対象の枚数が違う、A回答の内訳も全然違う、BA教諭の平均の値が違う、C学校平均の値が違う、など、何もかもが違っています。
A教諭のアンケート結果は、「訂正前」では、おおむね各項目において学校平均を微妙に下回っている状況ですが、「訂正後」では、むしろ逆に各項目において学校平均よりも高い位置にいます。
また、当初開示されたマークシート163枚のうち、「本来は不要だった」とされるマークシートが54枚あり、逆に、「抜けていた」とされるマークシートが8枚追加されました。その結果、集計対象人数が117人になった(つまり、本来の欠席者は9名だった)ということになります。
しかし、「本来は不要だった」とされるマークシートにも生徒による評価は記載されていますし、果たして「抜けていた」というマークシートは一体どこから出てきたのでしょうか。これでは、本当に「訂正」された新しい集計結果が正しいのかどうかすらも現段階において判断できません。
大阪府では、「評価・育成システム」の結果如何によって勤勉手当の金額に差をつけており、規則では「授業に関する評価は、生徒又は保護者による評価を踏まえるものとする。」としていますから、そもそもその前提であるアンケートが正しく行なわれていないならば、「評価・育成システム」の結果も正しくない上、勤勉手当の金額も正しくないと言えるでしょう。
逆に言えば、このようなアンケート結果の不適正な集計が発覚しても「評価・育成システム」の結果が全く変更されないならば、「授業に関する評価は、生徒又は保護者による評価を踏まえるものとする。」との規定に反していることになりますから、いずれにせよ制度どおりの運用がなされていないことになります。
大阪府教育委員会の説明によれば、このような重大事象について、外部に公表する予定が全く無く、「評価・育成システム」の再評価も実施しないとのことですので、まさに都合の悪い事実を隠蔽しようとする組織体制の表れであるように考えられます。
こうした不当・違法な行為は追及していかなければなりません。
 雑賀 文彦 校長(令和5年度) |
 林 恵史 校長(現校長) |